トルコギキョウの市場価値
トルコギキョウは、多彩の色や華やかな形状のため観賞用や贈答用として非常に人気があります。ピンク、パープル、ホワイトなど様々な色が揃っており、ブーケやフラワーアレンジメントに用いられています。市場の需要が高く、キク・バラ・カーネーションなどに比べて1.5~3倍ほど高単価です。月別の単価推移としては、トルコギキョウの生産しやすい6月~9月の単価が最も低く、出荷量が少ない冬春期に価格が上昇するという傾向があります。高単価で取引されるこの時期に収穫・出荷ができると安定した収入につながります。
そもそも電照栽培とは?電照栽培の光が植物に及ぼす作用
電照栽培は人工の光を利用して植物の成長をコントロールする手法です。天候不良や季節の影響などにより、自然環境の太陽では光量が不足したり、タイミングが悪かったりする場合に、植物の生育環境を最適化できる点がメリットです。地域ごとの気候や光の条件に左右されにくく、農業の生産性を高める手段として注目されています。LEDが開発されたことで光が植物へ及ぼす作用の研究が進んでいますので、作物ごとの電照の最適な条件に加えて、必要な機材や設置方法がわかるようになってきており、新しい知見が実際の生産現場に応用され始めています。このような情報を参考にして、適切な手法を用いることで、確実に品質の高い作物を育てることが可能になります。電照栽培の導入には初期投資が必要ですが、収穫量の増加や品質向上による経済効果を考慮すると、その投資対効果は非常に高いとされています。農業において、電照技術の使用は年間を通じて生産効率を上げる有効な手段として注目されており、今後もさらなる研究と技術の進展が期待されています。
電照栽培の作用1:光合成を補助し生長を促す
植物は太陽の光を活用して光合成を行い、エネルギーに変換して各器官を生長させています。電照栽培は日照不足を補い光合成を効率的に行わせるため、植物が成長しやすい環境を提供することができます。例えば、冬季や日照時間の短い地域において、茎や根が活発に生長するための光量を確保するための電照は、樹勢停滞の防止に効果的です。また、苗を育てる場合に電照処理を行うことで、無処理にくらべて生長を前進させる効果が期待できます。均等に電照すると、成長が均一になり品質が整いやすくなります。
電照栽培の作用2:花芽分化の時期をコントロールする
大まかに分類すると、植物には栄養生長と生殖生長があり「温度」「日長」「光の波長」などの条件によって、茎頂や根の先端を生長させて体を大きくするタイミングなのか、それとも花を咲かせて子孫を残そうとするタイミングなのか判断していると考えられています。電照栽培の目的の一つは「日長」と「光の波長」を人為的にコントロールして、作物の生長を最適化させることです。植物には、日の出から日没までの時間が短くなると花芽を形成するもの(短日植物)と、反対に日の時間が長くなると花芽を形成するもの(長日植物)があります。植物は光の長さや波長に反応して生理現象を引き起こす光受容体という部分があり、日長時間の変化を感じ取って花芽を形成させるタイミングを見計らっているようです。
花芽分化が行われるときは、花芽に栄養を集中させるため、葉や茎が大きくなる栄養生長は停滞します。反対に花芽分化しないときは、茎頂や根の先端などの生長点での細胞分裂が活発になる栄養生長が行われます。このような作用を利用すれば、人為的に花芽分化のタイミングを伸縮させたり、花芽の発生を抑えて葉や茎の生長を促したりすることが可能です。開花を促進させたり抑制させたりできれば、収穫時期をコントロールして市場単価が高い時期に出荷したり、収穫時期が集中しないようにして農作業を平準化させることもできます。
冬季作型におけるトルコギキョウの電照
トルコギキョウは長日植物のため、花芽分化が促進する環境は「高温・長日条件」、栄養生長を促進する環境は「低温・短日条件」になります。仲夏~仲秋(6月~9月)出荷の作型では、自然に近い環境のため電照処理は行われないケースが多いようですが、冬春期(10月~5月)出荷の作型では、花芽を促進させるために加温したり電照を使った長日処理を行ったりします。作型によっては、栄養生長を促すためのシェードを用いた短日処理を行うこともあるようです。確実に開花させたい場合は加温して長日処理を行い、十分に栄養生長させたい場合は冷やして短日処理を行うなど、電照栽培における環境管理を理解し実施することで、トルコギキョウの生育を最大限に引き出すことができます。処理が適切でない場合、トルコギキョウの品質が低下し収穫量が減少します。予定外に花芽分化が遅れると、暖房コストの増大につながることとなります。また出荷時期をコントロールできず、作業時期が集中してしまったり、市場が高単価の時期に出荷できなくなったりするなどの弊害が発生します。
長日処理(電照)
