観葉植物の育成にLEDライトを用いるメリット
植物の生長に最適な光を供給できる
LEDの発明により光の研究が進み、どのような光の波長が植物の生長に寄与するのか分かってきました。LEDライトは、白熱電球や蛍光灯では難しかった、製造段階における波長の緻密な設計ができるため、特定の光の波長を持った製品が開発しやすいという優位性があります。栽培作物に適したLEDライトが開発され、イチゴやキクなどの栽培で利用されています。このような知見は現在のところ、農業分野で品質や収量の向上に生かされていますが、室内で育てる観賞用の植物においても、適した波長のLEDライトを選ぶことで、植物をより健康的に美しく生長させる効果が期待できます。
消費電力の低下と交換頻度の軽減によりコストを抑える
もう一つの大きな利点は、従来の蛍光灯や白熱灯に比べてコスト効率が非常に高いことです。LEDライトは蛍光灯や白熱灯に比べて消費電力が低く電気が削減されます。一般的に同じ照度の照明であれば、消費電力は白熱灯の約15%、蛍光灯の約30%となっており、電気代を抑えることができます。また、およそ40,000~50,000時間と長寿命(製品により個体差はあります)で、交換頻度が少なくなります。LEDライトは低価格化してきたとはいえ1個当たりの値段は高めですが、少ないエネルギーで高効率に光を提供するLEDライトへの切り替えは、長期的なコスト削減に繋がります。
観葉植物の生長に関わる光の強さと波長
観葉植物は光合成というプロセスを通じてエネルギーを生成し、生長を促進します。室内で観葉植物を育てる場合、課題の一つに挙げられるのは、生長に必要な光量を確保するのが難しい点です。光の量が足りないと、生理障害を助長しやすくなり、健全な成長が阻害される可能性が高くなります。
光の強さ
人の目に映る光の強さとしてルクス(lux)という単位が用いられますが、植物と人間とでは感じる光の波長が異なるため、厳密にいうと比較対象の単位として適当ではありません。代わりに用いられるのは光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density:PPFD)と呼ばれているもので、植物のクロロフィル(葉緑素)が光合成に用いる400~700nmの波長の光の量を表しています。素粒子の一つである光子の量は、マイクロモル(μmol/m2・s)という単位で示されます。太陽光では晴れている日に受ける直射日光は約2,000μmol/m2・s、曇りの日では約50~100μmol/m2・sとされています。
光の波長
未解明の部分は多いのですが、現在の研究結果としては400~500nmと600~700nmの波長の光が植物に大きな影響を与えているという考えられています。人の目には400~500nmの波長の光は青色に、600~700nmの波長の光は赤色に見えます。青色光はシロイヌナズナやレッドリーフレタスでの実験において、アントシアニンの合成を誘導する効果が報告されています。アントシアニンは、抗菌作用や虫の幼虫を寄せ付けない作用、葉緑体を発達させたり紫外線から守ったりする作用があるようです。赤色光や遠赤光は、開花を促す生殖生長(花芽分化の促進)や体を大きくする栄養生長の発現に深くかかわっているとされています。LEDライトを用いて観葉植物に適切な種類の光を提供することで、葉は緑豊かになり全体的な健康状態が向上する効果が期待できるというわけです。
観葉植物に最適なLEDライトの選び方と設置のポイント
お手持ちの観葉植物を効果的に育てるためには、適切な光の強度を発するLEDライトを選ぶ必要があります。本章では、LEDライトを選ぶためのポイントを解説したいと思います。
育てる観葉植物に必要な光の強さ(PPFD)を調べる
観葉植物の種類により適したPPFD(光合成光量子束密度)は異なりますので、まずは育てる観葉植物にどの程度の光の強さが必要なのか調べてみましょう。植物に必要な光の強度を示した表がインドアグリーナリーの光放射環境(照明学会誌)で示されています。観葉植物で人気の高いものを抜粋し以下の表にまとめました。Lux(ルクス)で光の強さを判断する方法もあり、あまり厳密性を求めなくても良いかもしれませんが本コラムではPPFDで判断することを推奨します。
植物名 | PPFD | |
---|---|---|
ア行 | アレカヤシ | 15~30 |
アロエ | 70〜 | |
アンスリウム | 15~30 | |
カ行 | ガジュマル | 30~70 |
カポック | 70~ | |
ココヤシ | 70~ | |
サ行 | サンセベリア | 15~30 |
ジャスミン | 70〜 | |
シュロチク | 15~30 | |
ソテツ | 70〜 | |
