そこで多くの農家の方が取り組んでいるのが、暖房器具や多層被膜、断熱シートなどを用いた冬季の温度管理です。しかし、実はビニールハウス内は温度管理だけでなく湿度管理も適切でなければ、植物にストレスを与えてしまったり病害リスクを高めてしまったりすることがあります。
この記事では、温度だけでなく湿度管理も重要になる理由について解説し、温度管理とともに湿度管理を適切に行う方法についてご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
冬のビニールハウスのよくある温度管理方法
冬のビニールハウスは、適切に温度管理をしていなければ植物の生育速度が大幅に落ち込んでしまったり、生育に致命的な影響が出たりすることがあります。それだけでなく、ハウス内が極端に寒いと人間にとっても過酷な環境となり、指先がかじかんでしまうなどで作業効率も落ちてしまいます。
そのため、冬期のビニールハウスでは温度を管理するためにさまざまな工夫が用いられています。まずは冬場のビニールハウスの温度管理の代表的な方法についてチェックしておきましょう。
暖房機器で加温する
温風式の石油暖房機
ビニールハウスの加温で広く使われている温風式の石油暖房機は、最も一般的に普及している暖房機器で、暖房機器全体の90.5%を占めています。灯油やA重油を燃料として燃焼させ、その熱で空気を直接温め、温風としてハウス内に送る方式の暖房機です。立ち上がりが非常に早く、夜間の急激な冷え込みや放射冷却による温度低下に対して、短時間で温度を回復できる点が最大の特徴です。そのため、霜害対策や夜明け前の最低温度管理に強く、大型ハウスや連棟ハウスでも主力機として使われています。
構造は、燃焼室・熱交換部・送風ファンから成り、排気ガスをダクトで屋外へ出す排気ダクト式が一般的です。これにより作物や人への悪影響を避けられますが、水蒸気も外へ排出されるため、ハウス内が乾燥しやすくなります。また、空気を直接暖める方式のため、暖房機付近と離れた場所で温度差が出やすく、送風ダクトの設置や循環扇の併用による温度ムラ対策が欠かせません。
燃料が入手しやすく停電時にも対応しやすい一方、燃料価格の変動が経営に影響しやすく、燃焼音やCO₂排出といった課題もあります。運用ではサーモスタットによる自動制御が一般的ですが、内張りカーテンなどの保温対策を組み合わせ、暖房機が過剰に稼働しない環境を整えることが重要です。このように温風式石油暖房機は即効性と実績に優れる反面、周辺設備と一体で使うことが安定運用の鍵となります。
ヒートポンプなど
最近の研究では、ヒートポンプなどエネルギー効率の高い暖房方式も注目されています。特に地中熱や水熱源を利用したタイプは寒冷地でも高効率で、暖房コスト削減に寄与することが報告されています。また、温湯パイプ、テープヒーター、潜熱蓄熱材、局所温風などで根元や生長点を効率よく加温する局所加温などの研究も進み、暖房エネルギー全体を抑える方法として導入が増えています。
内張りカーテンや多層被覆を設置する
内張りカーテンは、ハウス内部にフィルムやカーテンを追加して空気層を作り、断熱効果を高める代表的な省エネ技術です。昼間はカーテンを開放して太陽光を効率よく取り込み、夜間に閉めて熱を逃がさないようにすることで熱を逃がさないようにしていきます。
農研機構の資料によると、高断熱の多層保温資材(布団資材)を用いることで複数の空気層を形成することができ、放射冷却や熱損失をさらに抑えることが可能としています。
暖房負荷の大幅な削減の可能性がある多層被覆の設置ですが、導入時にはハウス規模や作物に合わせて適切な厚み・素材を選び、気密性を高めることがポイントです。
断熱資材を利用する
