コラム
マンゴー栽培で発生する害虫|効果的な対策方法を解説
公開日2022.01.14
更新日2022.01.14

マンゴー栽培で発生する害虫|効果的な対策方法を解説

近年、マンゴー栽培は全国に広がっています。意外にも、東京都、神奈川県、埼玉県など関東地方でもマンゴー栽培が行われており、もう少し月日が経てばもはや南国フルーツのイメージが薄れてしまうかもしれません。現在国内で栽培されている品種は専ら“アーウィン”が多数ですが、「橙色のマンゴーこそマンゴーである」という日本人消費者の強いイメージがアーウィンの一番の人気の理由です。
栽培地域が各地に広がっている主な要因に、「マンゴー栽培の参入しやすさ」が挙げられると思います。マンゴーは他の施設園芸と比較して栽培の初期投資は少なく、取引相場もとても良いです。マンゴーは見た目や香りも魅力的で消費者に好まれるため販売もしやすく、都会近郊で栽培するならば作れば作るほど売れる果樹だと思います。
しかし、参入のしやすさと反対に病害虫にはあまり強くない果樹ということに注意しなければなりません。例えば病気では炭疽病や菌核病など、害虫ではアザミウマやハダニなどがマンゴーに被害を与えます。マンゴーは言わずと知れた高級フルーツのため、果実品質が取引価格にとても大きな影響を与えます。マンゴー栽培で発生する病害虫はマンゴー果実に致命傷を負わせるものがとても多くなっています。
今回のコラムでは、栽培人気の高まっているマンゴーに発生する害虫について紹介したいと思います。

マンゴーの害虫の特徴

マンゴー栽培で発生する害虫はマンゴーの新梢および果実に被害を及ぼすものが少なくありません。新梢に被害を受けるとマンゴーが果実を実らせないことがあるため収穫量の減少に繋がります。また、果実に直接的ダメージを与える害虫によって果実出荷等級が下げられるため被害程度が大きい場合は出荷することができなくなります。

出荷までの段階で果実に被害を及ぼす代表的な害虫は、「チャノキイロアザミウマ」です。チャノキイロアザミウマは新梢や果実だけではなく葉などにも吸汁被害を与えるため、マンゴー栽培における難敵とされています。

マンゴーの害虫

マンゴーに発生する害虫の種類は非常に多いです。被害を受ける植物の部位は、根、枝、葉、幹、花、果実などほとんどの部位が被害対象になっています。どの害虫もマンゴーに深刻な被害を与えますが、仮にピックアップするならば発見しにくさと農薬の効き目の少なさから、チャノキイロアザミウマが最も厄介な害虫と言えるでしょう。気温が上がってきて花芽の動き出す2月頃から増え始め、観察を怠ると爆発的な被害に繋がります。

本章では、チャノキイロアザミウマを含めマンゴー栽培で発生する害虫について説明したいと思います。

アザミウマ目

「チャノキイロアザミウマ」は新梢、新葉や花など植物の若い部位を好んで吸汁行動をし、果実の果皮も吸汁するため果実品質を落とす原因となっています。また、収穫後の整枝(剪定)、花芽分化の時期に新芽を吸汁されると着花はするものの着果が著しく不良になってしまいます。チャノキイロアザミウマは2種の系統が存在するようで、系統の違いによって殺虫剤の感受性が異なる可能性があるとの研究結果が報告されています。チャノキイロアザミウマはマンゴー以外の植物にも被害を与え、果樹ではミカン、ナシ、ブドウなど、野菜ではピーマンやイチゴなど、他にはチャなどが被害対象に挙げられます。

沖縄県を含む西南諸島や小笠原諸島では「アカオビアザミウマ」が確認されています。本種は海外からの侵入害虫で、海外ではマンゴーの主要害虫に挙げられています。

カメムシ目

カメムシ目に該当するマンゴーの害虫には、アブラムシ、コナジラミ、カイガラムシが挙げられます。

アブラムシは「ワタアブラムシ」や「モモアカアブラムシ」などの種が新梢、果房、果実に被害を与えますが、排泄物による“すす病”を生じさせることがあり厄介な害虫といえます。これらのアブラムシはトマトにも寄生することが知られています。

コナジラミは「マンゴーキジラミ」が代表的です。本種は春~夏にかけてマンゴーのみに発生する害虫で、葉裏で多発し、“すす病”を生じさせます。

カイガラムシは「マンゴーシロカイガラムシ」「マンゴーカタカイガラムシ」「マデイラコナカイガラムシ」など多種が発生します。多くの種が海外からの侵入害虫で、マンゴーシロカイガラムシもその一種です。マンゴーシロカイガラムシはマンゴーのみに発生する害虫で、多くのカイガラムシは葉、果梗、果実に発生しますが、本種は葉面にも寄生することが多いようです。

