今回のコラムは、農業害虫として重要なオンシツコナジラミとタバココナジラミについて詳しく解説したいと思います。
コナジラミとは
コナジラミはカメムシ目コナジラミ科に分類される昆虫で、世界中には1000種以上が確認されています。種にもよりますが体長は1.0mm前後、成虫の翅は蝋質で覆われています。産卵は葉裏で行われ、25℃条件の場合21-26日ほどで卵から幼虫を経て成虫に成長します。
寿命
1齢幼虫は歩行でき、2齢幼虫以降は定着します。寿命は気温によって大きく変化するようで、20℃で約40日、30℃で約15日といわれています。野外では3-4世代、ハウス内では10世代以上が経過します。
寄生植物と誘発および媒介する病害
野菜類ではトマト、キュウリ、ナス、ピーマン、ニガウリなどのナス科やウリ科に、花卉ではポインセチアやキクなど、さまざまな植物に寄生します。これらの葉に寄生して吸汁被害を与えますが、最も深刻な被害は排泄物が「すす病」を誘発することです。また、コナジラミの種によってはウイルスを媒介し、特定の植物にウイルス病を罹病させます。ウイルス病に罹病すると化学合成農薬を利用しても治療することができないため、圃場への侵入を防ぐことあるいは媒介される前に防除することが主な対処法となります。
コナジラミの種類
農業上重要なコナジラミの種類はオンシツコナジラミとタバココナジラミです。後述しますが、一部を除いて両種とも海外から侵入した所謂外来生物です。徹底した予防と駆除を行わなければ多発して、農作物に甚大な被害を与えます。特に施設栽培では周年発生するので繁殖力を強いといえます。
本章では、オンシツコナジラミとタバココナジラミの紹介をさせていただきます。
オンシツコナジラミ
学名::Trialeurodes vaporariorum(Westwood)
オンシツコナジラミはアメリカ大陸が原産とされています。貿易の発達によって日本に侵入し最初に確認されたのは1974年と記録されています。現在では日本中に分布してしまい、野菜類、花卉類、果樹類を加害、特に施設園芸では重要害虫として認知されています。20℃程度が生存適温とされ、温室のなかであれば関東以北の気温の低い地域でも越冬あるいは周年活動することができます。
関連するコラムはこちら
>>>作物に寄生するオンシツコナジラミの対策と予防方法の基礎知識
タバココナジラミ
学名:Bemisia tabaci(Gennadius)
タバココナジラミは中東が原産とされています。貿易の発達とともに世界中に拡散し現在は日本中のどこにでも分布しています。日本へは観葉植物であるポインセチアの輸入の際に侵入したとされており、1989年に最初の確認が記録されています。タバココナジラミは40以上存在するといわれているバイオタイプに分けられます。バイオタイプjpLは日本の在来系統とされており、バイオタイプBとバイオタイプQは海外から侵入した系統とされています。ちなみに1989年に最初に確認されたのはバイオタイプBといわれています。また、シルバーリーフコナジラミはタバココナジラミのバイオタイプとして位置づけられていることが近年の動向のようです。バイオタイプjpLはスイカズラをはじめとしたいくつかの農作物に寄生しますが大きな被害を与えることはありません。しかし、バイオタイプBとバイオタイプQは農業上非常に重要と位置付けられているウイルスを媒介します。
次章では、コナジラミが誘発および媒介する病害について紹介いたします。
コナジラミが媒介するウイルスや病気
コナジラミの被害は、コナジラミ自身が植物に与える吸汁被害とコナジラミが誘発および媒介する病害に大きく分けられることが特徴です。そのなかでも懸念すべき被害はコナジラミが誘発する「すす病」、コナジラミが媒介するウイルスから発生する「トマト黄化葉巻病」と「ウリ類退緑黄化病」です。
すす病
すす病はコナジラミの排泄物が原因で発生し、アブラムシやカイガラムシの排泄物からも発生します。すす病は糸状菌の一つで、すすが覆ったように植物の葉が黒く覆われてしまいます。この排泄物は「甘露」と呼ばれ、字のごとく甘い露だそうです。この甘露を舐めるためにアリ(蟻)が植物に集まります。アリは植物自体に被害を与えませんが、周辺に巣を作る、あるいは収穫への混入が懸念されます。
トマト黄化葉巻病
トマト黄化葉巻病はトマト黄化葉巻病ウイルスが原因でトマトに発生します。タバココナジラミのバイオタイプBがトマトにウイルスを媒介することが知られており、日本では1996年に確認されたのが最初のようです。バイオタイプBが最初に確認されたのが1989年なので、僅か7年で重大な病気が確認されたことになります。
トマト黄化葉巻病はウイルス病です。農業上発生するどのウイルス病も同じですが、一度ウイルス病に罹病してしまうと化学合成農薬を施用しても治癒することができません。トマト黄化葉巻病の症状は、生長点が黄化し葉を巻くようになり徐々に萎縮します。罹病後は結実しなくなるため収穫量は激減します。コナジラミは永続的にトマト黄化葉巻病ウイルスを媒介するため、発病株周辺への蔓延が著しいです。
ウリ類退緑黄化病
ウリ類退緑黄化病はウリ類退緑黄化病ウイルスが発生原因となりキュウリやメロンなどのウリ科野菜に影響を及ぼします。タバココナジラミのバイオタイプBおよびバイオタイプQの両方がウイルスを媒介するとされています。ウリ類退緑黄化病は2004年に確認されたのが最初とされています。
