現在ではこのような知恵を活かし、晩秋に収穫した作物を雪の中で保存後出荷する栽培方法を用いて市場に出回るものは、越冬野菜という一つのブランドとして認識されています。全体の生産量が少なくなる冬場に市場に出回ることでより価値が高くなり、「越冬キャベツ」(北海道上川郡和寒町のブランド)や「雪ノ下大根」(函館市亀田町のブランド)などは有名なブランド野菜です。希少性が高くなることで越冬野菜は高値での販売が可能になるというメリットがあり注目を集めています。今回は越冬野菜ではありませんが、供給が少なくなる冬場に野菜を市場に提供することが可能になる冬のハウス栽培についてお伝えしていきたいと思います。
冬に野菜をハウス栽培するメリット・デメリット
●メリット

ハウス栽培の良いところは、外の気象環境に左右されにくく作物に適した生育環境を人工的に維持できるという部分です。ハウスの被膜の組み合わせを工夫すれば、少ない光熱費で温室を適切な温度に維持しやすくなります。防霜としての効果も期待できます。
予算は高くなりますが、温度・湿度・二酸化炭素濃度・土中水分・換気等を計測できるセンサーでセンシングを行い、自動的に制御する方法もあります。自動化を進めることで作物の環境調整作業から解放され、仕事の効率を格段にあげ収穫量を増やすことが可能となります。
●デメリット
雪深い場所でハウス栽培を行う場合は雪対策が不可欠となります。施設が雪につぶされないようにパイプおよび鉄骨などの強度を確保し、除雪のしやすさを考慮しておく必要があります。一般的にビニールハウスは雪に弱く、こまめに除雪をする必要があります。降雪地域でハウスを作る際には、除雪作業をしても利益が生み出せるかコストをよく見極めて投資をする必要があります。
費用を抑えたい農家さんは、ビニールハウスを選択するケースが多くなりますが、ビニールハウスの被覆は数年で交換時期を迎えるため、定期的なメンテナンスが必要になります。また台風や強風などの風害にも影響を受けやすく日々のケアをこまめに行わなければなりませんし、厳冬期に人工的に環境を作り出し、維持するには温度調節が必要ですから相応の光熱費が発生します。加えて自動化を導入すると、センサーや制御装置の設定が不十分で環境管理が適切に行われないケースもあり、装置の調整を行うため手がかかってしまうことがあります。省力化しようと考えて導入した設備の調節に時間を取られ、反対に労力が増えてしまっては本末転倒です。
ハウス栽培は天候の影響もうけることもなく、生産が継続されていることになり経営的にはありがたいのですが、休んでいる時間がなくなり総労働時間は増えることになります。露地栽培のみの時代には寒さの影響をうけ栽培そのものをあきらめ、春先までは家の中で出来る作業をしたもので、ライフワークバランスが見直されている昨今では、どちらが良いのか判断するのは難しい部分がありますね。
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冬のハウス栽培に向いている主な野菜
冬のハウス栽培に適している野菜類としては、ほうれん草・小松菜・春菊・アスパラガスなどが有名です。これらの野菜の原産国は、中央アジア(ほうれん草)、南ヨーロッパ(小松菜・アスパラガス)、地中海周辺(春菊)と言われており、いずれも気温が低めで夏冬の気候がはっきりとしている低湿度の場所が多い印象です。
●小松菜・ほうれん草

露地栽培で冬場に栽培されることもある小松菜・ほうれん草は、もともと寒さにも強い性質を持っています。寒さにさらすと寒締めにより、低温への備えとして凍りにくい糖分などを蓄積し、旨味を凝縮させることができます。そのため晩秋からハウスを適度に開放し一定期間寒さに当てると良いと言われています。
このような性質を利用し、小松菜やほうれん草に付加価値を与えようという研究が東北農業試験場 地域基盤研究部 低温ストレス研究室で行われています。報告がわかりやすいので、ご興味がある方はご覧ください。
(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 HPより)
●春菊
春菊は比較的寒さに強く冬場でも育てやすい野菜の一つです。年2回収穫が可能な野菜で、春に種をまいて5月~7月収穫する方法と、秋に種をまいて10月~翌年1月収穫する方法があります。冷涼な気候に適しており、風・雪・雨などの影響が少ない環境で穏やかな日差しがあれば育つ野菜のため、ほうれん草・小松菜と同様に無加温ハウスでの栽培ができる品種であると考えられており、寒さにさらされることで柔らかくアクが少なくなると言われています。
日本では鍋料理に欠かせない野菜の一つですが、原産国のヨーロッパでは菊の香りが嫌われ、食用ではなく観賞用として栽培されていました。最近は日本食のブームもあり食用として見直されてきているようです。
●アスパラガス
多くのアスパラガスは3月から10月に収穫され、11月から翌年2月頃が新旧入替る端境期となります。この端境期に生産を可能とする方法として、春~秋までに育ったアスパラガスの株を冬に掘り起しハウス内で根の部分を加温しながら栽培する「促進アスパラガス」と呼ばれる種類もあり、夏場に蓄えた養分で育つと言われています。
岩手県農林研究センター「休眠特性の解明によるアスパラガス新作型の開発」もご参照ください。
冬のハウス栽培に向いている資材
いちご用LED電球
いちごの波長を調べ最適なLEDチップを選定し開発されたLED電球です。冬場の日照不足への対策として活躍します。多数のいちご生産者様に導入していただいており「生育促進」「休眠防止」「収量確保」という点でご好評いただいております。詳しい使い方等ぜひお気軽にお問い合わせください。
トマト用LED電球
トマト用LED電球はトマトの生育に適した赤色630nmと青色(白色)460nmの波長の光を放出するように設計されたLED電球です。施設園芸での使用を想定し農薬散布にも耐えられる防水性能も持ち合わせています。降雪時や曇天時の昼間や、通常時の夜間に可能な限り点灯させることでトマトが二酸化炭素を吸収し光合成をしやすい環境を作り出すことで、トマトの生育不良を引き金として起こりうる病害虫増加や収量減といったリスクの軽減が期待できます。
20Wと40Wの2種類をラインナップしておりますのでご使用環境(例えば育苗や本圃など)にあわせてお選びいただけます。またE26の口金を採用(40WLED電球の口金はE36ですが、E39⇒E26 変換ソケットを付属)していますので既存の配線設備があれば差し替えるだけで利用することが可能です。
トマト用LED電球20Wの設置イメージ
トマトの草丈が地表から2m未満の場合・・・各通路に対して設置間隔1.0m~2.0mに1球を設置
トマトの草丈が地表から2m以上の場合・・・各通路に対して設置間隔1.0mに1球を斜めから照射するように設置
施設を活かし収量アップ
市場の流通量が減少する時期に、人為的に作り出した環境下で作物を生産・出荷することができれば、通常の最盛期に比べて市場競争率は低く、しかも高い金額での取引が可能になります。環境を制御することができる施設を活かし促成栽培を行うことで、収量アップに挑戦してみてはいかがでしょうか。
コラム著者
キンコンバッキーくん
神奈川県藤沢市出身(一説によると母親はイスラエル人)、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。