例えば「エコポカプチ」のような断熱資材は、ビニールハウスの北側や風の影響を受けやすい側面、特に冷気が侵入しやすい腰巻き部分(ハウス下部)に施工することで、外部からの冷気を大幅に遮断できます。これにより、内部の熱が逃げにくくなり、冬季の保温効果が大きく向上します。断熱効果を最大限に引き出すために、施工の際は、隙間なくしっかり密着させるようにしましょう。
冬のビニールハウスは温度管理だけでは不十分?その理由とは
冬のビニールハウスでは、上記のような手法で温度を管理することが重要ですが、一方で「それだけ」になってしまうと植物にとって非常に厳しい環境を作り出してしまう可能性があります。ここでその理由を詳しく見ていきましょう。
高湿度環境でカビ(糸状菌)や細菌の繁殖が促進される
ビニールハウスでは作物の蒸散や地表からの水分蒸発により、水蒸気が常に発生しています。また外気と遮断された閉鎖空間のため、湿度が非常に高くなりやすい場所です。天井付近には暖かく湿った空気が滞留し、作物の葉の周辺や株元には冷たく湿った空気が溜まります。この結果、葉温が露点温度を下回り、葉面結露が発生しやすくなります。湿度計が80%前後を示していても、葉の表面では100%に近い状態が起きていることも珍しくありません。特に湿度が80~90%を超えると、べと病や灰色かび病などの病害菌が活発に増殖します。また、換気が不十分だと湿気が滞留し湿度がさらに上がりやすくなり、病害のリスクが飛躍的に増加してしまうことになります。
ビニールハウスで湿度が高いことで発生しやすい病気
| 病名 | 病原 | 主な症状 | 発生しやすい条件 | 主な作物例 |
|---|---|---|---|---|
| 灰色かび病 | 糸状菌 | 花・果実・葉が褐変し、灰色のカビが発生 | 高湿度(90%以上)、結露、低温 | トマト、イチゴ、ナス、キュウリ |
| うどんこ病 | 糸状菌 | 葉や茎が白い粉状になる | 昼夜の湿度差大、換気不足 | キュウリ、ナス、イチゴ |
| ベと病 | 糸状菌(卵菌) | 葉表に黄斑、裏に灰紫色のカビ | 高湿度、風通し不良 | キュウリ、レタス、タマネギ |
| 菌核病 | 糸状菌 | 茎や果実が腐敗、白色菌糸と黒色菌核 | 高湿度、低温 | トマト、レタス、インゲン |
| 軟腐病 | 細菌 | 組織が軟化・腐敗し悪臭 | 高湿度、結露、傷口 | レタス、ハクサイ、キャベツ |
| 疫病 | 卵菌 | 株元腐敗、急激な萎凋 | 多湿土壌+高湿度 | トマト、ピーマン、キュウリ |
| 褐斑病 | 糸状菌 | 葉に褐色斑点が多数発生 | 高湿度、葉の濡れ | イチゴ、キュウリ |
| 葉かび病 | 糸状菌 | 葉裏に黄褐色~褐色のカビ | 高湿度、夜間結露 | トマト |
結露が発生しやすくなる
ビニールハウス内を暖房で温めると、内部の温かい空気と外の冷たい空気との間に大きな温度差が生まれます。この温度差によって、ビニールの内側の壁面や作物の葉に水滴ができる「結露」が発生しやすくなるのも、植物にとって厳しい環境となる理由のひとつです。
結露の水滴は植物の葉の表面を濡らし、カビや菌が繁殖しやすい環境を作り出してしまいます。カビや病害菌は高湿度を好み、葉や果実の表面に長時間水分がある状態で感染を進めます。結露はビニールハウスでの病害発生の大きな要因なのです。
結露を放置すると病害が拡大し、作物の品質や収量に悪影響を与えてしまうことになります。
関連コラム:ビニールハウスで発生する結露水の影響と対策について
過度の温度上昇が植物のストレスとなる
過剰な暖房や急激な温度変化は作物にとってストレスとなり、生理機能を乱して弱らせてしまうことがあります。ストレスを受けた植物は免疫力も低下し、カビや病原菌に対する抵抗力も弱まってしまうため、結果的に病害が増えやすくなります。
安定した温度管理と湿度のバランスが、植物の健康維持に不可欠なのです。
湿度管理の要「循環扇」とは?
