作物にとってのマグネシウムとは?
作物の必須三大栄養素は、窒素・リン・カリですが、マグネシウムは次に大切とされる「中量要素」に位置づけられています。その理由は、マグネシウムが光合成を行うための中心的な成分である「葉緑素(クロロフィル)」や酵素を構成する元素であり、さらに炭水化物やリン酸の代謝に関係する多くの酵素の活性化、リン酸の吸収や体内移動に関与しているからです。
マグネシウムの役割
ぶどうのマグネシウムが不足すると
マグネシウムが不足すると葉緑素の減少をもたらし、葉脈間の緑色が退色する「クロロシス」と呼ばれる症状が現れます。マグネシウムは植物の体内を移動しやすいため、この症状はまず葉の縁の一部から発生し、その後退色は中央部に拡大しトラのような模様となります。さらに症状が進行すると葉全体が黄化して落葉することもあります。クロロシスによって光合成能力が低下し、植物の成長が思うように進まなくなります。また、炭水化物の生産能力が落ちて、果実の着色不良とともに糖度低下を引き起こします。
マグネシウムが欠乏すると
・クロロシスが発生し光合成能力が低下
・炭水化物の生産能力が低下
・着色不良や糖度不良
ぶどう栽培においてマグネシウムが不足する原因
ぶどうの樹種や樹齢、土壌環境などによって施肥基準は異なりますが、マグネシウムの施肥量は10a(約1反)あたり40~80kg程度とされています。マグネシウム欠乏が発生しやすい果樹であるぶどうですが、三大栄養素である窒素・リン・カリや、酸性土壌を改良するカルシウム(石灰)に比べて、マグネシウムはあまり注目されてこなかったためか、マグネシウムは不足している畑が多くあるのではないかという指摘があります。
また、酸性土壌は土中のマグネシウムが土壌コロイドに保持されにくく流亡するため、欠乏症が発生しやすい環境となります。さらに、カリや交換性カルシウムが過剰な土壌では、これらの拮抗作用によってマグネシウムの吸収が妨げられることがあります。カルシウムとマグネシウムは共に、元素周期表の第二属に属するアルカリ土類金属で性質が近いため、根の細胞膜にある受容体に関して競争関係が発生するとされています。
マグネシウムが不足する原因
・単純に施肥量が不足している
・施肥量は足りているがマグネシウムが吸収できない
└ 土壌の酸性化でマグネシウムが流亡している
└ カリウムやカルシウムの過剰で拮抗作用が生じている
ぶどうのマグネシウムの欠乏症状と見分け方
ぶどうのマグネシウム欠乏症は、早期発見と早期対応によって症状が回復することもありますが、対応が遅いと早期落葉を引き起こして生育に悪影響を及ぼします。適切な対応をするためにも、ここで、ぶどうのマグネシウム欠乏の症状や進行の様子、他の生理障害との症状の違いをチェックしておきましょう。
ぶどうのマグネシウム欠乏症状
ぶどうのマグネシウム欠乏症は、葉脈だけ緑色を残して葉脈間が黄色くなる「クロロシス(トラ葉)」が現れるのが特徴です。これはマグネシウムが葉緑素の構成元素なためで、不足すると葉緑素が作れなくなって葉の緑色が失われるからです。マグネシウムは植物体内で移動しやすく、光合成効率の高い若い葉へ優先的に転流されるため、ブドウの生長が旺盛な場合に、栄養分が生長点の若い葉へ供給されるため欠乏症状はまず古い下葉や果実近くの葉から発生しやすいと考えられています。
マグネシウム欠乏症状が進行すると、黄化はモザイク状に上部の葉へも広がり、葉全体が黄色に変化し、葉脈は薄紅色に変わっていきます。重度になると葉の縁が枯れ込んで褐色に変化し、最終的には早期落葉を引き起こすこともあります。一度、クロロシスが発生した葉は、光合成能力と炭水化物の合成能力を失ってしまい回復が難しくなってしまうため、早期発見と早期対応がとても重要になります。
ぶどうのマグネシウム欠乏症状の特徴