ウリ類退緑黄化病の症状は、最初に葉に退緑小斑点を生みます。小斑点は徐々に大きくなっていき一つ一つの斑点が合わさって、葉脈間を残して葉全体が黄化します。発生すると果実品質や収穫量が減少します。コナジラミは永続的にウリ類退緑黄化病ウイルスを媒介するため多発傾向にあり、発病株周辺への蔓延が著しいです。
コナジラミの発生しやすい環境条件
どのような害虫にも発生しやすい環境条件が存在します。そして多くの農業害虫の発生しやすい環境条件に、圃場周辺の雑草の存在が挙げられ、コナジラミもまた然りです。圃場周辺に雑草が多い場合はコナジラミの温床になっているかもしれません。また、コナジラミの生存適温は凡そ20℃前後とされています。暖地では成虫で、寒地では卵で越冬するといわれています。寒い時期でも暖かいハウス温室の中で越冬する個体も存在するため、施設栽培をしている農家にとっては周年発生する害虫となっているのが実情です。
コナジラミの駆除方法
コナジラミ対策は多くの方法が提案されていますが、なかでもIPM(総合的害虫管理)において物理的防除が中心的に考案されています。
本章ではコナジラミの対処方法についていくつか紹介したいと思います。
除草、防草
コナジラミに限りませんが、雑草は様々な農業害虫の温床です。ミナミキイロアザミウマの例になりますが、過去の研究から、冬期の間、開放したハウスに茂っていた雑草に生息し完全に死滅しなかった報告があります。農業害虫の温床である雑草の除草、防草は根本的解決の一つといえます。
防虫ネット
防虫ネットはハウス外部からの侵入を防ぐ目的に利用され、最も効果的な対策といえます。目合いは0.4mm以下が効果的です。0.4mm以下の目合いはアザミウマ類の侵入抑制にも効果的なので重要害虫に対する汎用性も高いです。注意事項としては、目合いが小さいほど通気性が悪くなるおよびハウス内温度が上昇するので、通気性が影響するうどんこ病や灰色かび病など病害や温度上昇による徒長や薹立ち(とうだち)などを考慮する必要があることです。
シルバーマルチ、光反射シート
コナジラミは背光反応を示す昼行性の昆虫です。背光反応とは、背中で太陽の光を受けて姿勢を保つことをいいます。通常、太陽は上空に存在しており上から下に太陽光を浴びせます。ところが、シルバーマルチや光反射シートで太陽光を反射させてコナジラミの背中側以外に反射光を当てると、コナジラミは姿勢を保つことができなくなり行動を抑制されてしまいます。これによって、ハウス内への飛来防止や植物への定着を抑制する効果が得られます。
黄色粘着板
オンシツコナジラミとタバココナジラミの両種は黄色に対して正の走光性を示します。その習性を利用して黄色の粘着板が農業現場で利用されています。黄色粘着板はコナジラミ類の他にもアザミウマ類、アブラムシ類やハモグリバエ類にも効果があり、比較的低コストで設置できるところにメリットがあるといえます。
天敵
生物農薬としてコナジラミ類に効果が認められている天敵はサバクツヤコバチとオンシツツヤコバチが挙げられます。これらの天敵は市販されており誰でも購入できます。天敵導入の注意点は、導入価格が高額になること、天敵の殺虫性のある農薬を使用できなくなること、害虫個体数を0に抑え込むような完璧な防除方法ではないことなどが挙げられます。
また、本コラムでは言及しませんが昆虫病原性微生物を利用した商品も販売されているようです。
農薬
農薬散布は上記と比較して徹底した駆除効果が期待できます。例えば神経の電子伝達に対する阻害作用を効力とする農薬があり有機リン系やネオニコチノイドが一例です。また、特定防除資材である酢にも農薬的効果があるようですが、経営栽培においての予防方法としては検討対象にはならないといえます。小規模のベランダやガーデニングでは無農薬栽培ができるのでおすすめのコナジラミ駆除方法です。
関連するコラムはこちら
コナジラミ対策に最適な製品①
スマートキャッチャーⅡ
コナジラミ類の正の走光性を利用したビニール向けLED捕虫器です。専用ACアダプターで電源を取り、ハウスの骨組みなどに吊るして使用します。生長点の高さになるように設置することが成果を上げるポイントです。1,000m2あたり2台の設置が目安になります。
現地レポートはこちらからご覧になれます⇒スマートキャッチャー編 #1(トマト・キュウリ)
コナジラミ対策に最適な製品②
コナジラミキャッチャー
コナジラミ類の正の走光性を利用したビニール向け予察捕虫器です。誘引剤でコナジラミを誘引し黄色粘着板に引き寄せます。電源が不要で、ハウスの骨組みなどに吊るして使用します。誘引剤はおよそ3か月間使用できます。100m2当たり1台の設置が目安です。
コナジラミの生態を理解して適切な害虫管理をしましょう
ハダニやアザミウマと比較するとコナジラミはクローズアップされにくい害虫だと思います。しかし、トマトやウリ類などコナジラミが原因となる重要病害が存在するのもまた事実です。産地ではこのような重要病害の発生に対して“警報”が発せられることがあります。警報が発せられると、経営栽培農家に限らず、家庭菜園での害虫管理も徹底するように連絡されます。産地全体で適切な対策を行うことがコナジラミの被害を抑える大切なポイントなのかもしれません。
今回のコラムが皆様のお役に立ったならば幸いです。
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。