ビニールハウス内の空気は動きにくく、湿度ムラが生じます。そこで有効なのが、循環扇です。
循環扇の基本的な役割①
「空気を混ぜる」ことで局所的高湿度を防ぐ
循環扇の最大の役割は、上下・前後の空気を攪拌(かくはん)し、ハウス内の空気を均一化することです。循環扇を回すことで、
- 天井付近の湿った空気が作物付近へ降りる
- 作物周辺の冷湿な空気が上方へ押し上げられる
この動きにより、特定の場所だけ湿度が極端に高くなる状態が解消されます。結果として、結露が起きにくい環境がつくられます。
循環扇の基本的な役割②
葉面境界層を薄くし、結露を防ぐ
作物の葉の表面には「境界層」と呼ばれる、ほとんど動かない空気の層があります。この層が厚いと、蒸散した水蒸気がその場に溜まり、葉面湿度が急上昇します。
循環扇による緩やかな風は、この境界層を薄くし、
- 葉面の湿度上昇を抑える
- 葉温と空気温の差を小さくする
という効果を生みます。これが、湿度計の数値以上に病気を抑える実効的なポイントです。
循環扇の基本的な役割③
換気・除湿の効果を最大化する
循環扇単体で湿度を下げることはできませんが、換気と組み合わせることで除湿効率を大きく高めます。たとえば天窓や換気扇を動かしても、空気が滞留していれば湿った空気が外に出ません。循環扇があることで、
- 湿った空気が天窓・換気口へ運ばれる
- 外気との入れ替えがスムーズになる
結果として、短時間・低温度下での除湿が可能になります。冬場に「換気すると寒くなる」問題を和らげる点でも重要です。
ビニールハウスの温度・湿度管理の4つのポイント
ではここからは、冬場のビニールハウスを適切な環境に整えるために、次の4つのポイントについても確認しておきましょう。
1. 地域の最低気温を確認して対策する
冬のビニールハウスの温度・湿度対策を行うには、まず「どれくらい冷える地域なのか」を把握することが重要です。
最低気温が非常に低い場合は、断熱性能の高い被覆資材を選ぶ必要があります。暖房の種類も、石油暖房や薪ストーブ、太陽熱利用など地域の気候に合ったものを選択しましょう。
また、断熱の方法も多層被覆や内張りカーテン、断熱シートなど複数の資材を組み合わせることで効果的な保温が可能になります。
大切なのは、1つの対策に頼らずに複数の対策を適切に組み合わせることです。循環扇によって空気の流れを作ることと併せて行い、作物に適した環境を整えてあげてください。
2. 温度センサーや湿度計の設置位置に気をつける
作物の成長点は、植物が実際に体感している環境を最も反映する重要な部位です。温度センサーはこの成長点の高さに設置することで、より正確な温度データを得られます。センサーの位置が高すぎたり低すぎたりすると、管理温度とのズレが生じ、生育不良につながる恐れがあるので、正しい高さで測定するようにしましょう。
一方、湿度計は湿気がこもりやすい場所や病害が懸念されるエリアに設置し、過湿・乾燥に素早く対応できるようにしてください。
3. 複数箇所に温湿度計を置く
場所によって温湿度が異なりやすいビニールハウス内は、温度ムラや湿度の偏りを防ぐことが非常に大事です。この温度ムラや湿度の偏りを防ぐためには、入口付近、中央、換気扇の反対側など複数の場所に計測器を配置し、ハウス全体の環境を正確に把握することが欠かせません。
こうしたデータを元に換気や暖房の調整を行うことで、ムラを解消し均一な栽培環境がつくれます。温度センサーも湿度計も、正確な把握ができるように直射日光や暖房の吹き出し口を避けて設置することも大事です。温湿度計は定期的にメンテナンスすることも忘れないでください。
4. 季節の切り替わりは特に温湿度管理を強化する
冬〜春、秋〜冬の季節の移り変わりの時期は、外気温の変動が大きくなり、ハウス内の温湿度も不安定になりやすい傾向にあります。こうした環境変動は作物にストレスを与え、生育に悪影響を及ぼすため、特に温湿度管理をより徹底する必要があります。
具体的には、
● 温湿度センサーの再調整を行う
● 成長点周辺の温度を正確に把握できるようにする
● 換気のタイミングを見直す
● 加温開始温度をきめ細かく設定する
などの対策が不可欠になります。作物のストレスを和らげ、健康な成育をしっかりサポートするためには、季節の変わり目の急激な温度変化への細やかな対応が欠かせないのです。
「空動扇/空動扇SOLAR」は冬のビニールハウスの温湿度管理におすすめ!
