コラム
地力を評価するために必要なリン酸吸収係数とは?
公開日2022.12.20
更新日2022.12.20

地力を評価するために必要なリン酸吸収係数とは?

三大栄養素の一つであるリン酸は、開花や根の伸長に関与しているとされる重要な栄養素です。しかし、リン酸は土壌に施用されると、土の中に存在している鉄・アルミニウム・マンガンなどの溶解性の低い物質と結合し、難溶性リン酸や不溶性リン酸となります。いわゆるリン酸の固定化です。土壌が酸性に傾くほどリン酸が固定化されやすくなりますが、固定化の程度を把握するために用いられる値がリン酸吸収係数です。この値を把握しておくことがリン酸の施肥量に対しての効果を予測するための目安となります。

リン酸吸収係数とは?

リン酸が土壌に固定(吸着)する力を表す指標です。土壌中におけるリン酸の肥効の目安になります。リン酸吸収係数が高い土壌では、リン酸を固定する力が強いため、リン酸は不可給態になり作物に肥料成分が効きにくくなります。このような土壌では多めにリン酸を施肥しないと肥効が期待できません。一般に、黒ボク土(黒土)や赤土のような火山灰土壌には鉄やアルミニウムが多量に含まれているため、リン酸の有効性が低くなっています。黒ボク土は、日本の国土の31%を占めており、また畑においては47%とほぼ半分を占めています。

リン酸吸収係数の計測方法

ほ場の風乾細土10gを容量100mlのフラスコに取り、土に対して2倍の量(20g)の2.5%リン酸アンモニウム溶液を加え、振り混ぜながらときどき撹拌し、24時間放置した後にろ紙を用いてろ過した水溶液を計測します。リン酸吸収係数は700以下を極小、700~1,500を少、1,500~2,000を中、2,000以上を大と判別し、値が大きいほどリン酸の肥効が得られにくくなります。これは、土壌100gが吸収したリン酸の量をmgで表示したもので、おおむね1,500以上の土壌では、施肥したリン酸の多くは土壌に固定されてしまいます。計測方法としてはリン酸アンモニウムを用いる方法以外にも、リン酸ナトリウムやリン酸を用いる方法があるようです。

リン酸吸収係数(mg/100g) リン酸の肥効が期待できる倍率 主な土壌
500以下 2倍 沖積土壌
500~700 4倍
700~1,500 6倍 こう積土壌
1,500~2,000 10倍 火山灰土壌
2,000以上 12倍 腐植質火山灰土壌

より簡易的な判定方法としてアロフェンテストと呼ばれる測定法もあります。黒ボク土に含まれているアロフェンを利用し判定する方法です。アロフェン中の活性アルミニウムをフッ化ナトリウムに反応させて放出されるOH基によるpHの上昇を利用して判定します。アロフェンとは、火山灰や軽石が風化作用により生成される非晶質の粘土鉱物のことで、日本は世界有数の火山国であるため土壌にアロフェンが多量に含まれています。

土壌がリン酸吸収するメカニズム

リン酸の固定化には、土壌コロイドが重要な役割を担っているとされています。ケイ酸とアルミニウムが結晶化し鉄が一部の骨格をなす粘土鉱物と腐食物質が結合した土壌コロイドは、土壌が酸性に傾くと鉄とアルミニウムが化学的に活性化し土壌に溶出していきます。溶出された鉄・アルミニウム・マンガン等がリン酸イオンと強く結合し、鉄型リン酸、アルミニウム型リン酸といった難溶性のリン酸を生成します。固定の強さは鉄が最も強いと言われ、アルミニウムとマンガンも影響力が強いです。特に土の中の有機物が少ないとこの傾向が強くなるようです。一般に土壌のpH値が低い(酸性が強い)ほど、リン酸吸収係数が高くなります。鉄型リン酸とアルミニウム型リン酸において、作物が利用できるリン酸はリン酸と石灰が弱く結びついて形成されたリン酸石灰の部分になり、これを可給態リン酸といいます。

作物に必要なリン酸を吸収させるには?

