ハモグリバエとは?特徴と生態
ハエ目ハモグリバエ科に分類される昆虫で、およそ2,500の種類が確認されています。原産地はアメリカですが、ヨーロッパ諸国やアフリカ諸国でも被害が発生しています。日本では1990年頃から静岡県西部や愛知県を中心にハモグリバエが大量に発生し、農作物が打撃を受けました。その後急速に発生領域を広げ、現在では日本のほとんどの地域で発生が確認されています。成虫は体の大部分が光沢のある黒色で、頭部など一部が黄色をしています。卵は半透明で円筒形(俵状)をしており、0.2×0.1mmと極小サイズで葉肉の中に卵があるため、肉眼で確認することは難しいと考えられています。産卵数は寄生する作物によって異なり、例えばトマトでは50個程度、キクでは300~500個程度とされています。幼虫は黄褐色~乳白色の蛆虫で3齢幼虫まで成長し、3齢幼虫の体長は3mm程度です。成長すると葉っぱから飛び出して葉の表面や土の上で蛹になります。農作物に被害を与えるのは、ナモグリバエ・マメハモグリバエ・ナスハモグリバエ・トマトハモグリバエ・ネギハモグリバエなどです。
ハモグリバエによる被害
ナス科・マメ科・ウリ科・キク科・アブラナ科など、多くの植物体に加害します。成虫は産卵管で葉の表面に小さな傷をつけて、葉の組織内に産卵します。孵化した幼虫は葉の内部を回転しながら蛇行し加害するため、食害したトンネル部分は白い線状の傷がつき、葉っぱに線を描いたように見えます。そのため、エカキムシ(絵描き虫)と呼ばれることもあります。被害のあった葉をすかしてみると、2mm~3mmほどの幼虫が確認できるかもしれません。葉っぱだけでなく柑橘類の皮の表面も加害することがあります。食害が進むと葉っぱが白く変化し光合成活動を行いにくくなり、落葉し品質・収量ともに低下する一因となります。トマト・ナスなどの果菜類の花や果実には加害しません(加害部位は葉のみ)が、スイトピー・ガーベラ・カーネーションなどの花には加害するため、成虫の摂食痕や幼虫の食害痕が製品価値を著しく低下させます。
発生適温は20℃~30℃のため3月~11月にかけて発生しやすく、加温されているガラスハウスやビニールハウスでは、年間を通して発生するリスクがあります。トマト・エンドウは5月~6月頃、キュウリ・カボチャは7月~8月頃、ミカンは6月~10月頃に発生しやすいようです。
ハモグリバエ類が加害する植物
科目 | 種類 |
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ナス科 | ナス・トマト・ピーマン・ジャガイモ・シシトウ・トウガラシ・パプリカ |
マメ科 | エンドウ・インゲン・ソラマメ・サヤエンドウ・スイートピー |
ウリ科 | キュウリ・カボチャ・メロン |
キク科 | ゴボウ・シュンギク・レタス・ガーベラ |
アブラナ科 | カブ・キャベツ・チンゲンサイ |
アオイ科 | オクラ |
ヒガンバナ科 | ネギ |
ナデシコ科 | カーネーション |
ハモグリバエの種類別 加害する植物
種類 | 加害する作物 |
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ナモグリバエ | マメ科・キク科・アブラナ科 |
マメハモグリバエ | ナス科・マメ科・キク科・アブラナ科 |
ナスハモグリバエ | ナス科・マメ科・キク科・アブラナ科 |
トマトハモグリバエ | ナス科・マメ科・ウリ科・キク科・アブラナ科 |
ネギハモグリバエ | ヒガンバナ科 |
ハモグリバエ類の防除および駆除方法
モニタリングによる状況把握
圃場における発生状況の経過観察(モニタリング)は、害虫発生状況を正確に把握して対策を検討するための第一歩です。株の周辺に黄色の粘着板を設置し、圃場の状態の変化を記録しておきましょう。ハモグリバエは多くの害虫と同じように色彩反応があり、黄色に誘引される性質があります。橙色や緑色にも反応しますが、黄色が最も効果的だと考えられています。