ダニ目

ダニは「マンゴーツメハダニ」「マンゴーサビダニ」「マンゴーケブトサビダニ」「チャノホコリダニ」など多種が発生します。マンゴーに発生するダニの多くは海外からの侵入害虫です(チャノホコリダニは在来の種のようです)。マンゴーツメハダニは海外では熱帯地域に多く分布しており、沖縄県、奄美島や千葉県で発生が確認されているようです。マンゴーサビダニは葉の表側に発生が多く見られ、成虫の体長が0.15mm程度と極めて小さいことが特徴です。マンゴーケブトサビダニは葉裏に生息して、葉の表側に加害を与えます。チャノホコリダニは新梢や果房で発生が多くなる傾向があります。本種はマンゴーの他にもイチゴやナス科植物など多くの農作物に寄生することが確認されています。

コガネムシ類

アオドウガネやドウガネブイブイなどがマンゴーに被害を与えます。アオドウガネは果実や果房を、ドウガネブイブイは葉を食害することがわかっています。コガネムシ類は成虫だけではなく幼虫もマンゴーに被害を与えます。特に、マンゴーの樹をポットに植える栽培方法の場合、コガネムシ成虫が飛来しポット内に産卵します。孵化した幼虫はマンゴーの根を餌にして成長するため、気が付いたときには樹の回復が見込めないほど樹が弱ってしまうこともあります。

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マンゴー栽培における害虫対策

基本的な害虫対策は農薬によるところが大きいようです。しかしながら、マンゴーは訪花昆虫によって受粉を行い結実させる果樹です。つまり、訪花昆虫を放飼している時期は農薬の散布や種類に制限がかかってしまうため十分な防除対策ができなくなります。また、マンゴー果実は“ブルーム”を分泌します。出荷先の要望にもよりますが、ブルームの欠損(水滴痕や手指の痕も欠損とみなされるようです)は果実品質の低下とみなされてしまうため、果実肥大期~収穫期まで思うような薬散が行えない場合があります。よって、開花期~収穫期までは農薬散布に大きな制限がかかってしまいます。生産農家は害虫被害を抑えるために、開花期までに害虫を抑え込む努力をします。

近年は農薬に頼らない害虫対策の一つに“天敵”を利用する農家が増えてきました。例えば、チャノキイロアザミウマに対する化学合成農薬の効力が低下しています。これに対する新たな対策として、近年は“スワルスキーカブリダニ”の利用が増加してきました。スワルスキーカブリダニをマンゴーに定着させるための適切な管理作業を行うことで高い防除効果が期待できます。

またチャノキイロアザミウマに対しては、赤色LED光の照射による忌避効果に期待が持たれています。

マンゴー栽培で発生する害虫に対応した農業資材

虫ブロッカー赤

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

てるてる

「てるてる」は特殊な繊維構造で作り上げた光反射シートで、光を拡散的に反射する機能を持っています。この機能は、マンゴーで発生するアザミウマ類に対して効果的で、葉が茂る或いは低木気味に育成するマンゴーの樹において陰になりがちな葉裏や花房に逃げ込むアザミウマに光を当てる確率が高くなります。これによりアザミウマの行動が抑制されるので、新芽、新葉、果実などのアザミウマによる吸汁被害が抑制されます。
また、モスバリアジュニアⅡレッドと「てるてる」を同時に設置するとモスバリアジュニアⅡレッドの効果を最大限に享受すことができるため、設置をおすすめしております。

 

アザミウマキャッチャー

アザミウマキャッチャーは食品由来の芳香成分によってアザミウマ類を誘引し、青色粘着シートへの付着効果を上げる農業資材です。約1a(100㎡)あたりに1台設置(高さは地上から0.5~1mほどの位置に設置)することが目安です。電源を必要としない資材ですので、電気が来ていない圃場の害虫対策におすすめです。

 

ニューウィンズパック

ニューウィンズパックは性フェロモンや食物誘引物質(ルアー)を使用したコガネムシ類発生予察用資です。コガネムシの種類によって誘引物質が異なるため、予め圃場で発生しているコガネムシの種類を予測することが重要です。

マンゴー栽培で発生するアオドウガネやドウガネブイブイにも対応したルアーをラインナップしています。

病害虫をコントロールして安定的な収穫を目指しましょう

高級果実のマンゴーは消費者からの引き合いが強い一方、栽培中にはたくさんの種類の害虫が発生するデメリットがあります。マンゴーを食べることに対する消費者の注目度が高まると、マンゴー栽培にも焦点が当てられどのように栽培されたものなのかという注目度も上がってくるのではないでしょうか。延いては、なるべく化学合成農薬を使用しないマンゴーを求める消費者の声が上がってくるかもしれません。

マンゴーに限らず果樹の場合は、農薬を散布しなければ収穫量が大幅に少なくなる品目が多数あります。しかしながら、農薬使用量を減らしたいのは消費者だけではなく栽培農家も同じです。簡単ではありませんが、害虫の生態を利用して物理的防除を多く取り入れることが目指すべきマンゴーの栽培管理ではないでしょうか。

今回のコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。

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コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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