私たちが子供のころ、モンシロチョウは昆虫採集の対象としてとても身近で親しげな存在でしたが、キャベツやブロッコリーなどを栽培するアブラナ科農家からすれば直ぐに被害が拡大してしまうので厄災ともいえる害虫です。有機栽培をしようものならキャベツは格好の餌食となってしまいます。
今回のコラムは、野菜類で発生するチョウ目害虫を中心にその種類や防除方法について詳しく解説したいと思います。
チョウ目とは
チョウ目害虫は昆虫に分類されます。現在見つかっている種の多さは昆虫が最も多くなっており地球上ではまだ見つかっていない種も数え切れないほど存在しているとされています。今日の新種の発見も全く珍しいことではありません。
チョウ目の分類について
分類学では地球上の生物を形態や生態に基づいて「界・門・綱・目・科・属・種」の階級(rank)に分類しており、昆虫は綱のなかに「昆虫綱(Insect)」として分けられています。しばしば耳にする分類に亜種や亜門など「亜(あ)」を用いたものもあり、他には、上族、下目、上綱などもあり、すべては分類手法に基づいて細かく分類されています。日本人は昆虫綱に分類される生物を便宜上「昆虫」と呼んでいるものと思われます。
チョウ目は昆虫綱の下に分類されており、鱗翅目(りんしもく)とも呼ばれることもあります。目はさらに細かく「上目」「亜目」「下目」の三つに分類され、上から順に「上目→目→亜目→下目」となっています。
チョウ目害虫の種類
チョウ目は現在確認されているだけで160,000種以上とされています。チョウ目という命名からもわかると思いますが、モンシロチョウやモンキチョウなど「チョウ」が名称の一部に使用されているものはチョウ目に分類されますが、ヨトウガやタバコガなどの「ガ(蛾)」もチョウ目に分類されます。ウラナミシジミ、タマナギンウワバ、ハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、エビガラスズメもチョウ目に分類されます。
分類 | 名称 |
---|---|
ヤガ科 | ヨトウガ |
ヤガ科 | ハスモンヨトウ |
ヤガ科 | タバコガ |
ヤガ科 | オオタバコガ |
ヤガ科 | タマナギンウワバ |
キバガ科 | トマトキバガ |
スガ科 | コナガ |
メイガ科 | アワノメイガ |
メイガ科 | アメノメイガ |
メイガ科 | ワタノメイガ |
シジミチョウ科 | ウラナミシジミ |
シロチョウ科 | モンシロチョウ |
シロチョウ科 | モンキチョウ |
スズメガ科 | シモフリスズメ |
スズメガ科 | エビガラスズメ |
次章からは、野菜類で発生するチョウ目害虫について解説したいと思います。
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ヨトウガ
ヨトウガは漢字で書くと「夜盗蛾」となります。とくにヨトウガの幼虫は「夜盗虫」とも呼ばれ、夜間に活動して農作物の葉を食害します。
孵化してから5齢幼虫までの間は集団で生活し主にアブラナ科を好んで食害します。6齢幼虫になると農作物の株元や地際の地中に潜み、夜間になると食害活動を始めます。ヨトウガはそれほど地中深くに潜らないので、食害が見受けられた場合は株元を指先や棒切れなどで少し掘ってやると発見することができます。ヨトウムシはイネ科を除くほとんどの農作物を食害するといわれており、年間に2回ほど発生するとされています。
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オオタバコガ
オオタバコガの成虫の体長は15~20mmであり、タバコガよりも少し小さなサイズです。年間に野外では2~3回ほど、施設内では4~5回ほど発生し、1回の産卵数は1000~2000個といわれています。本種は幼虫による被害が顕著で、葉、新芽、果実などを食害します。トマト、ピーマン、ナス、オクラ、キャベツ、ニンジン、トウモロコシなどの野菜やカーネーション、キク、ワタなどの花卉類を食害するため広食性の農業害虫といえます。
トマトキバガ
トマトキバガは、南米原産の害虫でトマト、ピーマン、トウガラシなどのナス科植物の害虫です。この十数年間に世界的に警戒されている害虫で、日本では2021年11月に熊本県で発見されて以降、2021年12月には宮崎県で、2022年3月には鹿児島県のトラップ調査において1匹が発見されています。
繁殖能力が非常に高いといわれており、南米では10~12世代が発生するようです。成虫は夜行性で、幼虫による葉や果実の食害が顕著であり食害部分が腐敗してしまいます。詳しい生態はわかっていませんが、低温でも卵、蛹、成虫は越冬することができるため施設栽培が発展している日本では各地で発生してしまうことが予測されます。