・葉緑素の形成が阻害されるため葉脈間が黄化する
・マグネシウムは植物体内を移動しやすいため古い葉から発生する
・果実の近くの葉に症状がでやすい
ほかの症状とマグネシウム欠乏の見分け方
マグネシウム欠乏症は、他の養分欠乏や病害と症状が似ている点があります。下記は島根県が公表しているハウスブドウ(デラウェア)の無機成分の欠乏症状を参考にまとめた表です。ブドウの品種によって症状が異なるかもしれませんが、参照情報としてご利用いただければと思います。
欠乏要素 | 主な発生部位 | 主な症状の特徴 |
---|---|---|
窒素 | 下位葉 | 葉が淡黄色になり、新梢の伸長が悪い。 |
カリ | 葉の縁 葉先 |
葉縁から黄変、進行すると褐変し落葉。果軸が褐変し、果粒が脱粒することも。 |
マグネシウム | 下位葉(古い葉) 果実付近の葉 |
葉脈間が黄色くなり(トラ葉)、葉脈は緑色のまま残る。進行すると葉が早期に落葉。 |
マンガン | 葉全体 (葉位問わず) |
葉脈間が黄化し、ゴマシオ状の斑点が現れる。‘デラウェア’では果房に着色障害。 |
ホウ素 | 新梢 果粒中心部 |
花冠が離れず花振るいを助長する。果粒中心部が褐変(あん入り)、新梢の節間が短くなる。 |
このように、それぞれの欠乏症状は似ているようでもわずかに症状の現れ方が違います。また、栄養素の不足ではなくべと病などの病原菌による感染症によっても葉の黄化が起こることがあるため、判断する際は注意してください。
ぶどうのマグネシウム欠乏を特に注意したい時期
ぶどうのマグネシウム欠乏で特に注意が必要なのは、果実の肥大期から成熟期です。この時期は果実や新梢の成長が活発になり、植物体内でのマグネシウム需要が急激に高まるため、土壌中の供給が追いつかないと欠乏症状が現れやすくなります。また、新梢の伸長が盛んな時期や、若い樹、勢いの強い品種では、マグネシウムの需要がさらに高まるため注意が必要です。
ぶどうのマグネシウム欠乏には「葉面散布」が効果的?その理由やメリット
ぶどうのマグネシウム欠乏が疑われる場合や予防におすすめなのが、マグネシウムやマグネシウムを含む肥料の「葉面散布」です。葉面散布はその名のとおり葉に肥料を散布することで、農園では細霧が出るタイプのノズルがついた噴霧器、家庭菜園ではスプレーなどで行います。噴霧器について、詳しくは「農業には欠かせない噴霧器|おすすめはどのタイプ?」をご覧ください。
葉面散布は土壌施肥に比べて速効性があるのが特徴です。土壌のpHや塩類濃度、土壌中のマグネシウム不足やカリウム・カルシウムの過剰による吸収阻害などで根からの吸収が難しい状況でも、葉から直接マグネシウムを補給できるため、欠乏症状の改善が早く期待できます。特に果実の肥大期や着色期に起こりやすい「トラ葉」などの症状には、早期の葉面散布が症状の進行を抑え、樹体の健全な維持にも役立つことが岡山県の研究でも確認されています。
また、長野県果樹試験場の技術レポートによれば、マグネシウム欠乏症の発生の報告が多い「ナガノパープル」において、水溶性マグネシウムを10%含有する葉面散布肥料を、満開後10日以降の摘粒初期から2週間おきに5回施用したところ発生を低減する効果があったと報告されています。欠乏症の発生確認後の葉面散布であっても、発生低減や進展を抑制する効果が見られたとのことです。
ぶどうは根が深く広がるため、土壌肥料による補給に時間がかかってしまうこともあります。葉面散布は、まさにぶどうのマグネシウム欠乏対策にうってつけの手段なのです。ぶどうのマグネシウム肥料の葉面散布には、下記のようなメリットがあります。
マグネシウムの葉面散布のメリット
・土壌施用に比べて速効性がある
・欠乏症状が出ている果樹にピンポイント施用ができる
