コラム
有機農業とは?世界・日本の取り組み状況と無農薬栽培との違い
公開日2019.08.31
更新日2022.06.08

有機農業とは?世界・日本の取り組み状況と無農薬栽培との違い

普段テレビを見ていると食事や調理に関するものが多く流されているように感じます。食べ物に関しての視聴者の関心度の高さがわかりますね。安心・安全な農産物を購入したいとの消費者のニーズは年々高まっており、今後は一層の食品の安全性が求められるといわれています。そのため、近年では有機農業・無農薬栽培・自然農法・環境保全型農業といったワードに注目が集まっています。しかし法律で規定されている概念と、一般消費者の方が捉えているイメージとの乖離が大きく、基本的な意味を間違って理解をしている人が多いというのが実情です。今回のコラムではその違いを紹介していきたいと思います。

有機農業とは?

法令で厳密な定義がある有機農業

有機農業とは農業形態のひとつで、有機農法有機栽培オーガニック農法(organic farming)などとも呼ばれます。厳密にいうと「有機農業の推進に関する法律」(2006年/平成18年成立)で栽培方法が制定されており、この方法で栽培されたものでなければ有機農作物といって販売することが出来なくなりました。

有機農業の推進に関する法律(定義)第二条には「この法律において「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう」と書かれています。

有機〇〇と表示して販売するには
農林水産省に有機食品の検査認証制度があり、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らず、自然界の力で生産された食品を表す「有機JASマーク」は、登録認定機関の認証を受けた事業者(農業生産者・加工業者・物流等に携わる者)のみが使用することができます。この「有機JASマーク」のついた農産物及びその加工品にのみ「有機」「オーガニック」などの名称の表示が許可され、有機JASマークを表示して国内流通させることが出来ます。つまり有機JAS規格に合致しているため「有機〇〇」と称して販売して良いというわけです。

有機JAS規格の認定条件
1 化学的に合成された肥料および農薬を使用しない
(ただし有機JAS規格で認定されたものは使える)
2 遺伝子組換え技術を利用しない
3 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

有機農業の始め方と特長

有機農業の開始は土作りから
有機農業では土壌を健全にするために、その土台となる土作りを始めることが必要になります。微生物の働きによって土壌の保水性や浸透性・通気性を良くし、自然由来の養分を利用し安心・安全な圃場環境を整えることを行います。国で定められた適合規格(有機JAS規格)があり、堆肥などで土作りを行い、種まきまたは植付け前の2年以上、禁止された化学合成農薬や化学合成肥料を使用していない圃場で栽培を行わなければなりません。栽培中も禁止された化学肥料や農薬は使用することができず、生産過程にも多くの決まりがあり、それを遵守しなければ、有機農作物として出荷することや流通させることができません。

有機農業の土壌の特長
微生物の働きによって土壌環境が整うと根の発達が向上し、栄養をじっくりと吸収して育つため栄養価の高い作物ができあがります。また化学的な農薬や肥料が使われていないため安心や安全性が高いと考えられています。野菜そのものの味を感じられ、普段の野菜よりも味が濃く感じられたり風味が強かったりするという意見もあるようです。有機農業を進めると生物の多様性に良い調和を及ぼし、自然が本来持っている循環性を取り戻し強化することで生態系を守ることができるという研究もあります。

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有機農業における世界と日本の状況

有機農業|世界の状況

有機食品の売上は年々増加傾向
世界の有機食品の売上は、約152億ドルだった1999年から比べる、2017年では約970億ドルとおよそ6倍に増加しています。国別の売上を見ると1位アメリカ・2位ドイツ・3位フランスとなっています。特にドイツやフランスでは通常の小売店での有機食品の売上の上昇傾向が顕著にみられます。

有機農業の取り組み面積はまだまだ少ない
世界の有機農業の取組面積は、1999年から2017年の間に約5倍に拡大しており、有機取組面積は69.8百万haとなっていますが、これは全耕地面積に対する割合の約1.2%程度と非常に小さいというのが実情です。2017年では有機農業取組面積の比率が高い国は、1位イタリア(15.4%)・2位スペイン(8.9%)・3位ドイツ(8.2%)・4位フランス(6.3%)となっています。一方、アメリカと中国は0.6%、日本は0.2%と有機農業取り組み面積の割合は欧州諸国が高く、アメリカ・中国・日本は低いという状態になっています。

