ただ光を当てれば植物は元気に育つというわけではありません。それぞれの植物に適した日長時間、光強度、波長など考慮される要素はたくさんあります。今回のコラムでは光合成光量子束密度(PPFD)について説明したいと思います。
植物栽培は「ルクス」だけでは物足りない!?
明るさを示す指標であるルクス(lux、lx)は、例えば、自宅の電球や蛍光灯を取り換える時に見聞きするかと思いますが、どちらかと言えば聞き慣れた単語と言えるでしょう。ルクスの数値が大きいほど電気の明るさが強く(照度が大きく)、活用するシーンにおいてその数値は大事な指標になってきます。
この聞き慣れた又は使い慣れた「ルクス」という単位を農学の世界で用いようとするケースがしばしば見られます。実は農学の、とりわけ光合成に関することではルクスだけを用いることはあまり適切ではないということをご存じでしょうか。良くみられる表現を下記に並べてみます。
「イチゴの電球は○○ルクスを使用すれば光合成に適していますか?」
「○○ルクスの植物生育用ライトを探しています」
「○○ルクスのライトは<植物名>の生育に有効ですか?」
このような表現に対して回答をするのは正直ちょっと困難です。
イメージとしては、ルクスは家庭用など日常生活で多く用いられる単位で、光合成に関するシーンではルクスだけでは情報が少ないです。農学では主に「光合成光量子束密度(PPFD)」を更に用います。また、ルクスをPPFDに変換することが困難であるため、少なくともセイコーエコロジアでは上記の様なご質問には「回答は難しい」という考え方で対応しています。
ルクスの定義:単位面積1㎡あたり1ルーメンの光束で照らされる時の照度
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「色」と「波長」の違いは何ですか?
植物用ライトを話題に取り上げるとき、何色の光を植物に照射するべきか考えてしまうことがあります。このような考えは発光ダイオード(light-emitting diode:LED)が農業にも普及してきたことが要因として挙げられます。通称LEDは植物生育用ライトとして農業に普及しており、主にイチゴやキクなどの電照栽培で導入が進んでいます。各々の植物には生育に適した光の色があるようで、その評価のため農学分野では古くから研究が進められています。
一方で波長とは何か。
あえて定義っぽくないように説明するならば、「それぞれの色は数値で表され、nm(ナノメートル)の単位で示すことができる」というものです。つまり色と波長はニアリーイコールであり、波長(nm)で示した方がより具体的に色を示せるということです。
例えば、630nmの波長は凡そ赤色として見られます。或いは520nmの波長は凡そ緑色として見ることができます。また、460nmの波長は凡そ青色として見ることができます。
農学分野の研究において光を扱う場合は波長(nm)を表記します。論文を読んで、自分が育成したい植物に適した波長が解るならば、この数値を参考にして植物用のLEDライトを探すと良いでしょう。
「光合成光量子束密度(PPFD)」と「光量子束密度(PFD)」
効率的な農業生産を目指した技術が発展してくると共に、「どのくらいの強さの光を植物に照射すれば良いのか」ということにも目が向けられるようになりました。このような背景から、光の強さの解決を求める農業に関わる方が前述したルクスだけを用いて植物用のライトを探しているケースがしばしば見られます。
LEDではその仕組み的なところから、波長に対するLux値(照度)がある程度決まっています。筆者はLEDの機械の構造に詳しくないので言葉が異なるかもしれませんが、LEDの機械には負荷をかけても機械が故障しない電気量があり50%くらいだそうです。例えば660nmのLED機に50%の電気負荷をかけると照射距離は大体8~10m位です。仮に100%の電気負荷をかけると熱を持ってしまい機械の寿命がうんと短くなるそうです。その反面照射距離はいくらか伸びるそうです。
農学(農業)では光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density:PPFD)も用いて、植物に適していると考えられる数値の光を植物に照射します。通称PPFDは「植物のクロロフィル(葉緑素)が光合成に作用する400~700nmの波長範囲の光の量」を表し、 μmol・m-2・s-1 という単位で示されます。人間の目には見えないですが、光の粒(粒子、光子)が降り注いでいるのです。PPFD値が大きいほど光が強いと考えていただければ差し支えありません。