タマナギンウワバ
タマナギンウワバの幼虫は成熟すると体長が35mm程度となり、体には白い縦線が数本走ります。幼虫の葉の食害が顕著ですが、若齢幼虫のときは葉の表皮を残すように食害するため被害葉には白い斑点が現れることが特徴的です。幼虫が成熟してくると葉脈を残して穴を開けるように食害します。成虫は卵を1ずつ産み付けるので孵化した幼虫が集団化することはありません。気温が涼しいときに発生する傾向があり高冷地などでも発生します。年間で3~5回ほど発生するとされており、アブラナ科を中心にニンジン、シソ、ダイズなどで発生が確認されています。
アワノメイガ
アワノメイガはトウモロコシの主要害虫で、イネやソルガムなどイネ科植物に多く発生します。幼虫の食害が深刻で、孵化して3日後くらいになると葉や茎の付け根に穴を開けて茎に侵入して内部を食害します。侵入した穴は“食入孔”と呼ばれ、食入孔から糞や食害したときに発生する屑を排出します。年間で2~3回ほど発生するとされており、成熟した幼虫は茎の中や枯草の中で越冬することができます。
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モンシロチョウ
モンシロチョウの成熟した幼虫の体長は30mmほどで、初夏の5~6月頃をピークに春~秋まで発生します。アブラナ科野菜の主要害虫でキャベツ、ハクサイ、ブロッコリーなどを葉脈だけを残して暴食します。子供にも知られている昆虫で、成虫は白く、飛翔は特徴的であるため早期発見は容易ですが、1卵ずつ産卵することと移動性が高い特徴があるため防除の際は広範囲に注意を払わなければなりません。
チョウ目害虫の防除方法
チョウ目害虫の被害の多くは幼虫の食害によるところです。すでに広範囲に食害被害が認められる場合は殺虫剤を散布することが最も効果的な駆除方法です。被害が狭域であったり、栽培面積(株数)が少ない場合は物理的防除の一環として一匹ずつ捕獲して駆除することで高い駆除効果を得られます。昨今、殺虫剤の有効成分が自然環境に悪いといわれていますが、化学物質の利用が気になる方はBT剤と呼ばれる微生物殺虫剤(生物農薬)を利用することが良いかもしれません。
BT剤とは、昆虫病原性細菌であるBacillus Thuringiensis(バチルス チューリンゲンシス)の頭文字を引用した呼び方で、チョウ目害虫の幼虫に対して殺虫効果を得ることができる生物農薬です。すべてのチョウ目が対象害虫ではないので注意が必要です。バチルスチューリンゲンシスが生成する結晶性タンパク質を摂食によって摂取した幼虫は、消化器官のアルカリ条件によって毒性化した結晶タンパク質によって腸細胞の破壊が起こるため、よじれるように衰弱して1~3日以内に死亡します。
BT剤の難点は、幼虫による多少の食害を容認しなければならないことです。BT剤は散布剤ですが、予め被害対象の農作物にBT剤を散布し、BT剤が散布された葉を幼虫が食べることで体内にバチルスチューリンゲンシスを摂取させます。難点はありますが、農林水産省によって特定防除資材の指定もあるため、有機栽培の手助けになることは間違いなさそうです。
チョウ目害虫の防除に役立つ農業資材②
吸引式LED捕虫器|スマートキャッチャーⅡ
スマートキャッチャーはチョウ目害虫をはじめとするコナジラミ類やハエ類の正の走光性を利用した吸引式LED捕虫器です。スマートキャッチャーは緑色LEDと紫外線LEDが発光する機械で、これらの波長に誘引される飛翔昆虫を捕獲し、防除することができます。チョウ目害虫ではハスモンヨトウとヨトウガに効果的です。スマートキャッチャーを生長点付近に設置することで十分な捕獲能力を実感することができます。
チョウ目害虫対策は環境負荷の小さい方法を
被害対象となる農作物は異なりますが、チョウ目害虫の種類は900種近くといわれており(第2章で解説した160,000種はチョウ目の数です)、カメムシ目やアザミウマ目と比較してもかなり多くの種類が確認されています。このように多種が存在していることはそれだけ多くの農薬を開発しなければならないことを示唆しています。開発費用や労力もそうですが、農薬の使用は自然環境に良いとは言い難いです。
今回紹介させていただいた農業資材は、チョウ目害虫の習性を利用した環境負荷の小さい農業資材です。是非一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。