コラム
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?
公開日2022.07.05
更新日2024.01.24

イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?

イチゴ農家では5月いっぱいで収穫が終わり、6月に入るとハウスの片づけと育苗の準備が始まります。7月になると親株から子株を切り離し、8~9月にかけて苗の育成をします。日本の殆どのイチゴは施設で栽培されているため、定植面積が確定していることから逆算することで必要となるイチゴの苗数は自ずと決まってきます。イチゴ農家の多くは翌年の定植苗を自らの圃場でランナーからの苗取りによって確保するため、必要になる苗の全量を播種苗や購入苗で賄うことは少数派となります。つまり、必要とする苗をランナーからの苗とりによって確保しなければならないという大きな課題が毎年発生します。
今回のコラムでは、ランナーからの苗とりの方法と、定植準備を含め夏の期間にイチゴ農家が行うこと、さらにはちょっとしたコツについても徹底解説したいと思います。なお本コラムでは冬イチゴにおける所謂鉢受け方式或いは鉢上げ方式によって採苗を行ったケースを想定して執筆させていただきます。

ランナーから伸びる子苗の選び方

冬から春になるにつれて気温が上がり、日長時間が長くなってくると、イチゴは徐々に生殖生長から栄養生長に傾いてきます。簡単に解説すると生殖生長は花を咲かせて果実を実らせること、栄養生長は花を咲かせないで自身の生育を進めることをいいます。イチゴの場合、生殖生長から栄養生長への切り替わりの目安にランナーの発生を挙げています。
ランナー(ほふく茎)を発生させて採苗を目的としたイチゴ株を親苗といい、一般的に秋~春の間に植え付けます。例えば露地栽培で苗採りを行う場合は、11月頃に親苗を植えつけます。寒冷紗など寒さ対策をして越冬させますが、筆者の経験上、春先に親苗をプランターやポットに植え付けるよりも冬場に露地に定植した方が、根の張りも良くなるのでランナー数が多くなると考えています。親株の定植前には勿論、元肥としての肥料、栄養生長に傾いて旺盛にランナーが発生する頃に株元に追肥をするなど土作りをしっかり行います。
ランナーの先には子苗が生じ、子苗から子苗と連続して形成が進みます。とくに最初に形成される子苗を農家は便宜上太郎苗と呼んでいます。太郎苗から形成される子苗を次郎苗、次郎苗の次は三郎苗、次は四郎苗と順々に数が加算された呼び名で表現しています。これらの子苗は適度な水分と湿度が与えられると発根し、土に定着します。ランナー切り離し後は独立して生育することが可能で、これを次作の定植苗(本圃用の苗)に使用します。

発根しやすい子苗と発根しにくい子苗

筆者は数年間のイチゴ栽培の経験がありますが、経験上、発根しやすい子苗と発根しにくい子苗をある程度簡単に判断することができます。まず発根しやすい子苗ですが、「次郎苗以降の柔らかく若い苗で、発根部位が茶色に日焼け(変色)していないもの。なおかつ、ランナー径が多少細いもの(ランナーが若いと径も細い)の方が発根率が高い」と判断しています。発根しにくい苗は「太郎苗を含む若くない苗(老化苗)で、老化した苗は次郎苗でも発根が悪い。発根部位が茶色に日焼けしたもの。」と判断しています。発根部位が日焼けする現象は、ベンチの上でプランターを使って苗採りをする場合や防草シートなどを敷いた上で苗採りを行う場合に、夏の強い日射と高い温度の影響で発生が多くなります。

