とりわけ今回のコラムではオゾン水を利用した脱臭(消臭)にスポットをあてて解説したいと思います。
オゾンとオゾン水の違い
そもそもオゾンは1840年に発見された気体です。オゾンを人為的に発生させるためには紫外線照射方式、放電方式、電気分解方式などがあり発生の仕組みがそれぞれ異なっています。発生させたオゾンには除菌、抗ウイルス、脱臭などの効果がありオゾンの状態(気体か液体か)や濃度によって有効効果が変わってきます。
本章では気体で存在する「オゾン」と、気体のオゾンを水に溶解させた「オゾン水」についてそれぞれ解説します。
オゾン(気体)
オゾンは常温で無色、特有の臭いをもつ気体です。オゾンガスとも呼ばれます。分子式はO₃で酸素原子(O)が3つ結合されて生成されます。地上から高度20~25kmの成層圏*には4~5ppmの高濃度で存在し、私たちが生活している対流圏**では0.03~0.04ppmのオゾンが大気中に存在しているといわれ、知らず知らずのうちに身近に存在している気体と言えます。自然界では非常に強い酸化力をもった部類に入り、この性質を利用して殺菌、抗ウイルス、脱臭などの用途に用います。
たとえばオゾンガスはオゾンガス発生装置を用いることでオフィス、ホテル、車内などでも利用されており、家庭のペット部屋など室内環境でも高い脱臭効果を得られます。オゾンは除菌、生活臭(タバコ臭や体臭など)の脱臭効果が高いですが、空気中のカビやウイルスを除去することで空気清浄化や収穫物の長期保存にも利用されています。
オゾンそのものの生成には化学的な材料が必要とされないため、「持続可能」や「環境配慮」といったキーワードと結びつけることができます。
成層圏*:地上から高度11~50kmまでの大気の分類。
対流圏**:地上から高度0~11kmまでの大気の分類。境界層(0~1km)と自由大気(1~11km)に分けられる。
オゾン水(液体)
オゾンが水に溶解したものをオゾン水と言います。溶解方法はいくつかあるようですが、オゾン水そのものの有効効果はオゾン水に溶解しているオゾン濃度によって決まってきます。また殺菌効果を得ることにオゾン濃度が関係しているほか、殺菌対象とオゾン水の接触時間も関連が深いです。
オゾン水はその性質上、生成後は急速に効果が失活していく不安定な水溶液です。オゾン濃度や使用環境によって変わってくるので一概には言えませんが、生成後数分で大半のオゾンが分解して酸素に戻ってしまいます。一方からみれば使い勝手が悪く感じられますが、また一方から見れば、残留性がなく自然環境に負荷を与えない殺菌ツールとして捉えることができます。
オゾン水は食中毒予防の目的で食品に利用されることがあります。使用方法は簡単で、たとえば野菜や果物の場合はそれをオゾン水で洗うだけ。浸漬すると効果が上がります。大腸菌や黄色ブドウ球菌などは2ppmのオゾン水を30秒暴露することで完全に殺菌できる実験があります。また化学農薬を分解できるとの記述もあります。認可された使用方法ではありませんが、うどんこ病防除効果も検討されており、今後農業分野への普及が期待されています。
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オゾン水って安全なの?危険なの?
一般的に販売されているオゾン水(生成装置)は危険性がなく安全なものであるといって問題ないです。
工業的に利用される高濃度オゾン水は人体に有害であることがありますが、たとえば私たちがオゾン水として利用している(利用できる)1ppm程度であれば全く危険ではありません。筆者は1~1.5ppmのオゾン水を夏場にシャワー代わりで浴びていますが異常が発生したことは一度もありません。うがいに用いれば口臭予防、足にかければ水虫予防と有効的です。
オゾン水は医療分野でも殺菌目的で利用されており、動物医療についても外傷治療や感染症対策で利用が広がっており、普段オゾン水を使うことの安心材料の一つになるのではないでしょうか。
オゾンガスについても、オゾン生成器の各メーカーが唱えているように人体に異常を発生させないオゾン濃度以下で生成器が設計されています。たとえば日本産業学会では「0.1ppmは作業員が通常8時間、週40時間暴露しても健康上問題ない」と示しています。
オゾン水はどのようなものを脱臭できるのか
臭いの種類は様々です。
飲食店などの厨房では油もの、カレー、焼き鳥、中華料理など臭いが強いと思います。シンクや排水口も臭いの発生源になります。ゴミ置き場も例外ではありません。上記でも述べたタバコ臭。駅や公園などのトイレも強烈な場合がしばしばです。
これらの現場やシーンでオゾン水は活用でき、飲食店では清掃時の水をオゾン水に取り換えることで効率的に脱臭効果を得ることができます。
農業現場では収穫物の調整場が臭いで困る場合があります。調整場では水を使用することが多く、残渣が溶けたり残渣に付着していた病原菌が水を得ることで腐敗し臭いを発生させます。これらについては次章で詳しく解説したいと思います。
農業を取り巻くオゾン水の利用シーン
農業においてはオゾン水を利用できる場面がいくつかあります。とりわけ六次産業化して調理作業が発生した農家ではオゾン水の利用シーンが更に増えてきます。
ただし農業でオゾン水を使用する場合に注意事項があります。
ここまで述べてきたようにオゾンには殺菌効果や脱臭効果などがありますが、栽培中の植物に対してオゾン(オゾン水)を農薬の代わりに使用することはできません。オゾンは農薬ではないので使用すると農薬取締法に触れてしまいます。しかし、収穫後の農産物は食品にあたるため問題なく使用でき、厚生労働省によってオゾンは「既存添加物」として認可されており殺菌用途で使用が可能です。