空動扇/空動扇SOLARは、ビニールハウス内の空気を自然の風や太陽光発電の力で効率的に排気する換気扇で、ハウス内部の温度と湿度を管理することができます。
ランニングコストがほぼゼロで、初期費用のみで導入可能なのも大きな魅力です。設置も比較的簡単で、太陽光が少ない無風時でも空動扇SOLARが太陽電池を利用してファンを動かすため、安定した換気効果が得られます。これにより冬季の寒さや夏季の暑さ対策として年間を通じて幅広く活用可能です。
また、強風や台風時には気圧調整機能により風害を軽減でき、ビニールハウスの倒壊リスクも減らすことができます。積雪のある地域では、冬場のビニールハウスの倒壊リスクを抑えるために導入されている農家の方もいらっしゃいます。
空動扇シリーズで天井部から換気を行うことで、ハウス内の最も湿度が高い層の空気を効率的に排出し、外気と入れ替えることができます。これにより、空気中に含まれる水蒸気そのものが減り、相対湿度(%)の上昇や結露の発生を抑制できます。
自然の力を利用したエコで省エネな設備を、この機会にぜひご検討ください。
一年中快適なビニールハウス環境を整える工夫を!
冬のビニールハウスでは、つい温度管理に重きを置いてしまいがちですが、単に温度を上げるだけでは湿度が偏って結露しやすくなり、病害の原因となってしまいます。
病害を防ぎながら植物の生育に適切な環境にするためには、加温や断熱といった温度対策に加えて、空気の換気や循環にも気をつけることが欠かせません。冬のビニールハウス栽培では、温度と湿度のムラのない環境を作り出してあげることが何よりも重要なのです。温度や湿度のムラをなくせば、加温の効率もよくなって燃料などのコスト削減にもつながります。
空気の循環を考えた際最も経済的なのは、自然の力で換気・空気循環ができるシステムです。セイコーエコロジアの「空動扇/空動扇SOLAR」は、ランニングコストをほぼゼロで行える換気システムです。冬場だけでなく夏の高温障害対策への実績もある換気扇なので、一年を通して健全で効率的な栽培環境を維持したい農家さんにおすすめです。ぜひこの機会に導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
関連コラム:
・冬のハウス栽培に適した野菜とは?環境をコントロールして収入アップ
・ビニールハウス栽培のメリット・デメリット│育てやすい作物は?
参考:
・Ⅱ 温室の保温性向上技術|農林水産省
コラム著者
満岡 雄
玉川大学農学部を卒業。セイコーエコロジアの技術営業として活動中。全国の生産者の皆様から日々勉強させていただき農作業に役立つ資材&情報&コラムを発信しています。好きなことは植物栽培。Xで業界情報をpostしておりますのでぜひご覧ください。
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