子苗の育成方法

ランナーの先に発生する子苗は、発根する前はランナーを頼りに親株から水分や養分を供給してもらって成長します。子苗が大きくなる過程で条件が整うと発根が進み、さらに苗が大きくなると根量が増加して少しずつ養水分的にも物理的にも自立できるようになります。このとき、発根が進む前に子苗をピンなどを使って固定しないと、子苗が寝た状態で発根が進んでしまい正常な苗にならなくなってしまいます。通常子苗は発根部位が湿った土壌に接すると発根が進みますが、旺盛な品種は土壌がなくてもベンチや防草シートの上でも発根が進みます。ピンなどでランナーと子苗の付け根を固定することで立った綺麗な苗に仕上げることができます。
培養土を充填したポットに子苗を受けた後は灌水に注意が必要です。ポットは地面の土壌と違って灌水をしないと水分が供給されません。露地の地面で苗採りをしていた場合、発根がある程度進んで自立していた子苗をポット受けした途端に萎れてしまうことが度々発生します。萎れの殆どはポットに灌水を行わなかったことに起因します。ポット受けを行なう時期は夏なのでポットの水分はあっという間に減少し、子苗が吸水する水分は失われます。これを解決するために、地面にポットを半分ほど埋め込む方法があります。ポット側面からの日射量が減少するため、ポットの水分の蒸発が抑制でき子苗の萎れによる失敗を防ぐポイントです。

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子苗の切り離し

十分な根量と根長が確保できたら子苗をランナーから切り離して独立させます。切り離しの注意点として親株側のランナーを3cmほど残します。これには2つの理由があります。1つ目はイチゴ炭疽病とイチゴ萎黄病に感染するリスクを軽減させるためです。どちらの病気も土壌性の植物病原微生物が原因で泥撥ねなどの水の移動によって植物の傷から侵入します。イチゴではランナー切り口や摘葉の傷口から侵入することが多く、ランナーを少し残すことで土壌と傷口(切り口)の距離を開けることが目的です。2つ目は定植をスムーズに行うためです。イチゴの花房は通常同じ向きから発生します。苗が地際に傾いている方から発生するため、ランナーを切り残す側とは反対側になります。イチゴの定植には一定短期間で行わなければ頂果房収量に悪影響を与えます。そのためアルバイトやパートさん、或いは技能実習生など農家より不慣れな方も協力して行われるイチゴの定植がよりスムーズに効率よく行われる工夫も併せ持っているといえます。

子苗の育苗方法

ランナーから切り離した子苗は定植までの間に育苗を行い、クラウンの充実を図ります。クラウンは摘葉ごとに大きくなるため、クラウンの充実は言い換えると、葉をたくさん展開させることになります。この時期のイチゴはおよそ一週間に1枚のスピードで葉が展開します。子苗の葉数は風通しやハダニなどの害虫発生も考慮され3~4枚程度で管理されますが、作業性も考慮すると、摘葉は一週間に1回ほどです。この摘葉作業をランナー切り離しから定植までの約2か月間に行い、大苗だとクラウン径は小指ほどになります。農家さんの工夫によって、クラウン径は鉛筆ほどに仕上げることもあります。

定植のタイミングと、定植後作業の準備

育苗した子苗は検鏡して花芽分化が確認できたときに定植を行います。このタイミングより早くても遅くても頂果房収量に影響が及びます。花芽分化より早く定植を行うと、花芽の分化が遅れます。これは花芽分化が窒素の低下によって引き起こされることに起因しています。花芽が分化してから遅れて定植を行うと、頂果房に十分な栄養を供給することができず収穫量が減少します。このためイチゴ農家は検鏡という重要な作業によって定植期を判断しています。

定植後の作業の準備

イチゴは定植したら収穫を待つばかりの植物ではありません。定植後の大きな作業はマルチング、ビニール張替、電照の取り付けです。勿論、この間にランナー取り、消毒、摘葉や補植(病害苗の植換え)などの作業も行います。このなかでも最も大変な作業はマルチングです(筆者はマルチングが最も大変な作業の思い出です)。暑いビニールハウスの中で作業するので体力的にかなり厳しいですが、苗の真上に穴を開け続ける作業が相当にしんどい作業です。ビニール張替は風の吹かない乾いた日に行います。風が少しでも吹いているとビニールが風に煽られてしまい、ハウスの中心にビニールが合わせられないだけではなく何かに引っ掛かって破れてしまったり、ビニールがぐしゃぐしゃになって使い物にならなくなる恐れもあります。電照の取り付けは上を向いて行う作業という点では大変ですが、短い一定期間に行わなければならないマルチングやビニール張替よりも気が楽な作業です。電照の発光確認を行うことを怠ると、電照期間に慌てて電球を調達しなければならなくなるのでしっかり準備をしておきましょう。