これらを踏まえたうえで、農業においてオゾン水が利用できるシーンについて紹介したいと思います。
野菜や花卉の洗浄(出荷調整場)
根菜や葉菜類では土を落とすために水で洗浄してから出荷する場合があります。ダイコン、ニンジン、サツマイモ、ホウレンソウ、コマツナなどでは土壌から持ち出した病原性微生物によって食中毒や腐敗の原因になることがあります。これらの野菜の洗浄では数回に分けて土が落とされていく場合がありますが、オゾン水の性質上、一次洗浄でオゾン水を用いることは有効効果が低くなってしまうため好ましくなく、通常フローの最後にオゾン水で野菜をリンスするようにかけてやると効果が大きくなります。出荷調整場でオゾン水を使用すると、残渣の影響で発生した臭いも脱臭する効果が得られます。
花卉では、茎に付着した細菌によって導管閉塞が発生してしまう品目があります。生け水に施用する処理剤に殺菌剤が入っている場合もありますが、オゾン水は殺菌用途で代用することができます。この使用方法はフラワーショップでも運用することが可能で、細菌の影響によるフラワーロスをオゾン水で抑制することが期待できます。
農機具の洗浄
病原性微生物は農機具を経由して移動することがあります。
ポット、スコップ、鍬、三角ホ―、ハサミ、耕運機などが一例で、靴やタイヤについた土壌でも移動します。これらの道具の使用後にオゾン水で洗浄することによって植物から植物への菌の移動を抑制することが期待できます。
野菜やフルーツの洗浄(調理場)
調理前の野菜やフルーツにオゾン水をかけることで黄色ブドウ球菌、大腸菌、0-157など食中毒の原因になる菌の抑制が可能です。より効果的な使用方法は野菜やフルーツをオゾン水に浸漬することです。浸漬をすることでヘタやゴツゴツした部位に残りやすい菌に対しても効率的にオゾン水を接触させることができるようになります。浸漬時間は農産物の汚れ具合やオゾン水濃度によっても異なるので一概には言えませんが、1分程度であればある程度の効果が期待できると思います。
浸漬する際は、生成直後のオゾン水が常に供給されるようにしなければなりません。オゾン水は非常に失活しやすい性質をもっているため、常にオゾン水を供給しなければ単なる水で洗浄していることと同じになってしまいます。
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食器や調理器具の洗浄
洗い残しが食中毒の原因になってしまうことがあると思います。食器や調理器具の洗浄にオゾン水を利用する場合は通常の洗浄後にオゾン水でリンスするようにかけ流すことが効果的に利用する一例です。
手洗い
昨今の新型コロナウイルスの影響もあって、いちご狩りやサクランボ狩りなどの観光農園では来場者の手洗いを徹底する場合があるのではないでしょうか。いくつかの研究によって、オゾン水には新型コロナウイルスの不活化に効果があることがわかっています。水洗いよりもオゾン水、アルコールよりもオゾン水で消毒したほうが効果的で安全といえます。
加工場や調理場の清掃
加工場や調理場では業務終了後など定期的に清掃を行う機会があると思いますが、このとき使用する水をオゾン水にすることで清掃効果をさらにアップさせることができます。特に排水溝は臭いの発生源であるバクテリアが多く存在しています。オゾン水による殺菌と脱臭は、食中毒のリスク低減だけではなく作業場の労働環境改善させる期待が高まります。
トイレの清掃
トイレは比較的臭いの強い環境です。オゾン発生器で消臭を行っているトイレもあると思いますが、清掃時にオゾン水を使用することでも脱臭効果を得ることができます。
農家や観光農園でよく設置されている移動式トイレ(仮設トイレ)は特にアンモニア臭がキツく、悪臭に気苦労している方も少なくないと思います。オゾン水洗浄で日々の不快感から脱出できます。
待望の散水器タイプ!!オゾン散水器OZONE WATER GT-03
今回のおすすめする製品、オゾン散水器は従来のバッチ式オゾン水生成器と異なり、ポータブル式で小型に開発された新タイプのオゾン水生成器です。水道蛇口から市販のホースでオゾン散水器に繋ぎ、ボタンを押すだけでオゾン水が生成でき、使い方も簡単です。充電式なので邪魔なコードがありません。ホースを長くすれば蛇口から離れた場所でもオゾン水を生成することができます。ポータブル式にすることでオゾン水の課題であった持ち運び性の不利が解消され、散水器にすることでオゾン水の使い勝手が抜群に改善されました。観光農園や六次産業化した農家では特にオススメしております。
オゾン水生成量は毎分1~2リットル、オゾン濃度は0.3~0.7ppm。一度の満充電で最大80分連続稼働できます。電極寿命が400時間のため消耗品となり交換メンテナンスが必要です。本体重量約610g。
オゾン水を使って快適な労働環境へ
オゾン水は化学成分を使用することなく生成でき、残留性もなく、安全性の高い水溶液です。殺菌効果だけではなく脱臭効果も非常に高いため、清掃をはじめとするシーンで有効利用でき、既存添加物でもあるため収穫物や調理前の野菜やフルーツにも食中毒対策でオゾン水を使用できます。このようにオゾン水を利用することは脱臭や殺菌の面から労働環境の改善に繋がり、多くのメリットを得ることができます。
今回のコラムが皆様の参考になれば幸いです。
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。