一方で、光量子束密度(photon flux density:PFD)という単語もあり、しばしばPPFDと混同されています。単位もPPFDと同じμmol・m-2・s-1 です。一体なにが違うのでしょうか?下記にPPEDとPFDを省略せず英語で表記してみます。
光合成光量子束密度(PPFD)
photosynthetic photon flux density
光量子束密度(PFD)
photon flux density
photosyntheticの有無による違いが見られますが、photosyntheticは「光合成の」という形容詞です。これがある場合がPPFD、ない場合がPFD。つまりPFDは植物の光合成に適していない*とされている赤外線や紫外線の光の量も数値として含まれるということです。そのため、同じ条件でPPFDとPFDを測定した場合はPPFD≦PFDという関係になります。
*実際には遠赤色と言われる波長領域はいくつかの植物の生育に有効的であることが研究でわかっています。PPFDの定義的には400~700nmの範囲が光合成に作用しているとされているため、本コラムでは一部矛盾が生じる波長範囲が発生しています。
植物に適したPPFDの値
それぞれの植物に最適なPPFD値についてはわからないことが多いようですが、電照を用いて植物に照射する場合は、ざっくりと200μmol・m-2・s-1 が目安になりそうです。
実際の植物栽培現場で一定のPPFD値を維持することは困難です。そもそもPPFDは光の量であって、発光源のPPFDを計測するには完全な暗闇で発光源を光らせて計測器で測定することになります。つまり、実験的には明期と暗期を完全に分離した条件で植物を育てればよいので、あるいは植物に最適なPPFD値がわかるかもしれません。ところが、太陽光も取り入れて栽培する施設栽培の場合は、雨の日でも曇り空の日でも日中は常に植物に光が降り注ぎます。この光の量は一定ではなくある程度の範囲で常に変化します(雲の陰や、樹木やハウスの柱の陰でも瞬間的なPPFD値は変化します)。この+αの光の量を考慮すると植物に最適なPPFD値を推測するのもなかなか難しいと思います。
LEDを利用した植物への光照射は、現代人でいうサプリメントのようなイメージです。私たちもビタミン剤やDHAなど足りない栄養素をサプリメントで補給するように、植物にも足りない光を追加してあげることで良好な生育を維持・改善することができます。
植物に適したLEDライトの選び方
まずはLEDライトの色と波長を確認しましょう。
植物育成用のLEDライトには複数の色が混合されていることが多いため、どのような配色になっているかを確認することに注意が必要です。このとき波長(nm)がわかれば、よりフォーカスした電照効果が検証できそうです。
次に大体どのくらいのPPFD値であるかを確認しましょう。
実際にLEDライトを用いた施設栽培において植物付近でPPFD値を計測すると数~数十μmol・m-2・s-1 程度が多いと思います。LEDライトの性能によっては100~200μmol・m-2・s-1 以上を確保することができます。例えば施設イチゴの電照栽培では数~数十μmol・m-2・s-1 程度のケースが多いと思いますが、日長をコントロールする目的では十分なPPFD値と言えそうです。
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まとめ
今回のコラムでは光合成光量子束密度について解説をさせていただきました。敢えてかみ砕いて解説をしたため、本来の定義より物足りない内容になっていると思います。
セイコーエコロジアではこの一年間で光合成光量子束密度に関する観点でのお問い合わせが増加したと実感しています。また、研究機関からの単色波長LEDのお問い合わせもとても増えました。肥料価格高騰や円安による農業生産の逼迫などを背景により効率的な植物の育成技術に注目が集まっているのでしょうか。
このコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。
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コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。
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