トルコギキョウの電照において、光の波長や電照時間が重要ですが、品種や作型によって最適な方法は異なるようです。電照を新規導入する場合や、白熱電球からLEDへの切替えをする場合は慎重に進める必要があります。8時間~12時間程度の日長環境では栄養生長にかたより、花芽はつきにくく節数が多くなります。「トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル」(農研機構 花き研究所)によれば、日中の明るい時間帯に続けて日長が20時間以上になるように午前2時~午前8時までと午後4時~午後10時に電照することが推奨されています。実際には16時間日長になるように暗期中断を実施する圃場が多いようです。定植日から1次小花(1次則枝の頂花)の長さが30mm程度(発雷後8週間)になるまで電照するとブラスチング小花が減少し正常小花が増加すると紹介されています。トルコギキョウは花芽分化以降に短日条件となるとブラスチングが発生しやすく、収穫率の低下につながりますので、補光による長日処理を実施することが求められます。
トルコギキョウにおける温度と湿度の重要性
トルコギキョウの電照栽培において、適切な温度と湿度の管理は非常に重要です。これは、温度と湿度が植物の生育に直接影響を与えるからです。適切な温湿度管理を行うことでトルコギキョウの成長が促進され、高品質な花を生み出すことができます。管理を徹底して高品質なトルコギキョウの栽培を実現するためには、日々の環境モニタリングが欠かせません。定期的に温度と湿度をチェックし、必要に応じて調整を行うことで、トルコギキョウの成長を最適化できます。農業用のセンサーや自動制御システムを利用すると、効率的かつ正確な環境管理が可能となりますが、これらの設備はイニシャルコストが高く費用が利益を圧迫するというデメリットがあります。
温度
トルコギキョウは長日環境と適正温度により花芽分化がおこると考えられています。品種や環境、作型などにより条件は異なりますが、昼間の温度を20℃~25℃、夜間を15℃~18℃に保つことで、成長が安定し花の発色や形状が高品質に保たれるとの考え方が一般的のようです。花芽分化は最低夜温に大きく影響を受けるとされ、夜温が高いほど花芽分化が起こるまでの期間が短くなるとされています。夜間の最低気温が10℃近辺になると、ロゼット化が起こるなど成長が抑制される可能性が高まります。そのため、夜間の温度が落ちないようにヒーターなどの加温設備を使って温度管理を実施する必要があります。10月以降に収穫する冬季作型では、秋の低温により開花しにくい事象が起こりやすいため、要求積温度の高い品種は選ばないようにしたほうが良いかもしれません。
湿度
湿度が高すぎると病害虫のリスクが増加し、低すぎると植物が乾燥してしまいます。湿度の適切な範囲は50~70%とされており、これを維持することで病害虫の発生を抑え、植物が健全に育つ環境を確保できます。また高湿度の環境では、チップバーンが起こりやすくなります。チップバーンの原因の一つはカルシウム(Ca)の欠乏によるものだと考えられています。カルシウム(Ca)は植物の水分の移動に強く依存しているので、湿度が高いと葉っぱから水分が蒸散しにくく、カルシウム(Ca)が葉先に届かなくなるため発生します。湿度を下げて、蒸散しやすくしてあげる必要があります。
電照栽培を取り入れる際の注意点
「トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル」(農研機構 花き研究所)には、光の波長は遠赤光(FR:700~800nm)の比率が赤色光(R:600~700nm)に対して高い光が有効と紹介されていました。「光形態形成反応を活用したトルコギキョウの開花調節および切り花品質の向上に関する研究」(福岡県農業総合試験場)によれば、赤色(R)に比べて遠赤色(FR)の光量が高いほど開花が促進したり、節間が長くなったりするなどの傾向が認められたと報告されています。「遠赤色発光ダイオードによるトルコギキョウ促成栽培における開花促進効果」(農研機構)によれば長日処理の光源として、遠赤色発光ダイオードの遠赤色単色光をトルコギキョウ に照射すると、白熱電球の照射に比べ開花が促進される、課題として遠赤色LED照射によりトルコギキョウの切り花長は確保されるが、切り花重は低下すると報告されています。遠赤色は花芽分化や開花促進に影響を与え、そのため生殖生長へエネルギーが偏り栄養生長が滞る可能性が示唆されています。
このように光がトルコギキョウに与える影響については、まだ研究段階の部分が多いですが、現在のところ赤色(R)と遠赤色(FR)の光量(PPFD)が開花と切花の品質に影響を及ぼしている可能性が高いと考えられます。従来の白熱電球には赤色と遠赤色の波長が含まれています(一般的な白熱電球では赤色(R)と遠赤色(FR)の割合が約2:3)。白熱電球からLEDへ切替える場合に、赤色と遠赤色の両方の波長をバランス良く含んだ電球を選ばないと、切替え後、効果が低下する可能性があります。切替え時の製品の選定を慎重に行い、試験区を設けてトライするほうが安全です。
