今回のコラム記事では窒素肥料について種類や役割など紹介します。
植物に対する窒素の働きと役割
窒素(N)は植物の生命維持に重要な成分で、光合成に必要な葉緑素(クロロフィル)の構成成分、細胞分裂に関わる成分といったところが窒素のわかりやすい役割でしょう。窒素が欠乏すると植物の葉色が薄くなり緑→黄緑→黄と追って色が抜けていきます。また窒素が過剰になると濃緑色の葉色になり緑というより黒と表現できそうです。農業においてではイチゴの花芽分化を促すために意図的に窒素を切ることがありますが、栽培初心者だと窒素の欠乏や過剰を起こしてしまうことがあるので目視による診断基準としては葉色を観察すると良いです。このことは窒素が葉緑素の構成に役割を果たしている分かり易い事例であると言えます。
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野菜栽培の窒素過多対策|地力窒素との関係
有機態窒素と無機態窒素
ここでは有機態窒素と無機態窒素について触れていきます。
有機態窒素
有機態窒素とは「動植物や微生物などの遺体からなる土壌有機物に含まれる有機化合物としての窒素」と松中著の“土壌学の基礎(2003)”に記されています。つまり、ミミズやダンゴムシやオケラや木の葉などはいずれ有機態窒素として土壌に供給されるということ。筆者の経験だと、50μm程の篩(ふるい)で土壌を濾して顕微鏡で観察すると菌根菌、センチュウ、名前もわからない微生物が観察できます。これらの有機態窒素に成り得る土壌の生物は1㎡あたり11gに換算できるということで非常に興味深い。また、牛糞や鶏糞などの動物性堆肥も有機態窒素の供給源で、動物性堆肥には有機態窒素以外にも有機態リン酸や無機態カリウム(カリウムは有機態をつくりません)などが含まれています。
無機態窒素
土壌の中においては微生物によって有機態窒素が分解されて無機態窒素に変化します。土壌微生物による分解順序は、有機物(有機態窒素含む)→タンパク質→アミノ酸→アンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素で、植物は絶対好気性菌である硝化菌によって硝化作用を経た硝酸態窒素を窒素栄養として根から吸収します。
分解過程にアミノ酸がありますが、必須栄養素ではないアミノ酸を含む肥料が近年増加しています。アミノ酸を含有した肥料を施用するとトマトやミカンなどの果実糖度やコクが改善する症状が見られたとうい農家からの報告を聞きますが、最近の研究によって有機態窒素であるアミノ酸を植物が直接吸収することがわかってきているようで、BLOF理論という考え方も広まっているようです。
窒素肥料の種類と効果|窒素質肥料について

【参考資料】
独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC),「肥料の品質の確保等に関する法律」
農林水産省,「肥料制度の解説」
硫安
硫酸アンモニウムの略称です。アンモニア態窒素を約21%含んでおり速効性が高く、最も一般的な窒素肥料として水稲や野菜などの元肥・追肥で広く利用されています。要点は硫安には硫黄(S)が含まれていること。そのため硫安のpHは酸性を呈しており土壌pHを低下させることがあるため、その場合は石灰質肥料(Caを含む肥料)を入れてpH矯正を行います。
塩安
塩化アンモニウムの略称です。アンモニア態窒素を約25~26%含んでおり速効性が高く、主に水稲栽培に利用されています。嫌気条件(酸素が少ない条件)で生育する水稲などはアンモニア態窒素を吸収するものが多く、また、塩安には塩素(Cl)が多く含まれているため、耐塩素性が高い水稲やムギ類、飼料作物である牧草などに利用されています。塩安のpHは酸性を呈しており土壌pH低下させることがあるため、その場合は石灰質肥料(Caを含む肥料)を入れて矯正します。
農林水産省,「作物の耐塩性(適範囲の上限)」を参考に記載
硝安
硝酸アンモニウムの略称です。アンモニア態窒素と硝酸態窒素を同量ずつ含んでおりそれぞれ16%以上とされています。元肥には適しておらず主に畑作や果樹の追肥として利用されます。硝酸態窒素を含む硝安を水稲栽培に利用することは適しておらず、これは水稲がアンモニア態窒素を好んで吸収する性質があり、また、吸収されない硝酸態窒素が水田の水によって流亡するからです。硝安のpHは中性のため硫安や塩安のように土壌pHを矯正する作業は殆ど必要ありません。
尿素
尿素態窒素を46%含んでおり窒素質肥料の中で最も窒素含量が高く、また、速効性が高いです。尿素は土壌微生物によって加水分解され、アンモニア態窒素と硝酸態窒素に変化して植物に利用されます。尿素は単肥だけでなく化成肥料の原料にも使用され、元肥や追肥として利用できます。尿素のpHは中性のため土壌pHを矯正する作業は殆ど必要ありません。