・農薬と混用可能な資材が多く施用を省力化できる(資材によるため使用時はラベルなどを確認する)
・葉面散布について、詳しくは「作物の生育を助ける葉面散布|メリットを徹底解説」でもご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
マグネシウム含有のおすすめ肥料|Biosもろみ もろみM
マグネシウム含有肥料でおすすめなのが、BioSもろみ もろみMです。水溶性マグネシウムが6.0%含まれており、ぶどうのマグネシウム欠乏対策に効果が期待できます。キレート作用のあるクエン酸を含んでいる資材で、土壌の養分を植物が吸収しやすい形にサポートします。マンガンやアミノ酸も豊富に含んでおり、特に近年の高温障害対策に実績があります。
ぶどうのマグネシウムの葉面散布で注意したいポイント
ぶどうの葉面散布は、マグネシウムなどの必要な栄養素をスピーディーに吸収させたい場合にとても有効な手段ですが、誤ってしまうと葉焼けが起こってしまったり思ったような効果が得られなかったりということもあります。安全に行うために、次の4つのポイントを抑えておきましょう。
散布する時間帯に注意する
高温時や直射日光下での葉面散布は薬害(葉焼け)を引き起こすリスクが高まるため、早朝や夕方の涼しい時間帯に実施することが重要です。特に夏場は気温上昇前の朝や、日没前の穏やかな時間を選びましょう。葉面が乾いている状態で散布すると吸収効率も高まります。
散布濃度は必ず守り、心配な場合は薄めからスタート
希釈倍率や濃度管理は最も重要なポイントです。濃すぎると薬害、薄すぎると効果不足となってしまいます。初回は推奨濃度の下限から開始し、植物の反応を見ながら調整すると、葉焼けのリスクも軽減されます。
散布時の気象条件を確認する
強風時や湿度が極端に低いときの散布は避けた方がよいでしょう。風が強いと薬液が飛散し、効果が落ちるだけでなく、周辺作物や環境への影響も懸念されます。理想は無風で、湿度60~80%程度のときです。また、葉面散布の効果が薄れないよう、散布後24時間以内に雨が予想される場合は、散布を延期するのが望ましいです。事前に天気予報はチェックしておきましょう。
他の農薬や肥料との混用に注意
マグネシウムの葉面散布は、他の農薬や肥料と併用しやすいというメリットがあります。しかし、リン酸系肥料やカルシウム剤、アルカリ性農薬など、一部の農薬や肥料と混合すると化学反応が起きてしまい、ぶどうの生育に悪影響が現れてしまう可能性があります。どうしても併用したい場合はラベルなどを確認の上、事前に少量で混用テストを行うことをおすすめします。また、散布間隔や順序にも気をつけると良いでしょう。
マグネシウム葉面散布でぶどうの健やかな生育を実現しよう
このコラムでは、ぶどうがマグネシウム不足だった場合に早期発見と迅速な対策ができるよう、また、マグネシウム不足を予防できるよう、具体的な症状や予防・対策方法、注意点について解説しました。
ぶどうはマグネシウム不足になりやすい植物のひとつで、高品質なブドウ栽培にはマグネシウム対策が必須です。葉面散布は、速やかにマグネシウムを補給できる効果的な方法で、症状が現れている場合でも早期なら解消できることがさまざまな研究から分かっています。
葉面散布の効果を高めるには、希釈倍率や散布時期、気象条件などを守ることが重要です。また、土壌管理や施肥バランスも併せて見直すことで、ぶどうを長期に渡って健全に栽培することができるでしょう。このコラムを、健やかなブドウ栽培のお役に立てていただければ幸いです。
参考資料:
・ブドウのマグネシウム欠乏症に対するマグネシウム含有葉面散布肥料の効果(日本土壌肥料学雑誌)
・マグネシウム葉面散布による「ピオーネ」休眠枝のデンプン低下抑制効果(岡山県)
・環境保全のための施肥技術(山梨県)