ミツバチ界の食料事情
ミツバチは食べ物とする蜜や花粉を求めて花にやってきます。巣内の幼虫を育てるために花から集めた蜜や花粉を運び巣箱に持ち帰るためです。花の蜜からはエネルギーを作り出す糖、花粉からはタンパク質・ビタミン・ミネラルなどを吸収しています。蜜はハチミツに生成され、花粉は団子状のハチパンになり、食料として保存されます。ハチミツとハチパンの他に、働きバチが花粉を材料にして体内で合成したローヤルゼリーがあります。ローヤルゼリーは女王バチや生後3日後までの幼虫だけが食べることができる特別な食料です。女王バチは働きバチと比較すると、体の大きさは2~3倍あり、寿命はなんと30~40倍も長い(平均寿命は3~4年)といわれています。冬の間は蓄えた蜜を食べてエネルギーに変え、体温を上げることで寒さをしのいでいます。
イチゴの受粉の役割を担うミツバチ
イチゴは昆虫が媒介して受粉を行う虫媒花(ちゅうばいか)です。花の色彩や香りを使って虫を引き寄せます。イチゴの花の白や黄は捕虫シートの色と同じで、虫を引き寄せやすい色です。ミツバチが食料を求めて花にもぐっているうちに、体毛についた雄しべの花粉が雌しべにくっつき、イチゴの花は受粉することができ結実します。このような活動をポリネーション(花粉交配)と呼びます。ミツバチによるポリネーションが十分に行われないとイチゴの実が大きくならなかったり、きれいな形にならなかったりします。イチゴのつぶつぶは一つ一つが果実のため、つぶつぶが全部受粉しないと形が悪くなります。ミツバチは花の中でくるくるとまわってまんべんなく受粉させてくれますので、大きく形のきれいな実が育ちやすくなります。
自然環境ではミツバチが飛来しますが、施設栽培では花粉を媒介する虫を用意してイチゴを受粉させる必要があります。イチゴ栽培の訪花昆虫はセイヨウミツバチが用いられることが多いようです。その他にイチゴの施設栽培で用いることができるのはクロマルハナバチ・セイヨウオオマルハナバチ・ニホンミツバチがあります。
一般に、イチゴ農家さんは花が咲く時期になると、ポリネーション(花粉交配)用のミツバチを養蜂家から借ります。イチゴの施設栽培では10月~3月にかけて6ヵ月もの長期にわたり活動してもらう必要があります。ミツバチがイチゴの花から花粉を持ち帰って幼虫のエサになることで、次世代の働きバチを育てることとなります。ミツバチがうまく働いてくれず、訪花の回数や花の滞在時間が少ないと、奇形果が発生しやすいと考えられています。果実が肥大せず重量が軽くなりやすいという傾向もあるようです。
ミツバチを導入するときの留意事項
ミツバチが消耗する主な要因としては、①寒さ②高温湿度③農薬(殺虫剤や殺菌剤)④花粉不足などがあげられます。この4項目以外にも留意すべき点がありますのでご紹介します。
ミツバチの導入数
ビニールハウスの中の花に対してミツバチが多すぎるとエサが不足してハチが減少して受粉率が高まりません。一般的な目安としては10aあたり1群(6,000~8,000匹)とされています。
巣箱の置き場所や置き方
ビニールハウスの立地や気候によって、環境が大きく異なるため設置位置については、イチゴ農家さんによって考え方がさまざまのようです。一般には日当たりが良好なことと、冷たい風が巣門から入らないことが大切だといわれています。また温度差の大きいところや、湿度の高いところは巣箱内の環境が変化しやすいため不適切です。日当たりは大事ですが長時間、直射日光があたる場所は、巣箱内の温度が上昇しすぎるため適切ではありません。日光が当たりすぎる場合は、すだれや寒冷紗などで日よけを作ると良いです。冬は北西からの冷たい季節風が吹くことが多いため、冷たい風が巣の中に入らないように配慮する必要があり、巣箱をビニールハウス内におくか、外に置くかで置き場所も変わってきます。
ハウスの建て方 | 巣箱の置く場所 | 巣箱の置き方 |
---|---|---|
南北建て | 内側 | 巣門を南向きにしてハウスの北側に置く |
外側 | 巣門を北向きにしてハウスの南側に置く | |
東西建て | 内側 | 巣門を東向きにしてハウスの西側に置く |
外側 | 巣門を西向きにしてハウスの東側に置く |
ハウスの外側に設置する場合、薬散による影響が少なく、イチゴ以外の花粉も利用できるためハチが減少せず春先の産卵数が増えやすいといったメリットがありますが、冷風対策が必要です。一方、ハウスの内側においては巣箱が冷えにくいのですが、薬散時に巣箱を一時的に避難させる必要があるため、ハチの減少が免れないといったデメリットがあります。
目印をつける
ミツバチには帰巣能力がありますが、ビニールハウスの中の景色はどの方向から見ても似ていることから、ミツバチにとって巣に帰りにくい環境だと考えられています。高設栽培では巣箱に帰れず死んでしまうハチが多くなる傾向があるようです。台座を作って花の高さか、それより少し高い位置に置くなどハウスの中で目立つように設置すると良いでしょう。巣箱付近に青い板などのランドマークを設置すると目印となってミツバチが帰ってきやすくなります。