石灰窒素
およそ20%の窒素が含まれており、窒素成分はシアナミド態窒素です。石灰窒素は土壌に施用されると加水分解してシアナミドを経て尿素に分解されます。この過程で生成されるシアナミドには殺虫、殺菌、除草の効果が認められており農薬成分として登録されています。石灰成分が含まれているためpHはアルカリ性です。
窒素を含む有機物質|特殊肥料について

特殊肥料とは「(1)魚かす等の農家の経験等によって識別のできる簡単な肥料、(2)堆肥等の肥料の価値又は施肥基準を含有主成分量に依存しない肥料など」と農林水産省で定義されています。これに準じた特殊肥料の種類として魚かす、くず植物油粕、米ぬか、コーヒー粕、アミノ酸粕、堆肥などが挙げられています。これらの特殊肥料には含有成分の記載がないものも流通していますが窒素やリン酸など植物の生育に必須な成分が含まれています。また堆肥には無機質肥料では得られない地力回復(フミン酸等の腐植物質の含有、土壌物理性改善など)があるため積極的に使うべき特殊肥料です。
【参考資料】
農林水産省,「特殊肥料」
独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC),「特殊肥料等を指定する件」
魚かす(魚粕)
乾燥した魚が原料で「粉末にしないもの」として指定されています。原料の魚はイワシやカツオなどが多いようです。NPK含量は10%未満の製品がよく見受けられ、また、動物性アミノ酸を含有していることが特徴です。
米ぬか(米糠)
玄米を精米したときに発生する外皮の粉です。ぬか漬けや化粧品などでも使用され幅広い利用価値があり、植物に対しても魚粕や油粕と混合して発酵させたぼかし肥料として利用されます。定義はありませんが米ぬかのNPK含量は5%前後と思われます。
油かす(油粕)
植物から油を搾り取った後に残るカスが原料です。FAMICの告示を参考にすると草本性植物種子皮殻、くず植物、木の実が挙げられており、流通している製品には大豆、菜種、椿などの表示が見受けられます。定義はありませんが油かすのNPK含量は5%前後と思われます。
堆肥
堆肥は特殊肥料に分類されます。動物性堆肥は牛糞、豚糞、鶏糞などの家畜ふん、植物性は落ち葉、稲わら、バーク(樹の皮)などがよく利用されます。これらを流通販売する場合はNPKなどの成分含量の記載が義務づけられており、とりわけ豚糞に関しては銅と亜鉛、鶏糞に関しては亜鉛に表示規制があります。家畜ふんは動物によってNPK含量に特徴があるものの概ね牛糞は2~3%(カリウムが少し高い)、豚糞は3~5%(リン酸が少し高い)、鶏糞は3~6%(リン酸が少し高い)となるようです。
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もみ殻堆肥とは?作物が育ちやすい土壌を実現する肥料の作り方
有機質肥料について|乾燥菌体肥料とは

*魚かすなど、「粉末にしないもの」は特殊肥料、「粉末であるもの」は有機質肥料になります。
【参考資料】
独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC),「肥料の品質の確保等に関する法律に基づき普通肥料の公定規格を定める等の件」
農林水産省,「肥料制度の解説」
乾燥菌体肥料
「有機質肥料」に分類されます。窒素については、「窒素全量5.5%」あるいは「リン酸、カリウム、ケイ酸、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素、硫黄を含む場合は窒素全量4.0%」が含有最小値として保証しなければなりません。また、登録されるためには「植害試験の調査を受けて害が認められないものであること」等が条件となります。原料の種類は菌体由来物質を乾燥したものや食品等工場活性沈殿物を加熱乾燥したもので、簡単に表現すると、工場から排出された食品残渣で、これには菌体が含まれており、菌体由来物質は乾燥を、食品等工場加活性沈殿物は加熱乾燥をしたものです。菌体は放線菌などが含まれます。
詳しくは「肥料の品質の確保等に関する法律に基づき普通肥料の公定規格を定める等の件」(p.22、p.56、p.63、p.67)を参照してください。
菌体肥料
「副産肥料等」に分類されます。成分を保証する場合は含有最小値が定められており、多量要素は1%、ケイ酸は5%、マンガンは0.1%、ホウ素は0.05%となっています。原料の種類は食品等工場活性沈殿物や食品等工場活性沈殿物に動物由来物質、植物由来物質または菌体由来物質を混合し、堆積または攪拌して腐熟させたものです。食品等工場活性沈殿物には菌体が含まれており、また、植害試験の調査を受けて害が認められないものであること等が登録条件に含まれます。
