コラム
電照菊栽培でLED電球は必要なの?白熱電球や蛍光灯との違いについて解説
公開日2023.03.20
更新日2023.03.30

電照菊栽培でLED電球は必要なの?白熱電球や蛍光灯との違いについて解説

普段の生活の中でLEDライトを利用する機会が増え、LED電球はなじみのあるものになりましたね。農業分野においても害虫を忌避する防虫灯が各メーカーから発売されるなど、LEDを用いた製品や栽培技術が広がり始めています。一方、菊の抑制栽培として電照という技術が古くから活用されていますが、現状では白熱電球や蛍光灯などが主力を担いLEDはそこまで普及していません。今回のコラムでは電照菊の栽培において、それぞれの電球の違いついて解説していきたいと思います。

電照菊とは?

花芽形成前に電球を使って電照し日照時間を長くすることで、花芽分化を抑制し開花のタイミングを遅らせて栽培する菊のことです。日本においては年末~3月のお彼岸前と8月の旧盆~9月のお彼岸前が、菊の需要が最も高まる時期になり、この期間に多くの菊を出荷するように菊の栽培を人為的に制御しています。

菊は日照時間が短くなると花芽を形成する性質(短日植物)があり、ほとんどの品種は昼が短く夜が長い環境への変化に反応し開花の準備をし始めます。自然環境の光の下で栽培すると秋に開花してしまい、消費者のニーズが高い時期に出荷ができなくなるため、多くの農家で菊の抑制栽培が採用されています。

電照菊の栽培の盛んな地域としては愛知県の渥美半島(豊橋市や田原市)で全国の3割ほどの菊を生産しています。次に生産量が多いのは、沖縄県・福岡県・鹿児島県などです。近隣に明かりの少ない圃場で夜間に電照するため、観光スポットやドライブスポットになっている地域もあります。

関連コラム:菊の抑制栽培とは?メリットやデメリットについて解説

電照の利用方法と効果について

圃場の中に電球を設置して、電照により菊の花芽分化を抑制します。露地栽培の場合は光源を設置するための2m程度の支柱をたて、支柱と支柱の間をつなぐように電線をはわせてその間に電球を設置します。ビニールハウスなどの施設栽培の場合には、既設パイプを利用して電線をはわせて電球を設置します。光源の強さや配光角度にもよりますが、電球と電球の間隔はおよそ3m程度、地上から光源までの距離は1.5m程度が良いとされています。

電照期間を終了させた後に菊の花芽が一気に形成されるため、開花のばらつきが少なく品質が安定しやすいという特長があります。露地栽培でも施設栽培においても利用されている栽培方法です。電照菊は計画的な生産を実施することで、単価が高くなりやすい時期に効率よく販売することができ、安定した農業経営につながります。

白熱電球・蛍光灯・LED電球それぞれの特徴

単価・消費電力・寿命の違い

従来、白熱電球が多く利用されてきましたが、メーカーの製造収量などの理由から徐々に蛍光灯への切り替えが行われています。消費電力が少なくランニングコストは軽減されるLED電球については、1個あたりの単価が高く導入費用が大きくなることから、現在のところ普及率は低いです。少し古いデータですが2012年の農研機構花き研究所による「きく類栽培用光源の使用実態調査」によれば、菊類の栽培面積に占める使用光源の割合は、白熱電球64.4%・蛍光灯34.4%・LED電球1.1%・ナトリウムランプ0.1%となっています。

種類 消費電力 単価 寿命
白熱電球 90W 150~250円 1,000~2,000時間
蛍光灯 21~23W 800~1,000円 13,000時間
LED電球 9W 2,000~4,000円 40,000時間

花芽分化の抑制効果の違い

一般に660nmより低い波長が菊の花芽分化抑制に効果があるとされています。環境や品種により条件は異なってくるかと思いますが、どの電球を選んだとしても波長があっていれば、抑制効果は得られます。菊が日長などの光環境の変化を判断するためには、白熱電球のような弱い光でも十分というわけです。抑制効果が同じであるにも関わらず目先のコストが大きくなってしまうことが、白熱電球より単価の高い電球への切替えが進まない理由なのかもしれません。

害虫の誘引されやすさ

白熱電球・蛍光灯・赤色LED電球の比較実験においては、白熱電球が最も虫を誘引しやすく、次に誘引しやすいのは蛍光灯であり、赤色LEDは一番虫を引き寄せないという考察があります。これは、光の波長が影響しています。白熱電球は400nm~700nmの広い波長域の光を含んでいます(そのため、人の目には白っぽく見えます)。蛍光灯は、青色450nm・緑色540nm・赤610nmの3つの波長を集中して発光させています。赤色LED電球は、620~750nm程度の波長を出します。

昆虫は主に250nm~580nmの範囲の光に反応し、360nm前後の光を最もよく感じるとされています(640nm以上の波長にはほとんど反応しない)。人の目では感じることができない紫外線の領域です。一般に白熱電球や蛍光灯は、紫外線域の放射量が多いため昆虫が誘引されやすいようです。特に夜蛾・コガネムシ・カメムシ・アブラムシなどの紫外線への感受性や正の走行性がある虫は誘引されます。LED電球は紫外線量が少ないため害虫が寄ってきにくいというメリットがあります。ただし、このような特徴は、全ての虫にあてはまるわけではないのでご注意ください。

作業のしやすさ

様々な波長を含んでいる白熱灯や蛍光灯の白い光は、見慣れている光のため農作業を実施する人には負担となりにくいのですが、赤色蛍光灯や赤色LEDの赤い光は人の目が慣れていないため継続的な作業が目の負担になりやすいようです。一般に菊の電照は深夜に実施しますので、あまり問題にはならないかもしれませんが、赤色のみの照明環境で、定植や収穫といった作業を電照中に実施する場合には作業用の照明が必要になるかもしれません。作業性という意味では白熱灯や白色の蛍光灯が優れているといえるでしょう。

電照菊の栽培に適したLED電球

アグリランプ(キク向け)

近日発売予定のアグリランプ(キク向け)。価格は1球あたり2,552円(税込・送料込)です。お問い合わせをお待ちしております。

圃場の条件にあった電球を選び品質の良い電照菊を収穫しましょう

せっかく電照するための電球を選んでも、品種に適していなかったり費用が農業経営の負担になってしまったりするようでは意味がありません。無作為にLED電球を選ぶことはせず、圃場の環境や経営状態によって適切な商品を選ぶことが大切です。近年はエネルギーコストを削減するための補助金などもありますので、まずは情報を集めてみてください。事業者をサポートする行政の給付も利用しながら電球交換を検討してみてはいかがでしょうか。

関連コラム:電照栽培とは?育てやすい作物と導入のメリット・デメリット

参考資料:
キクの開花調節へのLED・蛍光灯利用
(愛知県 農業総合試験場)
きく類栽培用光源の使用実態調査
(光花きコンソーシアム)

電照菊栽培でLED電球は必要なの?白熱電球や蛍光灯との違いについて解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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