コラム
トマトを根腐れ病から守れ!根の元気を奪う糸状菌の対策について
公開日2022.03.03
更新日2022.03.03

トマトを根腐れ病から守れ!根の元気を奪う糸状菌の対策について

地上部では顕著な症状を見つけにくいため、発見が遅れやすいトマトの根腐れ病。根は栄養素・酸素・水分などを吸収する大切な器官ですから、根が病気にかかってしまうとダメージは大きく、最大で5割も減収するという情報もあります。今回のコラムではトマトやミニトマトの栽培で発生しやすい根腐れ病について詳しくお伝えしていきたいと思います。

トマトの根腐れ病の症状

一般的な初期症状としては、晴天時の日中に生長点付近の葉っぱが萎れてきて、葉っぱの萎れが徐々に株全体に広がります。朝晩や曇天時は萎れが一時的に軽減される症状が2週間~1ヵ月程度続きます。下葉が黄色や茶色に変色(褐変)したり、枯れて落ちたりします。根っこはコルク化し水や栄養分の吸収が阻害され細胞が死んでしまい、細いものは腐敗し、太いものは黒褐色になります。病気が進行すると株全体が激しくしおれて、急激に枯れあがり枯死に至ります。根腐れ病が圃場全体に広がると収量は大幅に減少し、農業経営に壊滅的なダメージを与えます。

トマトの根腐れ病の原因「糸状菌」とは

土壌中に生息する水カビの仲間である糸状菌が原因の疫病です。被害を受けた株の根の広がりや深さと共に土壌に残り、糸状菌の菌糸が硬膜胞子となって土壌に残存します。新たなシーズンにトマトを定植すると、定植された株の根に反応し、硬膜胞子が発芽して根の先端から侵入し増殖します。病原菌は土壌の中で2~5年生存することができると考えられています。トマトに悪さをする糸状菌には、大まかに分類すると好低温性の菌と好高温性の菌が確認されています。

低温性ピシウム属菌

ピシウムディソトカム(Pythium disotocam)といった好低温性の菌で、生育適温は22~24℃ですが最も被害が激しくなるのは地温15~18℃の低温時環境の時が多く、被害が激しくなると考えられています。低温期に過剰な潅水を行うと被害を助長します。好低温性の菌のため、地下水位の高い圃場や、日当たりが悪く地温が上がりにくい圃場などは発症リスクが高いと考えられています。日照時間が少なくなる秋~冬のシーズンで発生リスクが高くなります。

高温性ピシウム属菌

ピシウムミリオタイラム(Pythium myriotylum)、ピシウムアファニデルマータム(Pythium aphanidermatum)などは好高温性の菌で、他のピシウム属菌より病原力や伝染能力が高いと考えられています。最適生育温度は35~40℃で40℃以上の高温環境でも生存することができ、春から夏の高温期に発症リスクが高くなります。

トマト根腐れ病の防除対策

  • 残渣処理

糸状菌に罹患した植物体には病原菌が残っているため、収穫後に残った残渣をすきこむと菌がひろがる恐れがあります。土壌の残渣は病原菌の第一次伝染源となっている可能性が高いため、残渣は圃場内に残さずなるべく根ごと抜き取って圃場の外に持ち出して廃棄処理を行うようにしましょう。

  • 土壌消毒

薬剤土壌消毒

クロルピクリン剤やD-Dといった土壌くん蒸剤を使った消毒方法です。土の中にひそんでいる害虫や病原菌をやっつけてくれます。土壌中で成分が拡散する必要があるため分子量が小さく気体になりやすいという特徴を持っています。効果が安定的で薬剤は購入しやすいというメリットがあります。ただし、作業者への身体的な負担が大きいことや、深層部にひそんでいる病害虫には消毒効果が不十分ではないかという指摘もあります。

太陽熱土壌消毒

7~8月頃の気温が高いシーズンに、たっぷりと潅水を行った後ビニールマルチなどで被覆し地熱を高温に上げることで、土壌中の病害虫を死滅させる太陽光エネルギーを利用した消毒方法です。薬剤を使用する方法とは異なり、圃場にとって有益な菌まで死滅させてしまったり、土壌微生物の活動を低下させたりすることが少なく、人体への安全性も高いと考えられている方法です。

土壌還元消毒

太陽熱土壌消毒と同系統の消毒方法で、米ぬか・フスマ(小麦粒の表皮)・糖蜜などを土壌に混ぜ込んだ後に、十分に水を与えてビニールマルチなどで被覆します。有機物を食料にしている微生物が爆発的に活性化することで土壌中の酸素を瞬く間に消費し、土壌の病害虫が酸欠状態になり死滅すると考えられています。液体の糖蜜は土壌の深くまで届くため、深層部の病害虫消毒に効果が期待できますが、糖蜜の希釈や液肥混入機を利用する農作業は重労働です。また還元化する際に悪臭(どぶ臭)が発生するため住宅地が近い圃場には向いていません。

  • 団粒構造を心掛けた土作り

トマトに限ったことではありませんが、植物体の根が健康に育つには、土壌が団粒構造であることが大切です。団粒構造とは、大小の団子状の土の塊がよく混ざり合い、適当な隙間がたくさん作られていて水はけや保水性のバランスに優れた構造のことを指します。団粒構造化に必要な腐植物質は土壌中の微生物が活性化することで生まれると考えられています。そのためフミン酸やフルボ酸を含んだ腐植物質を土作りの際に混ぜ込んだり、土をなるべく深く掘り起こし、土壌中に空気を入れ微生物が活性化しやすい土壌環境を整えたりすることが大切です。速効性のある化学肥料や農薬に頼りすぎると土壌微生物が少なくなってしまい、団粒構造が崩れていきます。

>>>団粒構造に関するコラムはこちら「団粒構造とは? 植物が良く育つ土壌に必要な要素と土の作り方」

  • 接木栽培

耐病性台木を用いて、根腐れ病を防除する方法です。穂木と台木を切断して接合することで維管束が結合し生長します。味の良いトマトを実らせる穂木と、根腐れ病に強い台木を用いることで、防除をしながら品質の高い果実を収穫することが可能です。台木の品種によって、根の吸水力や樹勢が異なりますので、生育のしやすさや栽培方法、栽培時期などの条件から台木を選ぶと良いでしょう。

  • 発病してしまったら・・・

発病した株を発見したら直ちに除去しビニール袋などに入れて圃場の外に持ち出してください。周辺の株に糸状菌がひろがり罹患しないように農薬を土壌に散布します。

トマトを根腐れ病から防ぎ元気な株に育てましょう

根が元気であることが、作物を健康にそして丈夫に育てるための前提条件ですね。根腐れ病にかからないように、今回のコラムをトマトやミニトマトの育て方の一助になりましたら幸いです。

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トマトを根腐れ病から守れ!根の元気を奪う糸状菌の対策について

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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