活着とは?
多くの農作物の栽培において、未だ軟弱で病気がちな苗を大切に育てるために、ポットやトレー、育苗ハウスなど専用の環境を用意して、苗を育てているかと思います。そして、育苗が終わると、本圃へ苗を移植する「定植」ステージへ移行します。活着とは、移植した苗が土に根付くことで、新しい環境に移植された株が、新しい土壌に順応して、根の生育を維持するための必要な働きです。
苗の活着の重要性
「苗半作(なえはんさく)」=「苗の出来栄えによって収穫物の品質の半分が決まる」と言われるように、育苗の大切さが良くわかる言葉が今でも使われています。結果的に収穫時の品質の半分は苗の品質で決まってしまうというわけです。そして次に、本圃への移植後の活着の良し悪しも、その後の生育に大きな影響を及ぼします。活着の段階で生育差が出てしまうと、その後の栽培ステージで対応をしても差を埋めていくのは難しいとされています。定植後に苗の根がポットから外側の土に馴染み活着するかどうかは、とても重要です。
苗が活着する際の植物の働き
根の活着(=植物の活動)には、とても基本的で当然のことですが、いかに光合成を安定的に行わせるかが重要です。栽培する農作物に適した日照・温度・水・土・栄養(肥料)などが提供できているかという点がポイントになります。根が養水分を吸収するためのエネルギーは、植物が地上部で光合成によりつくったデンプンです。根は、そのデンプンと酸素を結合させてエネルギーにしています。苗が定植された後、適切な環境が整っていれば、スムーズな根の伸長により確実な活着が行われます。
苗の活着不良のデメリットと発生する理由
活着不良のデメリット
活着不良を起こすと植物全体の生長が停滞します。何らかの原因で、株の根が根鉢から外側へ伸びないと、発根した根は元のポットに入っていた土の環境でしか活動ができず、全体の育ちが悪くなり、葉の萎れや変色を生じさせるなどの障害が発生します。活着不良となった株は、スムーズに活着した株と比べて明らかに生長が遅れ、その後の栽培ステージにおいても生長が追い付かなくなります。活着不良の要因は、品目によってさまざまですが、一般には以下のような条件が原因となり引き起こされるとされています。
活着不良が発生する理由
低温
気温・地温ともに農作物の栽培には大切な要素ですが、活着の段階においては、地温が適切に保たれている点が、より重要だと考えられています。マルチを被覆することで早めに地温を上げておいたり、蒸発による乾燥を防ぎ温度を保つ状態にしておいたりすることができます。土壌の含水率が低いと保温機能も低下しますので、保水という点についても留意しておく必要があります。
日照不足
天候不順などにより日照が不十分だと、光エネルギーを利用した光合成活動が低下し、葉の伸長やクロロフィル(葉緑素)の形成が抑制されます。そしてデンプンを根に送れなくなり、エネルギー源のない根は伸長しにくく苗が本圃に活着しない原因となります。また太陽の温かい光が土壌に届かず地温が上がりにくいというもう一つの悪影響を引き起こします。
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潅水不足
農作物の品目の特性や土壌の特徴にもよりますが、一般に育苗した苗の活着を促すためには株元を中心に多めの潅水が必要になります。水管理が不適切で、適量の水分が供給されない場合には、蒸散と吸水などにより水分が失われ、潅水が追い付かないと活着が悪くなります。
根が傷つく
まだ弱い状態である苗の時期に根を傷つけると、株へのダメージが大きくなり、回復するためにエネルギーを消耗し生育が悪くなったり、傷みの程度が大きいと回復せずに枯れてしまったりすることがあります。ただし、品目によっては根の伸長を促すために、断根といってあえて根を切って定植する方法もあるようです。
定植のタイミングが遅い
定植のタイミングは、苗のサイズや本葉の枚数などで判断をします。ちょうど良い時期を逃すと、根が育苗ポットに回りすぎて根詰まりとなり、本圃に定植しても根の活着が悪くなります。このような苗は生育が緩慢化し老化苗となっていきます。適切な苗の大きさや本葉の枚数は品目や品種によって異なります。
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苗の活着をスムーズに行い健康な作物を育てましょう
文化が受け入れられ見事に成熟していく様子を「根を張る」という言葉で表現します。苗も本圃で「根を張る」ことができれば、おのずと良い熟し方をしていき、品質の良いものが収穫できるのではないでしょうか。品質の良い収穫物は、価値の高い農産物として取引され収入のアップにもつながります。今回のコラムが、普段は目に見えない根の活動について考察の一助になり、定植作業の成功のお役にたてれば幸いです。
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コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。