台風・強風時に予想されるビニールハウスの被害
農研機構が明らかにしたビニールハウスの主な被害
引用文献:現代農業2021年11月号 ※弊社製品と農研機構の研究成果には関連性はありません
ハウスの変形・転倒
風上側のハウスに強い風が当たると、室内側にハウスを押す力(正圧)がはたらきます。ちょうど私たちが傘をさしている時に風で布傘やビニール傘がグイグイと押されるのと同じ原理です。その正圧の力がパイプの金属の強度を超えた時にパイプがぐにゃりと折れ曲がることでハウスが変形・転倒します。
ハウスの浮き上がり
風上側のハウスの屋根で風がジャンプすることを「剥離」と呼びます。剥離した風は風下側のハウスの屋根の上を吹き抜けますが、その際に空気は渦を巻きます。渦を巻いている空間ではハウスを引っ張る力(負圧)がはたらきますので、ハウスが浮き上がります。
ハウスの陥没
剥離した風は上下に変動するので、瞬間的に風下側のハウスの屋根に落ちることがあります。これを「再付着」と呼びます。正圧ですので屋根が陥没します。複数のハウスが並んでいる場所で周囲のハウスと異なる屋根の陥没がある場合はこの現象が疑われます。
ビニールの破損
強風によって飛ばされてきた障害物が当たって破損する場合やビニールのバタつきによってビニールに穴があきます。
台風・強風時の被害を抑える事前の対策
ハウスの周囲の物を片付ける
ハウスの周囲に物が置いてあると強風で飛ばされた物がビニールの破損に繋がる恐れがあるのと同時に近隣に飛ばされることによる被害も想定されます。事前に周囲を見回りし、飛ばされそうな物は可能な限り倉庫等に移動しておきましょう。
ハウスへの風の吹き込み防止
外部からの風の吹き込みはハウスの浮き上がりを誘発し倒壊に繋がることがあります。また強風によるビニールのバタつきはビニールの破損の原因となります。スプリングやパッカーを見直し、バタつきがないように調整しましょう。
ビニールを取り外す
大型で強い台風が襲来する場合、最大瞬間風速22~27m/s程度までがビニールハウスの耐えられる風速の目安だと言われています。そのため、事前にビニールを全て取り外すことも選択肢の一つです。骨組みだけであればハウスの変形や倒壊を大幅に避けることが可能です。
台風・強風時の被害を抑えるビニールハウスの補強方法
タイバーの設置
前々章で記載した「ハウスの陥没」を防止することができます。アーチパイプ4本おきに、肩部から天井の1/4の位置にタイバー(T型)を取り付けることで風への耐力が6%程度向上します。本コラムには関係ありませんが、雪への耐力は43%程度向上するので、風害と雪害の両方を対策されたい方にはおすすめです。Xタイバー(X型)という補強方法もありますのでコストやご予算に合わせて選択してみてはいかがでしょうか。
側面の補強
φ48.6mmの単管パイプを肩部の奥行方向に固定、地中に打ち込み、それぞれを自在クランプで固定します。支柱になるのでハウスの骨組みの耐久アップが期待できます。
機械の点検
各種機械の状態を事前に点検しましょう。機械の中でも燃料タンクを重点的に点検することが大切です。しっかりと固定できているか、燃料コックはしまっているか等を確認しましょう。
防風ネットの設置
妻部分の近くの3スパンに防風ネットを張ることで被覆資材の破損を防止することができます。また風上に防風ネットの柵を設置することで、風圧を軽減する効果が期待できます。この時、柵の高さはハウスの屋根よりも高くすることがポイントです。
台風・強風が通過した後の対応
ハウスへの台風被害が発生した際の保険として、農業保険(農業共済制度・収入保険制度)や民間保険会社などがあります。被災の認定を受けるためには証拠となる被害写真が必要な場合が多いので、台風・強風が通過した後は早急に施設を見回りし、被害写真を撮影しておきましょう。また施設周辺が水で溢れている場合は排水しましょう。作物に泥はねがある場合は動噴で洗い流し、病原菌が侵入する可能性があるので早めの薬剤散布を行います。台風通過後の作業に無理は禁物ですが、早急な対応が求められますので一つ一つクリアしていくことが大切です。
