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植物と共生するエンドファイトとは?
公開日2022.07.09
更新日2022.07.09

植物と共生するエンドファイトとは?

微生物との関係が希薄なことが原因で、農作物は病害虫や環境変化に弱くなっており、強力な化学農薬を大量に使用する状態に陥っているという考察があります。このような課題を解決する方法として、植物とGive and takeの共生関係を築く微生物「エンドファイト」に注目が集まっています。エンドファイトは植物が本来持っている能力を引き出したり、植物が生育に必要な活動の手助けをしたりするとされており、このような微生物が有用に活用できれば、農薬の使用量を減らしながら収量を上げることができるかもしれません。

エンドファイトとは?

ギリシャ語で「endo phyte」(内部の植物)を意味する言葉で、植物内において植物体と共生している菌類などの微生物の総称を指します。この微生物の作用によって、植物が本来持っている免疫機能や生長機能を向上させることができるとされています。植物の体内に共生する菌根菌や根粒菌は、エンドファイトの一つであるという考え方と、狭義では区別されるという考え方があるようですが、植物に及ぼす影響や共生関係の観点から同様のものではないかと筆者は考えます。

動物と同様に植物の内部にも微生物が存在していて、菌根菌や根粒菌のように宿主にメリットを与え共生関係が成立するものと、灰色カビ病(Botrytis cinereaといわれる糸状菌)のようにデメリットを与えるものがあるとされ、宿主と共生できない微生物(病原菌)は植物に壊死反応を発生させ枯死させてしまいます。

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エンドファイトのメリット

植物が本来持っている力を引き出す

植物体に壊死反応を発生させることなく、植物体の免疫力を高め、病害虫への耐性や環境変化に対する耐性を向上させたり、栄養吸収率を向上させ植物が健全に育つ力をつけていくことを補助したりします。草分け的なものとして著名なエンドファイトは、イネ科の植物体と共生関係を築くネオティボディウム属(Neptyphodium)という糸状菌の一つで、この菌が作り出す分泌液の影響により植物の害虫耐性が向上します。農業分野で近年注目が集まっている菌根菌は、土壌に存在しているリン酸の吸収を助ける代わりに植物体から光合成産物を受け取るという共生関係を築き、さらに菌根菌が内生している植物は耐乾燥性や耐病性が向上することが知られています。

団粒構造化を促進し、土壌改良を助ける

エンドファイトを活用することは、微生物の働きを活かすことに繋がりますので、土壌の品質を向上させるという点においてもメリットがあります。化学肥料は、すぐに植物が栄養素を吸収できる形に作られているため速効性がありますが、土壌微生物の働きが少なくなり土壌は痩せて地力や団粒構造を失っていきます。有機肥料のように微生物が分解したのちに植物が吸収するという段階を踏まないためです。一方、微生物の働きを十分に生かすことを前提にすれば、有機肥料を活用することで微生物が増え、団粒構造化が促進されるなど土壌環境が改善されていきます。

肥料や農薬の使用を減少させ農業経営を助ける

微生物の活動が少ないことにより、土壌中に十分にある肥料成分を植物が上手く吸収できなかったり、害虫耐性能力が低下したりしているという可能性があるため、エンドファイトを活用し生育促進ができれば、肥料や農薬の使用量を減らせるかもしれません。それが実現できれば農業経営における作業負担や費用負担の軽減にもつながるのではないでしょうか。

エンドファイトのデメリット

エンドファイトの種類によっては植物の中で毒素を作り、食べられないように自分自身を守っているため、牛や羊などの家畜が食べると消化不良や中毒症状を起こすことがあります。飼料となるストロー(麦わら)に共生しているエンドファイトは、植物中に分泌するアルカロイドが家畜への毒性に関与しており、ロリトレムBやエルゴバリンというアルカロイド系の毒素により、牛や羊などの家畜が多量に摂取すると中毒を引き起こすとされています。特にアメリカから輸入されているペレニアルライグラスやトールフェスクというストローに共生していることが多いようです。毒素濃度が基準値以下であるか確認し、なるべく単体の飼料としては使わないようにしましょう。現在のところ、畜産物への残留性については明らかになっていません。消費者への安全性の観点から研究が進み、相互関係の解明が待たれます。

身近なカビ菌にも、酒・みそ・醤油・チーズなどの製造に役立っているものや、中毒・アレルギー・感染症などを発症させ人体へ悪い影響を与えるものと区別されていますが、アルカロイドという毒素を作り出すカビ菌は後者にあたるものと考えることができますね。

アーバスキュラー菌根菌資材|キンコンバッキー

キンコンバッキーは、内生菌根菌であるアーバスキュラー菌根菌を含んだ資材です。アーバスキュラー菌根菌は糸状菌であり発芽した胞子から伸びる菌糸によって植物の根に共生します。キンコンバッキーはグロムス属のアーバスキュラー菌根菌を含んでおり、共生すると株の充実や花数増加などの効果を植物に与えます。これはアーバスキュラー菌根菌のリン酸吸収能によるもので、植物の根に共生したアーバスキュラー菌根菌は再び土壌中に菌糸を伸ばして植物の根が届かないようなところからもリン酸を吸収し、共生した植物(宿主植物)に好影響を与えます。
キンコンバッキーは水で2000倍に希釈して若い植物に希釈水を施用することで共生させます。育苗期から定植までが最適で、ポット苗の場合は50-100ml、定植直前のドブ漬けも良いです。アーバスキュラー菌根菌は農薬に弱いため使用には注意が必要です。

エンドファイトを活用する栽培方法も取り入れてみては?

慣行農業においては、不足した化成肥料の施肥や、病害虫防除のための農薬散布といった即効性が高く、問題点をピンポイントで解決される手法を取られてきました。効果がわかりやすいため広く普及してきましたが、肥料不足や安全性の観点から今回ご紹介したエンドファイトを活用する方法も取り入れていったほうが良いのかもしれません。今後の研究が進み、植物体と微生物との共生関係がより解析され、日本の農業に役立つことを願っています。

植物と共生するエンドファイトとは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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