有機農業|日本の状況

日本も市場規模が増加
日本の有機有機食品市場規模の推定額は、2009年の1,300億円にくらべて2017年では1,850億円に増加しています。消費者アンケートによると週に1回以上、有機食品を利用している割合は17.5%と報告されています。

日本も耕作面積の割合は低い
2017年時点で有機農業の取り組み面積は、有機JAS認証を取得していない農地を中心に年々増加していますが、総面積は耕地面積の0.5%にとどまっています。2010年時点で全国2,528,000戸のうち有機JAS取得の有機農家は約4,000戸、取得せずに有機農業に取り組む農家は8,000戸、合計で12,000戸と推定されています。

日本の生産者が有機栽培を実践している理由は「消費者の信頼感を高めたい」「より良い農産物を提供したい」「地域の環境や地球環境を良くしたい」などがあり、生産者新規参入者のうち有機農業に取り組んでいる有機農業者は2~3割と高い傾向が見られます。

参考:農林水産省 生産局農業環境対策課「有機農業をめぐる事情」

有機農業を支える3つの柱

有機農業を推進する背景には、3つの柱が関係しています。国内では「有機農業推進法」「有機JAS法」であり、国際的にはWHOにより設立された「コーデックス委員会」があります。農業生産者の方はこの趣旨を理解し事業を行う必要があります。国内市場だけでなく国際市場を目指そうという生産者の方や、6次産業化を狙い「有機」「オーガニック」で高付加価値をつけ差別化を狙おうとした場合、JAS規格合格認定は魅力的だと思います。有機JASに認定されると農産物の国際規格「グローバルGAP」に認定されやすくなります。この認証「グローバルGAP」を受けた農産物は国際的に安全性が証明されたことになり、海外への販路拡大のチャンスが増えます。

有機農業と無農薬栽培の違いとは?

有機農業とは|おさらい

  1. 化学的に合成された肥料および農薬を使用しない(ただし有機JAS規格で認定されたものは使える)
  2. 遺伝子組換え技術を利用しない
  3. 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

の要件を満たし、登録機関の認定基準に合格したものが有機農業として認められています。

無農薬栽培とは

「無農薬」は表示違反
皆さんは「無農薬」という表示を店頭やインターネット通販などでよく目にするかと思いますが、実はこれはルール違反です。2008年(平成20年)に農林水産省が定めた「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に違反してしまいます。このガイドラインでは「無農薬」だけでなく「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」といった言葉も使用が規制されています。

「無農薬?」生産者と消費者の認識違い
もともと生産者である農家さんにとっては「無農薬」とは当該農産物の生産過程等において農薬を使用しない栽培方法により生産された農産物を指していましたが、消費者は土壌に残留した農薬や周辺ほ場から飛散した農薬を含め、一切の残留農薬を含まない農産物と受け取っていました。「無農薬」という言葉は、農薬が土壌に残っていたり、ほかの畑から飛散したりする場合もあるということを消費者が想像できず、結果的に正しい情報が伝わりにくい表現となっていたのです。

現在では意味や明確な定義があいまいになっている「無農薬」の表示は、残留農薬が全くないとの誤解を消費者へ与えることから「無農薬」の表示を使い商品を流通させることが禁止されています。

新たな表示方法「特別栽培農産物」
無農薬栽培の農産物を、農薬を使用した農産物や有機農産物と区別するために、農薬の使用を抑えた「特別栽培農産物」として、特別栽培農産物に係る表示ガイドラインで策定されています。生産過程等における節減対象農薬の使用回数が慣行レベルの5割以下であり、化学肥料の窒素成分量が慣行レベルの5割以下であるといったなどの定義が決められています。無農薬栽培とは消費者目線で見ると減農薬的な意味合いが強く、有機農業とは栽培に関する概念が違うことがお分かりいただけたかと思います。

