コラム
野菜栽培の窒素過多対策|地力窒素との関係
公開日2022.02.24
更新日2022.02.25

野菜栽培の窒素過多対策|地力窒素との関係

窒素は農作物に最も影響を与える栄養素です。窒素の施用量が少ないと野菜の生育が悪くなり収量が低下する原因になります。ところが窒素の施用量が多すぎると野菜は病気がちになり結果的に生育と収量も下がってしまいます。また、窒素は土壌有機物、たとえば堆肥にも多く含まれており地力窒素として年々蓄積していきます。地力窒素の発現が大きい圃場に窒素肥料を投入すると野菜に窒素過多の症状が現れやすくなります。
本コラムでは、野菜栽培における窒素過多対策と土壌の改善について詳しく紹介したいと思います。

窒素の主な働き

肥料としての窒素は必須元素のなかで最も農作物に対して影響力のある栄養素で、それは野菜に限らず果樹、花き、イネなどでも同様です。肥料三要素として窒素・リン酸・カリウムが挙げられますが、なかでも窒素は植物の様々な部分に働きかけるため生育と収量に直結する栄養素といえます。

窒素の植物体内の主な働きは、「葉緑素や植物ホルモンの構成物質であり、植物体内の代謝促進酵素や細胞分裂などに働きかけるため、農作物の生育と収量に最も影響を与える」ことです。つまり窒素肥料を欠乏させると、野菜の葉の色は黄緑色に薄くなり光合成効率が悪くなって生育が減衰するため収穫量が減少する問題が発生します。ところが一方、窒素肥料を切らしてはいけないと、過剰に施用すると野菜は病害に罹患しやすくなり生育も収量も劣ってしまいます。窒素は野菜類、とくに果菜類の花芽分化に大きく影響しており、花芽分化適期に植物の窒素吸収が多いと花芽分化が遅れてしまいます。

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地力窒素とは

地力窒素とは、「土壌有機物が土壌微生物の働きによって分解され無機化された窒素」のことです。農業における土壌有機物とは主に堆肥が挙げられますが、ほかにも落ち葉、土壌動物の死骸、緑肥なども土壌に含まれることで土壌有機物になります。地力窒素は土壌微生物による分解の過程を経るため、たとえば堆肥を投入してもすぐには窒素栄養として植物は利用できません。土壌の温度、水分、種類、pH、土壌有機物の大きさなどでも分解速度が変わってくるため一概に分解日数を算出することはできませんが、数十日以上の時間がかかる場合が多いです。

地力窒素の発現が大きい圃場、言い換えると、毎年堆肥を投入している圃場では、地力窒素の発現量を土壌診断によって把握する必要があります。地力窒素の発現量を把握せず、堆肥を投入して、さらに硫安やリン安などの窒素肥料を施用すると窒素過多になるリスクが高まります。
このような性質のある地力窒素としての堆肥は、農作物にとってデメリットが多いように感じられますが、じつは堆肥は投入するメリットの方がデメリットより多いといわれています。下記に取り上げて説明したいと思います。

土壌微生物の活発化

土壌微生物の個体数は1m3あたり10億~100兆といわれており、重量にして700gほどといわれています。堆肥はエサとしてこの土壌微生物の活動を維持する役割があり、有害土壌病原菌の活動を抑える効果が期待されています。

団粒構造の形成

堆肥は団粒構造の形成にあたって接着剤の役割を担っています。団粒構造が形成されることで土壌の保水性、排水性、通気性が良好になり、植物が根付く環境として最適化されていきます。

土壌緩衝能の向上

団粒構造が形成されることによって地温と保温性の上昇効果が上がります。つまり、団粒構造における孔隙率(気相と液相の和)が高まることで水分保持性が上がり、冬期の地温確保において有効的であるとされます。

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土壌中および養液中における窒素過多の仕組みと症状

土壌はマイナスの荷電を帯びています。無機化した肥料としてのプラスの元素は、磁石のように土壌に引っ付いて保持されます。プラスの元素にはアンモニア態窒素(NH4+)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2)、マグネシウムイオン(Mg2)、水素イオン(H)などがあり、これが土壌に保持され植物の根によって水分と一緒に吸収され植物の栄養として働きかけます。

アンモニア態窒素(NH4)の過多

土壌中のアンモニア態窒素(NH4の過多は、拮抗作用によってほかのプラス元素が土壌に保持されにくくなり、特にカルシウムイオン(Ca2)とマグネシウムイオン(Mg2)の吸収が低下するとされています。たとえばトマトではカルシウム欠乏症による尻ぐされ果、イチゴではカルシウム欠乏症によるチップバーン現象がしばしば発生します。