知っておきたい国の補助事業について
ビニールハウスの補強は高額な出費となります。その補助にベストマッチした補助金があるのはご存じでしょうか。「園芸産地における事業継続強化対策」という補助金です。国は日本国内の農業用ハウス面積の約4割の1万8,000haを強化したいという達成目標を掲げています。この補助金の最大のメリットは半額もの補助が出ることです。以下の表の通り、補助を受けるための要件は事業継続計画の検討及び策定などが必要となります。
本事業の実施期間は令和3年度から令和7年度までの5年間です。まだ間に合いますのでご興味ある方は市町村や農業協同組合(JA)にお問い合わせしてみてはよろしいかと思います。
補助を 受けるための要件 |
1.事業継続計画の検討及び策定、⾮常時の協⼒体制整備 2.事業継続計画の実践 (1)⾃⼒施⼯等の技能習得、災害復旧の実証 (2)既存ハウスの補強等の被害防⽌対策 |
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補助対象となる ハウス補強や 保守管理の例 |
<補強> ① 筋交いや方丈による補強 ② タイバーや X 型の斜材による補強 ③ 根がらみによる補強 ④ 中柱による補強 ⑤ 妻面等へのパイプの追加 ⑥ 引っ張り資材、支え棒の追加 ⑦ 防風のためのネット等の設置 ⑧ 融雪装置※1の導入(大雪対策) ⑨ 加温装置※1の導入(大雪対策) ⑩非常用電源※1,2の導入(停電対策) ⑪防水シートの設置 ※1 既存の装置の更新は対象外 ※2 共同利用を必須とする |
<保守管理> ① 老朽化した留め金具の交換 ② パイプのサビ取り、サビ止め ③ フィルム破れのテープによる補修 ※ 既存のフィルムの張り替えや パイプ等の交換は対象外 ※ 台風や大雪の前に切断した フィルムの復旧は対象外 |
ハウスの台風や強風対策におすすめの換気扇|空動扇/空動扇SOLAR
ハウス専用の全自動温度調節換気扇です。ハウスの暑さ対策がメインですが、サブ的な効果で台風対策としての効果を発揮します。
台風・強風の日には空動扇のファンは最大で毎分1300回転します。ハウス内の空気を素早く外へ放出する影響でハウス内の気圧がさがり、ビニールとパイプが強く密着。浮き立ちを防止し裂傷、倒壊、破損といった被害を軽減します(※台風が来ると分かった際はあらかじめ換気弁を全開にしておくことをおすすめします)。無電源で動くため停電時にも機能しなくなることがありません。台風・強風時において空動扇を設置していないハウスに比べて壊れにくいという事例が報告されています。また、空動扇は無電源で動作するので停電時でも動作し続けます。
実際に導入されたお客様の声はこちら:
・8℃下がった!?空動扇はハウス強度を落としません!|磯川さんのコーヒー農園
・ハウス内が涼しくなった!空動扇SOLARの効果を実感|苺絵
・夏場のハウス内温度が低下!湿度対策や耐久性向上にも効果を実感
必要な対策をしてビニールハウスを守りましょう
近年、大型で強い台風が毎年のように日本列島に襲来し、パイプハウスや温室ハウスに被害を及ぼすことが増えてきています。本コラムを参考に大切なビニールハウスを守ることにお役立ていただけますと幸いです。
コラム著者
満岡 雄
2012年に玉川大学農学部生物資源学科を卒業。種苗会社を経てセイコーエコロジアの技術営業として活動中。全国の生産者の皆様から日々勉強させていただき農作業に役立つ資材&情報&コラムを発信しています。好きなことは食べること、植物栽培、アコースティックギター。Xを更新していますのでぜひご覧ください。