マグネシウム(苦土)とは
「苦土(くど)」とはマグネシウムの化合物、酸化マグネシウムの別称です。その名前の由来は「苦い味」にあります。マグネシウムは、窒素・リン酸・カリウムの「三大栄養素」に次いで大事な植物に欠かせない栄養成分とされています。その理由は、次のような役割があるためです。
マグネシウムは、光合成ででんぷんや糖分といった栄養を作り出すために欠かせない葉緑素の材料となるものです。そのため、マグネシウムが欠乏すると葉緑素が減少して葉が黄色っぽく変化し、光合成能力が低下してしまうことになります。マグネシウムは植物の葉や果実に多く含まれており、成長の中期~後期にかけて、特に果実が肥大していく時期に欠乏症が発生しやすいとされています。マグネシウム不足は植物の成長を遅らせ、生育全体の活力低下や実の肥大不良を引き起こすこともあり、収量や品質の低下につながることもあります。
しかし、土壌中のマグネシウムは、土壌が酸性に傾いた場合に土壌粒子への吸着力が弱くなり、雨や潅水時に水と一緒に流亡してしまうという性質もあり、肥料施肥の時点でしっかり含まれていても大事な時期に不足することがあります。また、カリウムとカルシウムと拮抗関係にあるため、土に十分なマグネシウムがあっても、根の吸収経路を奪い合い植物が根から吸収できないことも考えられます。
植物の元気がない…その原因はマグネシウム欠乏かも?
マグネシウムは、三大必須栄養素の窒素・リン酸・カリなどと比べて見落とされがちですが、実は植物の健やかな成長に欠かせない大切な栄養素のひとつです。というのも、マグネシウムは、植物が光合成を行うための「葉緑素(クロロフィル)」の中心成分だからです。マグネシウムが不足してしまうと、葉が黄変する「葉脈間黄化(クロロシス)」が起こります。
下画像は、北海道立総合研究機構で取り上げられている、トマトのマグネシウム欠乏症の進行の様子をまとめたものです。このように、葉脈を残し、葉全体が全体的に黄色っぽく変化し、重度になると白化して枯れてしまうこともあります。
なお、マグネシウム欠乏と似たような黄化の症状が現れる生理障害に、鉄欠乏やマンガン過剰があります。症状の地帯としてはマグネシウムは植物の体内を移動しやすいため、欠乏症は古い下葉や着果している付近の葉から現れやすく、鉄欠乏やマンガン過剰は新しい葉から現れやすいと考えられています。
また、マグネシウムはタンパク質合成やリン酸代謝、糖の移動といった生命活動全般の酵素反応の活性化にも関わる栄養素です。そのため、マグネシウム欠乏は、根の成長遅延や花芽形成の不良といった問題も起こりやすくなります。
マグネシウムは植物の光合成や代謝に関わるため、不足してしまうと「着色不良」「糖度低下」「実の付きが悪い」「元気がない」などの影響が現れてしまうことになります。
マグネシウム欠乏症が発生しやすい条件
一般に健全土壌のマグネシウムの含量は乾物100gあたり15mg(15mg/100g)で、これを下回ると、作物に欠乏症状が出るとされています。施用量が足りていても、砂質土壌や酸性に傾いた土壌では、マグネシウムが土壌にとどまりにくく、潅水や雨などで流亡しやすいため、15mg/100gになるように施肥設計しても、このような土壌環境ではマグネシウムの効果が得られない可能性があります。また、カリとカルシウムと拮抗関係であることが知られており、土壌にカリやカルシウムが過剰にあると、根からのマグネシウム吸収が抑制されます。これは肥料や石灰の過剰施用によって引き起こされます。
マグネシウムの要求量の高い作物としては、油脂作物ではダイズやナタネ、果菜類ではトマト・キュウリ・メロン、果樹ではブドウやミカン・リンゴ・ナシなどで、欠乏症が発生しやすい傾向があるようです。
栽培管理では、土壌消毒や接木栽培、強い整枝などによって、欠乏症を発生させることがわることが知られています。
マグネシウム欠乏対策におすすめの葉面散布
マグネシウム欠乏は植物の生育に大きな影響を与えます。特に、一度黄化した葉は、元の葉色に戻ることはないとされています。これは、細胞の葉緑素自体が分解・失われており、再度葉緑素を作り直す能力がほとんどなくなってしまうからです。そのため、マグネシウム欠乏は、早期発見・早期対策によって進行を防ぐとともに、そもそもならないように予防することがとても大事なのです。
そこでおすすめなのが、葉面散布です。葉面散布がマグネシウム欠乏対策に効果的な理由は下記の通りです。
- 即効性が高い
- 葉から直接吸収できる
- 土壌条件に左右されにくい
- 根の活力が低下していても有効
- 生育ステージや環境に応じて柔軟に対応可能
- 慢性的な欠乏の予防にも役立つ