タ行 | テーブルヤシ | 7~15 |
トックリヤシ | 15~30 | |
ドラセナ | 15~30 | |
ハ行 | パキラ | 30~70 |
ビカクシダ | 7~15 | |
フィカス | 30~70 | |
フィロデンドロン | 7~15 | |
ヘゴ | 30~70 | |
ヘデラ | 30~70 | |
ベンジャミン | 30~70 | |
ポトス | 15~30 | |
マ行 | モンステラ | 15~30 |
ヤ行 | ユーカリ | 30~70 |
ユッカ | 30~70 |
照明学会誌「インドアグリーナリーの光放射環境」(洞口公俊)より抜粋
PPFDのスペックからLEDライトの選ぶ
光の強度(PPFD)は光源から離れるほど弱くなりため、光の強度とライトから植物までの距離でPPFDが決まります。ライトから植物までの一定距離におけるPPFDがわかると、植物に最適な強さの光を届けることができます。現在のところ、一定距離におけるPPFDをスペックとして記載している製品はやや少なめかもしれません。一部の製品では植物用として扱うことを前提に、10cm・20cm・30cmといった距離ごとのPPFDの数値が表記されています。このような製品を選ぶことができればベストです。スペック表記にPPFDがない場合には、計測器を使って植物にあたる光のPPFDを計測しても良いでしょう。PPFDの計測器は簡易なものであれば10,000円~30,000円程度で販売しています。
LEDライトを適した距離に設置する
LEDの設置高や角度が適切でないと、植物に十分な光が届かず、成長に悪影響を及ぼす可能性があります。光が均一に照射されない場合、植物の一部が成長不足になり見た目が悪くなります。植物の種類にもよりますが、LEDと植物が近すぎると光が強すぎて葉焼けを起こすことがありますので注意しましょう。反対に遠すぎると十分な光量を確保できず、成長が遅れることがあります。適切な高さと角度で配置することで、光が均一に行き渡り、植物が均等に健康的に成長します。適切な設置高さ、角度、配置を心掛け、観葉植物に最適な環境を提供しましょう。設置の際には、市販のスタンドタイプのライトやクリップタイプのライトを活用することで、柔軟な調整が可能です。また、植物の成長を定期的にチェックし、必要に応じてライトの位置を微調整することも大切です。
LEDライトの光の色の選び方
農業分野においては、植物の特性に従い赤色・青色・白色などの配置に特徴のあるLEDを利用し光環境を制御することで、作物の品質を向上させたり、収穫のタイミングをコントロールしたりしています。観葉植物は収穫を目的としておらず、主に室内で不足する太陽光を補うという考え方になるため、色の配置が偏った特殊なLEDライトを使用するよりも、400~500nmと600~700nmの波長がバランス良く設置されているLEDライトを選択することをおすすめします。メーカーによっては分光分布(スペクトル)を示した図をもっていますので、そこまで専門的に追及しなくても良いかもしれませんが、気になる方は問合せをしてみてください。
光の点灯時間
観葉植物の育成には適切な点灯時間も重要な要素の一つです。観葉植物が健やかに成長するためには、光合成が十分に行われる必要がありますが、日陰を好む植物と日光がたくさん必要な植物では適切な日照時間は異なります。長日植物か短日植物かによっても光から受ける影響も違ってきます。点灯時間の判断は非常に難しいところで、筆者が調べた範囲では明確な基準を導きだすことができませんでした。インターネットサイトでは、9~14時間ほど点灯を推奨するサイトが多い印象でした。自然の日照時間に近いので大きな弊害はないように思いますが、育てる植物の種類によって光に対する反応が異なるため、適格な答えをお伝えするのは難しいというのが実情です。植物の様子を見ながら時間を伸長するというのが今のところベストな方法ではないでしょうか。
最適なLEDライトを選び、観葉植物の健やかな成長をサポートしましょう
今回のコラムでは、観葉植物を美しく健康に育てるために必要なLEDライトの情報をお伝えしました。植物は日光を必要とするため、室内で育てる場合には適切な光源が重要です。LEDライトは、従来の電球や蛍光灯に比べて光の種類や消費電力に優位性があります。スペクトル範囲を考慮してライトを選ぶことで、観葉植物に最も適した光合成促進効果を得ることができます。自分の観葉植物がどのように成長していくのかを観察しながら、正しい知識を持って取り組むことで、より美しく健康な植物を育てることができます。
参考資料:照明学会誌「インドアグリーナリーの光放射環境」(洞口公俊)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。