テデトール(手で取る)
食害された葉っぱは摘み取って直ちに圃場から持ち出して処分します。幼虫はつぶし、被害を受けた葉っぱや残渣は放置しないようにしましょう。一度に多くの卵を産卵する性質があり、テデトールの効果が期待できないことがあります。
寄生されない苗づくりを心掛ける
育苗中にハモグリバエに寄生され、被害をうけている苗が本圃に持ち込まれて被害が拡大するケースが多いと考えられています。播種直後から寒冷紗や防虫ネットでトンネル掛けをして、育苗ステージにおいてハモグリバエの侵入を防ぐことが大切です。ネットの目合いは細かいほうが侵入を防ぎますが、0.4mm程度の目合いの防虫ネットでは高温障害が起こりやすくなるため、0.8mm~1mm程度が適切だとされています。施設栽培では開口部に防虫ネットを設置すると良いでしょう。
生物農薬(天敵)を使用する
天敵は、ハモグリバエの幼虫に産卵する寄生蜂です。孵化した蜂の幼虫は、ハモグリバエの体内を食い荒らして駆逐します。メリットは薬害抵抗性の発達には寄与せず、人畜に対する毒性がないとされていることです。ハモグリバエの密度が高くなってからでは、害虫の数に追いつくまでに時間を要し効果が薄くなるため、発生初期に施用すると発生密度を低下させる効果が期待できます。デメリットは費用が高価であるということでしょうか。
現在は、ハモグリミドリヒメコバチ*・イサエアヒメコバチなどが生物農薬として登録されています。そのほかにも、触覚の形状が大きな冠のような形をしているカンムリヒメコバチなども生物農薬として研究が進み、利用が検討されているようです。
ハモグリミドリヒメコバチ*:ヒメコバチ科の寄生バチです。成虫は体色が黒色、体長は0.6~0.8mm程度でハモグリバエ類の幼虫に産卵します。寄生されたハモグリバエの幼虫は体色が黄褐色から黒色へ変化します。単為生殖(交尾を伴わない生殖)を行い、雌が雌を生むことができます。
殺虫剤(農薬)を散布する
ハモグリバエは薬剤抵抗性がつきやすいため、同一系統の薬剤の連用はさけるようにしてください。アファーム・カスケード・スピノエース・ディアナSC・べリマークSCなどが該当しますが、栽培する作物の種類により登録内容が異なっていますので、使用に際しては必ず製品ラベルを確認し、地域の防除暦に従って散布してください。生物農薬を活用する場合には、農薬の残存効果がないよう注意しましょう。
土壌消毒
ハモグリバエの幼虫は3齢を経過した後に蛹になりますが、土に落下している可能性があります。土壌消毒は、作付け前や収穫終了後に土壌を消毒し蛹を死滅させる効果が期待できます。クロルピクリンなどの土壌燻蒸剤を土の中でガス化して殺虫する方法や、気温が最も高くなる夏場に太陽の光エネルギーを利用して、土壌の表面にビニールなどを被覆し熱により死滅させる太陽光土壌消毒などがあります。
ハモグリバエ対策におすすめの資材
圃場のハモグリバエ対策におすすめの資材が、吸引式LED捕虫器「スマートキャッチャーⅡ」です。LEDの光でハモグリバエをおびき寄せて、強力なファンで吸引し捕虫することができます。ハモグリバエが発生する前から設置し、モニタリングすることで侵入経路や多発ヵ所を特定しやすくなります。これをもとに農薬や殺虫剤の散布計画を立てるなど、早期発見・早期対策を行う指標となります。360℃のパノラマ放射光で全方向よりハモグリバエをおびき寄せます。
ハモグリバエを防除・駆除して、大切な作物を守りましょう
ハモグリバエ類は、薬剤抵抗性が高く、殺虫剤に依存した対策では十分な防除効果を期待することができないやっかいな農業害虫です。複合的な防除&駆除の対策を行い、大切に育てている作物を守りましょう。今回のコラムをハモグリバエの予防にお役立ていただければ幸いです。
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コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。