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イチゴの育苗に役立つ微生物資材

キンコンバッキー

イチゴの育苗期間に使用を勧めているアーバスキュラー菌根菌資材です。キンコンバッキーを水で2000倍に希釈して鉢上げ後あるいはランナー切り離し後に、株あたり50mlの希釈水を灌水します。およそ1ヵ月でイチゴの根にアーバスキュラー菌根菌が共生して、定植後の発根やリン酸吸収が向上し、花数増加や果重増加などの効果を期待できます。アーバスキュラー菌根菌はイチゴの若い根に共生しやすいため、定植後に使用するよりも育苗期間中の使用が最も合理的です。また、気温(地温)が高い方が共生が良くなる傾向があるためイチゴに対するアーバスキュラー菌根菌の使用は取り分け相性が良いとされています。

 

イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
粘土鉱物粉末に菌根菌が付着しています
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
水で希釈します
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
希釈水をポット苗やマットに灌水します。ドブ漬けもできます。
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
4種類のステッカーラベルをラインナップ!!(内容物は変わりません)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
キンコンバッキー共生の様子(マリーゴールド)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
キンコンバッキー共生の様子(マリーゴールド)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
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イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
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イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)

イチゴ栽培で活躍するナノバブル水

ナノバブル水製造装置

ナノバブル水に含まれる微細な空気の泡は、引き締まった培土に対して緩衝材のような役割をもってストレス緩和に貢献することが期待できます。ナノバブル水の特徴の一つに、ナノバブルの表面は電気的にマイナスを帯びていることがありますがこれは電気的にプラスの肥料分を引き寄せることができるそうです。そのためK⁺、Ca²⁺、Mg²⁺などの肥料分はナノバブル水に運ばれるかたちで植物の根まで到達できるそうです。このことはナノバブル水の利用でイチゴのカルシウム欠乏症(チップバーン)が緩和する効果で観察でき、実際の農家でも実感している有効効果です。その他にも液肥を少し薄めに流しても肥効を得られるなどポジティブな点があります。

イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ナノバブル水製造装置100Lタイプ
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ナノバブル水製造装置200Lタイプ
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
根活20Lタンク
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ナノバブル水製造装置(50L)の設置の様子。
雨よけできる納屋やハウスに設置します。
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ナノバブル水製造装置(50L)の設置の様子。
本体が安定するように水平をとります。
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ツマミが1つ、ボタンが1つなので操作が簡単!!
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
ナノバブル水の製造時間を12時間に設定。毎日自動で製造します。写真は夕方18:00~早朝6:00。
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
水位センサー(左)とナノバブル生成器(右)
イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
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イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?(イメージ)
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丈夫な苗を育ててスタートダッシュを成功させよう

正直なところイチゴ栽培初心者や家庭菜園レベルならばイチゴの苗採りは難しい作業ではありません。しかし、生産農家レベルになると気を使う難しい作業だと思います。イチゴ農家の収入は頂果房で左右されるため、言い換えると、どのような苗を仕上げるかで頂果房収量が左右されます。育苗中に大切な苗を萎れさせようものなら、イチゴの体力や花芽分化に大きな悪影響を与えるため絶対に萎れさせてはいけません。
イチゴの育て方や育苗については別のコラムでも紹介しています。そちらも是非参考にイチゴ苗作りをしてみてはいかがでしょうか。

こちらのコラムも是非ご覧ください
>>>アザミウマ類からイチゴを守る対策とは?
>>>イチゴ栽培で葉面散布をするべき理由とは?|効果と対策を徹底解説

イチゴの増やし方と苗作り|イチゴ農家が夏にやることとは!?

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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