オオタバコガとは?
オオタバコガとはチョウ目ヤガ科に属する昆虫で、農業においては野菜や花きなど多くの作物を加害する重要害虫です。成虫は飛翔能力が高く、幼虫は広食性があり、アジア・アフリカ・オーストラリア・ヨーロッパなどに広く分布しています。もともと日本にも生息していたとされていますが、作物への被害は1990年代から確認され、以後各地に広がっています。夜に飛来する成虫が圃場内で産卵し、孵化した幼虫が茎や果実を食害します。成虫の大きさは約15~20mm、幼虫の大きさは約35~45mmです。農林水産省の植物防疫病害虫情報によると、メス一匹あたりの総産卵数は1000~2000個とされ、繁殖能力が高いことがうかがえます。
蛹は5月~6月にかけて羽化しはじめ、春から秋にかけて発生するリスクが高くなります。鳥などの天敵から身を守るために、太陽の光が出ている昼間はじっとしていて、日が暮れ始めると圃場へ飛来し産卵します。露地では蛹の状態での越冬は難しいようですが、ビニールハウスなどの施設内では冬場でも地温が高いため、越冬することができることが多いようです。
オオタバコガの幼虫は、トマト・ピーマン・イチゴ・キュウリ・トウモロコシ・スイカ・キャベツ・レタスといった野菜類や、キク・バラ・カーネーション・トルコギキョウといった花き類など、多くの作物を加害します。花や蕾、果実や茎、そして結球などに入り込んで加害する性質上、防除が難しく東日本や西日本を中心に全国的に問題となっています。一般に、同じタバコガ類のタバコガに比べて薬剤抵抗性が高く、活動期間も長いため被害が拡大するリスクが高いとされています。
フェロモントラップとは?
ヤガ科のメス成虫は、交尾のためにフェロモンを出してオス成虫を呼び寄せる性質を持つものが多いとされています。フェロモントラップとは、このフェロモンを化学的に合成して作り出しトラップとして利用する防除方法です。目的は捕殺とモニタリングになりますが、成虫の発生数に対して、フェロモントラップだけで大量捕殺することは難しいとされています。トラップに捕獲された成虫の数から卵や幼虫の状況を予察して、まだ薬剤の効果が高い卵や若齢幼虫に対して農薬(殺虫剤)を散布する手法が一般的です。ヤガ科の中齢幼虫以降は、作物の果実や茎に侵入しやすくなり、薬剤の効果が低くなるため、若齢幼虫の段階で殺虫剤の散布を実施する必要があります。モニタリングを実施しメス成虫の産卵時期を予察して、殺虫剤を適切な時期に行うことができれば、薬散の回数を減らすことができ省力化につながります。
オオタバコガのフェロモントラップの使い方
オス成虫を引き寄せるため圃場内の風上に設置します。設置の高さは50cm~150cm程度が良いとされています。50cmだと雑草などが繁殖し風通しが悪くなり正確にモニタリングできない可能性があるため、作業性も考慮し100cmが妥当かもしれません。オオタバコガの成虫は、光に反応して活動を弱めるため夜間の照明がないところに設置するようにしましょう。夜に黄色や緑色の光を照射して、オオタバコガの活動を抑制する防蛾灯を同じ場所に設置すると正確にモニタリングができませんので避けた方が良いでしょう。
トラップの設置期間はオオタバコガが発生しやすい5月~10月ですが、越冬した成虫を捕獲するために4月から設置すると良いとされています。毎日、モニタリングを実施するのがベストですが、難しい場合は5日~7日程度の間隔でチェックして傾向を把握します。粘着シート型よりも箱状のファネル型のほうが耐久性に優れており、砂やホコリが多い場所でも使えたり大量に捕獲できたりするメリットがありますが、捕獲効率が低いため初発の把握が遅くなる恐れがあります。
オオタバコガのオス成虫を誘引するフェロモン剤を使用したトラップは、誘引の効果が高いとされていますが、フェロモン剤の種類や設置環境によってはオオタバコガ以外の昆虫が大量に誘引され、粘着板の密度が高くなってしまいオオタバコガの捕獲ができなくなるという事態に陥ることがあるようです。ヨトウガ亜科・キリガ亜科・ノメイガ亜科などが混入することがあり、とくにウラギンキヨトウやフタオビキヨトウは、大きさや色が似ており発生時期が一致しているため、モニタリングの際は注意する必要があります。
オオタバコガの防除に役立つ資材|虫ブロッカ―黄緑・緑
ここまでフェロモントラップについて説明してきましたが、オオタガコガの防除に役立つ防蛾灯(防虫灯)についてご紹介します。虫ブロッカ―黄緑・緑は、LED光を使った防蛾灯(防虫灯)です。日が出ていない夜間の時間帯にLEDの光を照射させると、夜行性のオオタバコガの成虫は昼間と勘違いして、飛来や繁殖などの活動を停滞させます。オス成虫とメス成虫の接触機会が少なくなることで産卵数が低下し、作物の被害を抑える効果が期待できます。オオタバコガの密度の低下により、薬散の頻度を抑えることとなり、薬剤抵抗種の発生率を抑える効果が期待できます。1台で半径10mほどの範囲をカバーします。前述の通りフェロモントラップと同じ場所に設置してしまうと、正確なモニタリングができなくなってしまうため注意してください。
薬散以外の方法も活用しオオタバコガを防除しましょう
オオタバコガは農薬(殺虫剤)散布だけでは、防除が難しい重要害虫ですし、薬剤抵抗性や薬散の作業負担を考えると、いろいろな手法を用いた複合的な防除が大切になってきます。今回のコラムでご紹介したフェロモントラップや防蛾灯などの手法も取り入れながら、大切に育てた作物をオオタガコガの加害から守りましょう。
関連コラム:
・トマトをオオタバコガの被害から守るには?見分け方と駆除方法を解説
・ピーマンをタバコガから守れ!
参考資料:
・オオタバコガ防除への性フェロモン剤の利用
(茨城県病害虫研究会)
・オオタバコガの防除に関する研究
(農林水産省 農林水産技術会議事務局)
・オオタバコガの発生と見分け方
(農林水産省 植物防疫病害虫情報)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。