品種によって長日処理に対する反応も異なりますので、長日処理に適した品種を選ぶというのも一つの選択肢です。「トルコギキョウ冬季出荷作型の好適品種選定」(農業総合センター園芸研究所)によれば、トルコギキョウの冬季出荷作型において、採花日が早く、切花長が長く、採花率が高い品種として「ファンシーホワイト」「ロベラピンク」「ロベラホワイト」「 レイナホワイト 」「 F1 ラムレーズン」 が紹介されていますので参考にしてみてください。
トルコギキョウの電照には白熱電球とLEDのどちらを選ぶべきか
白熱電球のメリットはなんといってもその価格です。価格が安くなってきたとはいえLEDは1球あたり2,000円~4,000円です。白熱電球であれば200円前後で購入できます。またトルコギキョウの電照栽培には白熱電球を用いられてきた歴史があり、役に立つ技術や知見がある程度確立されているという点も大きいです。一方、消費電力と寿命という点でいえば圧倒的にLEDが有利です。白熱電球は各メーカーが販売を終了しはじめており、今後入手が難しくなるため、どこかのタイミングでLEDへの切替えに迫られる可能性が高いでしょう。
LEDは低消費電力で高い光効率を持つため長期的には運用コストを大幅に抑えることができるのが魅力の一つです。長寿命で耐久性も高く交換頻度も少ないという点もメリットです。設置後のメンテナンスや電気代への経済的負担が軽減されます。もう一つの大きな利点は、その発光するスペクトルを調整して製品化できる点です。LEDが開発されたことにより、光の波長や強度を調整して電球を作ることができるようになりました。トルコギキョウのような特定の植物には、成長を促進するために適切な波長の光が必要です。LEDは波長を自在にカスタマイズして製造することができ、トルコギキョウ栽培において最適な光環境を提供します。
もっとも注意をしなければならないのは、LEDは製品によって波長の違いが大きいという点です。トルコギキョウの花芽分化には赤色と遠赤色の波長が影響していると考えられています。一般的な白熱電球には赤色と遠赤色が含まれていますが、LEDは製品によって中に組み込まれているLEDチップが異なり、例えば赤色だけのLEDを選んでしまうと、白熱電球ではうまくいっていた長日処理が、LEDへの切替え後にうまくいかなくなる可能性があるため、切替時は製品を選ぶ際に十分に検討する必要があり、場合によっては試験区を設けて段階的に切替えを実施するのが良いかもしれません。
「トルコギキョウの11~12月出し栽培における赤色LED電球の電照による高品質切り花生産技術」(農業技術センター)によれば、LEDを用いた栽培方法が効果的であることが報告されています。これらの技術を活用することで、高品質で競争力のある切り花を市場に供給することが可能となるのではないでしょうか。
トルコギキョウの電照栽培におすすめのLED|アグリランプFRーHP(ハイパワー)
冬季作型のトルコギキョウの電照栽培におすすめしたいのが、アグリランプFR-HP(ハイパワー)です。光合成を促す赤色と花芽分化を促す遠赤色がバランスよく配置されたLEDで、トルコギキョウの電照に適しています。口径はE26を採用していますので、すでに白熱電球による電照を実施している圃場では、電球を交換するだけで導入することができます。IP67準拠の防水性能を備えており、露地栽培や施設栽培の農薬噴霧などの厳しい農業環境にも耐えられます(ただし、ソケットも防水仕様である必要があります)。赤色と遠赤色のLEDチップのバランスの良い配色によって、意図した波長を搭載することができ、最適な波長を照射することで、トルコギキョウの長日処理をより高いレベルで実施することができます。
トルコギキョウ電照栽培のまとめと将来への展望
トルコギキョウの電照栽培は、多くの利点と可能性を秘めています。この方法は収穫量が増加し、さらにLEDやその他のテクノロジーの導入により、経済効率を向上させることが可能です。トルコギキョウの電照栽培に興味がある方は、早速この技術を試してみてください。今後、光と植物の関係の研究が進むことにより、農業の電照栽培技術はさらなる進化が期待されます。新しい光源技術や自動化された環境管理システムが開発されれば、更なる効率の向上が見えてきます。
参考資料:
・トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル(農研機構 花き研究所)
・光形態形成反応を活用したトルコギキョウの開花調節および切り花品質の向上に関する研究(福岡県農業総合試験場)
・トルコギキョウ冬季出荷作型の好適品種選定(農業総合センター園芸研究所)
関連コラム:
・高単価なトルコギキョウ、栽培のメリットと注意点を解説
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。
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