ミツバチ用のエサを与える
イチゴの花には蜜がないため、人為的に蜜を与えないとミツバチが死んでしまう場合があります。また花がない時期は花粉が取れないためエサが必要となります。エサには糖液、顆粒や粉末の代用花粉などがあり、これらにはタンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルなどが含まれています。エサを与えすぎると産卵する場所がなくなったり、無駄な活動が増えたりしてハチが減少する原因となりますので注意しましょう。ミツバチは足に花粉のだんごをつけて帰巣します。たくさんつけて帰巣している場合や、巣の中に花粉の量がたくさんある場合は与えなくて良いようです。一般に暖かい時期は多め、寒い時期は少なくすると良いと考えらえています。風が強く巣箱に冷たい風が入ると貯蔵しているハチミツの量が激減する場合がありますので注意しましょう。
ミツバチの活動に適切な温度や湿度を保つ
セイヨウミツバチが盛んに訪花活動をするのは20~25℃が良いとされています。そして、巣の中心にある育児圏の温度は33~34℃が良い(32~35℃の見解もある)とされています。温度調節がうまくいかないと産卵のペースが遅れるなど幼虫を育てることができずに数が減少します。ミツバチは巣箱の温度を敏感に感じ取ることができます。巣の温度が低いときは、働きバチは胸の筋肉を使って集団で発熱します。反対に巣の温度が高い場合は翅を羽ばたかせたり、持ち込んだ水分を蒸発させたりして温度を下げます。羽ばたきの回数は1秒間に100~200回程度とされています。ビニールハウスの湿度が高ければ高いほど温度が下げづらくなりますので温度だけでなく湿度にも留意する必要があります。
ミツバチに影響の少ない農薬を選ぶ
農薬は害虫を防除するために使用しますので、虫に対して同じような作用機構を持つ薬剤の影響は免れません。わずかな薬散でも放花活動に影響が出る場合があります。できれば病害虫の防除はミツバチの導入前に徹底して、導入直前や直後の薬散は控えるようにしてください。どうしても殺虫剤や殺菌剤を散布する際は薬散前日の日没後に巣門(入口)を閉じて日光が直接あたらない涼しい場所に避難させましょう。待機期間が長くなり巣門を開ける場合は、もともとあった場所から2km以上離れた場所で放飼すると良いと考えられています。農薬を散布した場所にいかに近づけないかが重要です。
紫外線除去フィルムの利用に留意する
病害虫の防除のために、ビニールハウスに紫外線除去フィルムを被覆する場合があると思います。アザミウマなど紫外線を感知する害虫の活動抑制効果を期待して実施しますが、実はミツバチも太陽の紫外線を感知して飛行する性質を持っているため、紫外線除去フィルムの被覆がミツバチの活動量を低下させる可能性があります。被覆するフィルムの紫外線の透過度には注意が必要です。ツチマルハナバチは紫外線除去の影響を受けにくいという研究もありますので、ハチの種類を変えてみるという方法を検討してみても良いかもしれません。
役目を終えた巣箱を適切に処理する
交配が終わった後の巣箱はふそ病やダニの感染源になるため、適切に返却または焼却処分するようにしてください。弱った巣は病気の感染源となります。
イチゴのビニールハウスの温湿度管理におすすめの資材
空動扇/空動扇SOLAR|ビニールハウス向け温度調節換気扇
イチゴのビニールハウス栽培の換気設備として、おすすめしたいのが空動扇/空動扇SOLARです。風の力や太陽の光を利用してベンチレーターが駆動し、ビニールハウスにこもった熱だまりや湿気を外に排出します。温度で変化する形状記憶スプリングが伸縮することで換気弁が開閉します。換気弁が開閉する温度はおおよそ0~40℃の間で調節することが可能です。温度調節に慣れてしまえば、換気させたいときに自動で働いてくれますので、作業の省力化につながりますし、温度管理の作業的な負担や心理的なストレスが少なくなります。空動扇/空動扇SOLARでビニールハウスの換気を自動化できれば、ミツバチがより良く働いてくれるかもしれません。
ミツバチの活動しやすい環境を整えて品質の良いイチゴを育てましょう
ミツバチが快適に働いてくれないと、良い品質のイチゴを収穫することが難しくなってしまいます。そのためにはミツバチの特徴を理解して、上手に飼育することが大切です。ミツバチに効率的に働いてもらいイチゴの収量アップをめざしましょう。今回のコラムをお役立ていただけましたら幸いです。
参考資料:
・ミツバチにうまく働いてもらうために(みつばち協議会)
・イチゴ花粉媒介用ミツバチの適正放飼技術(大石 登志雄)
・知ってとくとくミツバチの管理法(愛知県農業総合試験場)
・紫外線除去フィルムが花粉媒介昆虫ツチマルハナバチの受粉活動に及ぼす影響(西口 郁夫)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。