葉面散布は葉の表面から直接マグネシウムを吸収できるため、土壌を経由せず迅速に養分を補給することが可能です。効果が現れるまでの時間に、土壌散布と葉面散布では大きな差が生まれます。また、土壌のpHや養分バランスの崩れた土壌環境では根からの吸収力も落ちてしまいますが、葉からの吸収なら安定して補給させることができます。
生育状況や環境に合わせた管理ができるのも葉面散布をおすすめするポイントです。特に果実肥大期や光合成が盛んになる夏季には、品質向上にも役立つ重要な管理手法となります。ただし、葉面散布は即効性が高い反面、持続効果には欠けるため、1~2週間に1度など、こまめに繰り返し施用することが重要です。
関連コラム:作物の生育を助ける葉面散布|メリットを徹底解説
マグネシウムを葉面散布するときの注意点
マグネシウム(苦土)の葉面散布には多くのメリットがあります。一方で、短所もあるため、その点を理解して活用することが大事です。しかし、葉面散布はいくつかの点に注意すれば健全な植物の生育環境を整えるのにとても効果的な方法です。ここで、注意点を一緒にチェックしておきましょう。
効果の持続時間が短い
マグネシウムの葉面散布は、吸収が早く即効性が高い反面、持続的な効果が期待しにくいというデメリットがあります。葉面散布は施肥後すぐに吸収がはじまりますが、葉の表面に成分が長期間とどまることができないため、その後数日でゆるやかに養分供給は減少し、効果も薄れていきます。そのため、マグネシウムを葉面散布で補給するためには、1回の散布だけでなく7~14日ごとに数回繰り返し散布することが推奨されています。「1度葉面散布したから大丈夫」ということもなく、何度も繰り返し与えてあげることが大事です。
マグネシウムの栄養分の吸収量は土壌散布の方が多い
葉面散布された苦土は、散布後すぐに葉の表面から吸収が始まりますが、吸収率は約1時間で全体の2%程度とされています。実の充実や生育全体の改善のため、長期的には根からマグネシウムが吸収もできるよう、土壌改良や土壌施肥を併せて行うことが望ましいです。根からの場合は大量の栄養素を吸収でき、長期間にわたって安定的に供給することができるようになります。葉面散布は応急的な補給や、即効性が求められる場面で効果的なので、使い分けられるように違いを理解しておきましょう。
葉面散布を行う時間帯に気を付ける
葉面散布は濃度や気象条件に注意しないと、葉の表面がダメージを受けて変色したり枯れてしまったりという「葉焼け」を引き起こすリスクがあります。とくに高温や直射日光の強い時間帯に高濃度の肥料液を散布すると、葉が熱ストレスや化学的刺激を受けやすくなります。また、若葉は肥料の吸収が盛んなため、より葉焼けリスクが高まることがあります。これを防ぐためには、適切な希釈濃度で散布した肥料を、朝や夕方など涼しい時間帯に行うことが重要です。
また、散布後に雨が降ると、せっかくの肥料成分が葉から流れ落ちてしまい、十分な効果が得られなくなります。風の強い日も均一に散布できなくなってしまうため、天気予報を事前にしっかり確認し、最適なタイミングで作業を行うことが大切です。
希釈倍率を守る
葉面散布剤を散布する際は必ず指定された希釈倍率を守ることがとても重要です。希釈倍率を守らず、原液に近い高濃度の状態で散布すると、薬害で葉の変色や枯れの原因となってしまいます。低濃度でも1~2週間に1回など根気強く何度も繰り返すことが、植物の元気を取り戻すには大事です。焦って一度に高濃度で行わず、ラベルや説明書の指示通りの濃度で、数回に分けて行うようにしてください。
葉の裏面にも散布する
葉は表面からよりも裏面からの吸収が盛んなことが知られています。葉面散布を実施する場合は、表面だけでなく裏面にもしっかり希釈液がかかるように作業をすると良いでしょう。
マグネシウムの葉面散布で強く元気な栽培を
植物の生育を支える上で、マグネシウムは決して見過ごしてはいけない重要な栄養素です。光合成に欠かせない成分であるにもかかわらず、その欠乏は気づかれにくく、気づいたときには収量や品質に大きな影響を与えてしまっていることもあります。
そうした問題への対策として、「葉面散布」はとても有効な手段です。即効性があり、土壌環境に左右されにくいため、急な症状改善や予防として重宝されます。適切な葉面散布剤を選び、希釈倍率や散布条件に配慮しながら行ってぜひ効果を実感してみてください。
参考資料:
・マグネシウム(苦土)欠乏(北海道立総合研究機構)
コラム著者
セイコーステラ 代表取締役 武藤 俊平
株式会社セイコーステラ 代表取締役。農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。