詳しくは「肥料の品質の確保等に関する法律に基づき普通肥料の公定規格を定める等の件」(p.24、p.55、p.63、p.67)を参照してください。
菌体りん酸肥料
「りん酸質肥料」に分類される比較的新しい肥料で、汚泥資源として注目されています。成分を保証する場合は含有最小値が定められており、多量要素は1%、ケイ酸は5%、マンガンは0.1%、ホウ素は0.05%となっています。ただしリン酸についてはリン酸全量1%が最小値として含まれていなければなりません。原料の種類は排水処理活性沈殿物や排水処理活性沈殿物に動植物質の原料を混合したもの等、細かく指定されています。汚泥資源のその特徴から、有害物質許容量や植害試験の調査を受けて害が認められないものであること等、肥料として登録されるための条件が多く、安全性への配慮が高い肥料です。
詳しくは「肥料の品質の確保等に関する法律に基づき普通肥料の公定規格を定める等の件」(p.9、p.55)および「菌体りん酸肥料の解説」を参照してください。
窒素肥料の使い方と注意点

アミノエイト|環境循環型遅効性アミノ酸肥料
乾燥菌体肥料であるアミノエイトには保証成分として窒素が8%含まれており、原料のタピオカ澱粉残渣は国内大手食品工場から供給され豊富なアミノ酸に加えて放線菌が含まれています。リン酸が1.47%と僅かに含まれていますが基本的には窒素栄養が主体なので施肥設計し易い肥料です。土壌に入ったアミノ酸は微生物のエサとなるため微生物が活発になり、またアミノエイトに含まれる放線菌によって有機物の分解を早めます。葉菜類や果菜類などの食味向上や果実肥大等が期待できます。
腐植マスター|日本原料日本製造のエコ資材
高濃度腐植酸が含まれる腐植マスターには植物が必要とする種々栄養素が含まれており、NPK、Ca、Mg、アミノ酸、Zn、B、腐植酸(フミン酸)、放線菌含む有用微生物を含有しています。肥料の種類は堆肥。日本原料日本製造のため、輸入製品に係るリスクが回避できています。対象植物を選ばず作物、野菜、果樹などに使用でき、元肥、追肥、礼肥で使用できます。腐植酸による不可給態リン酸の分離、土壌改良、食味向上や糖度アップなど様々な効果が期待できます。
BioSもろみ|地域資源を有効利用
琉球泡盛の蒸留後に残る泡盛粕を有効利用したBioSもろみはアミノ酸と微量要素が主体の液体肥料です。含有するクエン酸は植物が肥料栄養を吸収しやすくする効能を持っており、そのため高温や低温によって植物活性が低くなる時期に施用すると植物の栄養吸収が促されます。BioSもろみは栽培ステージによって推奨するパッケージが異なります。それぞれのパッケージの栄養組成を変えており、定植以降は「もろみM」、着果以降は「もろみKC」、収穫以降は「もろみJS」を勧めています。
海藻ミール・アルガペレット|自然環境に配慮した有機JSA肥料
海藻ミールとアルガペレットは海藻由来のアミノ酸に加え、殆ど全ての必須元素を含んでいます。海藻ミールはインドネシア産ホンダワラを3mm程に粉砕した形状で、アルガペレットは海藻ミールに米糠を加えてペレット状にしたものです。成分の主体はアミノ酸となっており、特に果菜類や果樹ではコクや糖度アップの効果が期待できます。
おわりに
最も基本的な植物栄養である窒素は、土壌中においては微生物の分解によって様々な形に変化し、また、供給源(原料の種類)も多様です。供給源の多様さは今日における資源枯渇問題やそれに係る資源循環の変容も背景にあり、令和以降に公定規格において分類された菌体りん酸肥料は汚泥資源を無駄なくというコンセプトがよく理解できます。
昔からある窒素質肥料は馴染みがあって効果も計算し易いので欠かすことができない重要な肥料ですが、ここ数年の肥料価格暴騰や環境配慮の風潮から、施用する肥料の供給量を一部でも環境保全型肥料に変えるアプローチも中長期的な営農に必要なことかもしれません。
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了。その後2年間農家でイチゴ栽培を経験する。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌とバイオ炭を利用した野菜栽培の研究に着手。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。
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【もろみKC】果実品質向上と光合成サポートに強み
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有機態窒素