リン酸吸収係数は土壌の特徴を表しており、一般に改善することは困難だとされています。栽培する作物に必要なリン酸を吸収させるためには、単純に不足している施肥量を増やすという方法もあるにはありますが、成分あたりの単価が高いリン酸ですから、この方法はあまり現実的ではありません。

堆肥を利用する

堆肥に含まれている有機物がリン酸を囲み、鉄やアルミニウムを溶出する土壌コロイドとの接触が少なくなると考えられています。加えて、堆肥を分解する際に増殖する土壌微生物が、リン酸を取り囲み有機態リン酸となり、微生物の死亡によりゆっくり分解され無機化し作物に吸収されます。

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腐植酸を利用する

腐植酸はアルミニウムやカルシウムと安定した化合物を生成することで、リン酸との結合を妨げて土壌におけるリン酸の固定化を予防するとされています。また、難溶性リン酸化合物に腐植酸を加えると鉄・アルミニウム・カルシウムと結合していたリン酸を、作物が吸収しやすい状態に戻すことができるという考察もあるようです。

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菌根菌を利用する

糸状菌の一つである菌根菌は、植物の根に共生し根からのリン酸吸収を助けるかわりに植物からは光合成産物を受け取ります。菌根菌資材を活用することで、土の中のリン酸を効率的に利用させる効果が期待できます。

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土壌のpHを弱酸性に保持する

土壌のpHを5.5~6.5程度の弱酸性に保持することで、土壌コロイドからのアルミニウムや鉄の溶出を抑えリン酸の固定化を予防します。日本の火山灰土が高いリン酸吸収を示すのは、わずかな酸性化により溶出するアルミニウムが高い比率でコロイド核に含まれているためです。火山灰度におけるpHの管理はかなりシビアなものになるとされています。pHが酸性に傾いている場合には、酸性土壌を改良してからリン酸を施肥するやり方が一般的です。

ク溶性のリン酸肥料を利用する

ク溶性とはクエン酸2%の液体で溶けることです。ク溶性のリン酸肥料は作物の根から分泌される根酸程度の弱い酸で徐々に溶け出すため植物が栄養を吸収することができます。

戦後の化学肥料の進歩により窒素・リン酸・カリといった三大栄養素を十分に含んだ肥料を盲目的に施肥したことにより、ほとんど移動しないリン酸がどんどんと土壌に蓄積されているという考察もあります。量が少ない場合は一定の施肥が必要ですが、土壌のリン酸が過剰になっているといことも考えられますので、リン酸がどれぐらい土壌にあるかを示す可給態リン酸の量も把握しておく必要があります。

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リン酸吸収を助けるおすすめの資材①

リンサングアノ

コウモリの排泄物や死骸が数百年の時間をかけて発酵・凝縮された原料をもとに製造したリン酸と腐植酸を豊富に含んだ特殊肥料です。含まれているリン酸はク溶性で固定化が起こりにくく作物の根から分泌される根酸でゆっくりと溶け出すという特長があります。豊富に含まれている有機質のリン酸が土壌で本来の力を発揮できるように、腐植酸の働きでリン酸がアルミニウムや鉄と結合し不可給態リン酸となるのを防止する効果が期待できます。

リン酸吸収を助けるおすすめの資材②

キンコンバッキー

アーバスキュラー菌根菌を含んだ資材で、水で2000倍に希釈して育苗期の苗に施用します。株あたり50-100mlの施用が目安で、植物によりますが早ければ2週間後には株に変化が現れます。アーバスキュラー菌根菌は植物の根に共生して、共生後はリン酸吸収を助けて根張りや収量増加などに貢献します。アーバスキュラー菌根菌はリン酸吸収能を持っている一方で、土壌リン酸濃度が高すぎると共生が進まず大きな効果が得られにくい特徴があるため、キンコンバッキーを利用する際は土壌リン酸濃度が高まり過ぎないことに注意してください。

リン酸吸収係数を把握し土壌の特徴をつかんでおきましょう

ほ場の土の特徴を把握しておくことは、肥料や肥効における対策を行い品質と収量を向上させていくために必要なポイントです。土壌分析が面倒だと感じている農家さんもいらっしゃるかと思いますが、土壌採取をして送るだけで分析を実施するサービスを行っているところがあります。長期的な農業経営を見据えて土壌診断を実施してみてはいかがでしょうか。

参考資料:
土壌診断マニュアル
(山口県農林総合技術センター)

地力を評価するために必要なリン酸吸収係数とは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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