参考:農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」

有機農業の課題

有機農業の労力とその効果

2007年(平成19年)の農林水産省「有機農業の現状と課題」によると、農業者を対象とした意識調査においては「労力がかかること」「技術的に安定するまで、慣行栽培より時間がかかる」が大きな課題として挙がっています。稲作農家の場合、有機栽培の10aあたりの労働時間は慣行栽培と比較するとおよそ1.6倍、収量も15%ほど少なくなります。しかし、販売価格では1.7倍も高値で販売することができ、所得ではおよそ1.9倍となっており、これは消費者のニーズが高いということと、有機作物に希少性があるという点からではないかと推察します。

野菜作農家の場合は、事例数が61と少なく判断が難しいのですが販売価格や単位当たりの販売量などで慣行栽培より優れているものと劣っているものの格差が大きく、野菜作農家にとって有機農業を実施するのはリスクの高い取組だと考えられています。

慣行栽培を100とした場合の有機栽培の数値
区分 所得 収量 販売金額 労働時間
稲作農家 190.3 84.4 177.1 161.1
野菜作農家 38~805 40~200 40~200 75~300

既に有機栽培を行っているにも関わらず、有機栽培の取組面積を縮小する際の理由は「労力がかかる」「収量や品質が不安定」「資材コストがかかる」などがあげられ、JASの認定をうけ維持または増進していくには不断の経営努力が必要であり、有機農家の農業生産活動の負担になっているようです。全体としては有機農業に取り組んでいる農家は少数という状況の中で、有機農業が発展していくには有機栽培技術を伝達するためにどのような施策が必要かという点でも課題が残っています。

有機農業は必ず安全?

有機農業は化学合成されている肥料や農薬をなるべく使わずに有機物質の資材を使用しますので慣行栽培に比べて安心だと思われている方は多いと思います。しかし、これら有機物質の資材でも土壌中の微生物の働きにより分解されると化学肥料と同じ成分になります。土壌微生物でも有毒なものが存在しますので、一概に有機農業によって生産された農産物が慣行栽培の農産物に比べて確実に安全であるとはいえません。一般的な消費者が、有機農業という点だけを重視し作物を選ぶことがないように、行政やマスメディアが正確な情報を消費者へどのように伝えていくのかが課題になっています。

有機農業に役立つ資材

地力の素

地力の素は痩せた土壌を回復させる土壌改良資材です。地力の素に含まれるフルボ酸が供給されると、作物にとって有用な微生物が活性化します。微生物のバランスが良くなることで土が健全性を取り戻します。病原菌の発生を抑えやすくなるといわれています。高純度な腐植質(土壌有機物)で肥料やミネラルの吸収を高め、なり疲れが起こりにくくなります。地力の素は水分を吸収し保持することができるため、土の粒をくっつける糊のような役割を担います。それにより空気が入る隙間を作り、保水性と排水性を兼ね備えたやわらかい土を作り出します。細粒と粗粒は有機JAS対応資材の資格を取得している有機肥料です。

地力の素の解説動画はこちら

虫ブロッカー赤

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

虫ブロッカ―黄緑・虫ブロッカ―緑

農薬での対策が難しく数百種以上の作物に深刻な被害をもたらす夜行性のチョウ目害虫。「虫ブロッカ―黄緑・虫ブロッカ―緑」は露地・ビニールハウス向けのLED防虫灯です。LEDの光がチョウ目害虫の行動を抑制し拡散を防止します。害虫の生息密度を低下させ、繁殖を一世代で止めることで果実・野菜・花の被害が減少します。また薬剤散布のコストや労力削減、天敵昆虫のコスト削減に貢献します。

日々進化する科学を理解し有益な農業を

現在は、より農薬の少ない農産物の方が人の健康に良いといわれており、有機野菜や無農薬野菜に注目が集まっていますが、大手のマスメディアが間違った情報を流すことで消費者が誤って認識するケースも多いようです。今後の研究により解明されてくる部分もありますので、情報を十分に吟味しながら進めることが重要です。今回のコラムを自分自身の農場方針にあった野菜作りにお役立ていただき、良い収穫につながれば幸いです。

有機農業とは?世界・日本の取り組み状況と無農薬栽培との違い

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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