硝酸態窒素(NO3-)の過多

養液栽培では硝酸態窒素(NO3-が蓄積しやすいといわれています。これは畑に生息する絶対好気性菌である硝化菌が、嫌気条件である養液中には存在しないことが理由として挙げられます。硝酸態窒素の過多はトマト栽培では果実の落下や乱形果など、イチゴ栽培では乱形果や花芽分化の遅れなどが挙げられます。また、硝酸態窒素含量の多い野菜を動物や幼児が摂食すると中毒症状がでて障害が残ることがあるといわれています。

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窒素過多対策

土壌診断

土壌診断を行って圃場の土壌の状態を確認し、土づくりの際には必要となる栄養素を的確に施用することが対策として最も効果的で効率的です。窒素質肥料には、速効性の酸性肥料である硫安、高度化成の原料となるリン安、緩効性のアルカリ性肥料である石灰窒素など様々です。前年と同じ肥料を施用すれば、本年も同じ土壌状態になるとは限らないため、土壌診断を行うことは非常に重要な作業といえます。

堆肥の選定

堆肥の種類は様々です。牛ふん堆肥、鶏ふん堆肥、豚ぷん堆肥がよく利用されますが、他にもバーク堆肥や食品成分を含んだ堆肥などがあります。それぞれの含有成分や土壌改良性は一様ではなく、たとえば豚ぷん堆肥は比較的窒素含量が多く、鶏ふん堆肥は比較的リン酸が多くなっています。堆肥の分解性もそれぞれ異なり、バーク堆肥の分解は比較的遅いですが、動物性堆肥の牛ふん堆肥、鶏ふん堆肥、豚ぷん堆肥は比較的早く分解が進みます。
堆肥の種類を毎年変えている農家は恐らく少数派と思いますが、その場合は、土壌診断結果に従って肥料の種類を調整すると良いかと思います。

追肥は窒素分の少ないものを選ぶ

窒素過多の懸念がある圃場に窒素を追加することは、当然として農作物に窒素過剰のリスクを大きくします。葉面散布剤や液肥の種類は数えきれないほどありますが、それぞれに特徴があるため、圃場や野菜の状態をよく観察して、必要とする栄養素を含んだ肥料を的確に使用するようにしましょう。
たとえば、窒素成分を殆ど含まずアミノ酸と微量要素が主体の肥料製品がメーカーから販売されています。

腐植物質を豊富に含んだ腐植酸質資材

有機質土壌改良資材「地力の素カナディアンフミン」は、植物系の腐植物質を高純度・高濃度に含んだ固形型資材と液体型資材です。
固形型には【細粒】【粗粒】【ペレット】があり、定植前の土づくりに最適です。いずれも堆肥の代替として利用できます。とくに【細粒】と【粗粒】は堆肥との併用で高い効果を期待できますが、【ペレット】には牛ふん堆肥が含まれているため堆肥との併用をしなくても高い効果が期待できます。液体型の【リキッド】は栽培期間中に腐植切れの悩みがある方におすすめです。窒素を殆ど含まないため生長点や花芽への影響を小さくできます。

地力の素の説明動画はこちら

窒素を含まない液体肥料

天然アミノ酸入り複合肥料「オルガミン」は、魚と糖蜜を天然発酵させて製品化したアミノ酸入り複合肥料で、葉面散布に最適です。マグネシウムや微量要素(マンガン・ホウ素・亜鉛・モリブデン)が含まれていますが、窒素・リン酸・カリウムの含有は殆どないため、土壌灌注や点滴灌水として追肥にも利用できます。
多くの農家から葉が立ち、葉肉が厚くなるなどの効果が報告されています。定植後からの栽培期間が長期になる果菜類や果樹では特にご利用をおすすめしております。

▶オルガミンの説明動画はこちら

土壌を知り、植物を観察することが窒素過多対策への第一歩です

本文中にも述べさせて頂きましたが、窒素過多対策をする上での一番の対策は土壌診断を行い、診断結果に基づいた施肥設計を行うことです。窒素だけでなく他の栄養素のバランスも把握することができるため、肥料過多になる心配はとても小さくなります。土壌が窒素過多になってしまった場合は農作物が過剰症状として私たちに教えてくれます。窒素過多になってしまってからでは遅いかもしれませんが、農作物をよく観察することでそれ以上の被害を食い止められる可能性は大きくなります。窒素を含まない資材も売り出されていて簡単に入手することができるため一度ご検討されると良いかもしれません。

今回のコラムが皆様のご参考になれば幸いです。

野菜栽培の窒素過多対策|地力窒素との関係

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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