そもそも花芽分化とは?
茎や根の生長点では、活発に細胞分裂が行われて伸長していきます。茎では葉や花が展開していくこととなりますが、ある条件が揃うと、それまで葉を作っていた生長点が花を形成するため、形の違う葉を作り始めます。これを花芽と呼んでいて、生長点で形成されるものが葉から花に変わることを花芽分化といいます。花芽分化が始まると、栄養は花芽に集中するようになります。農作物においては積極的に花芽分化を進めたほうが良い作物と、そうではない作物があります。ダイコンやニンジンといった根菜類やハクサイやキャベツなどの葉菜類では、花ができてしまうと栄養が花に集中してしまい収穫箇所の品質が低下するため、なるべく花芽ができないように栽培します。一方、イチゴやナスといった果菜類やリンゴやナシなどの果樹類では、開花の後にできる実が商品となるため、積極的に花芽を形成するように管理します。パッションフルーツは果樹ですから、花芽形成を増やすことが収穫量を増やすことにつながります。
花芽分化が発現する条件|光と植物の関係
短日植物か長日植物か、または中性植物かによって花芽分化の条件は異なります(パッションフルーツは長日植物です)。光との関係性だけでいえば、短日植物は、日が短くなる(暗期が長くなる)と花芽を形成し、長日植物は日が長くなる(暗期が短くなる)と花芽を形成します。中性植物にとって暗期は関係せず、温度などを認識して花芽を形成します。
植物には光に生理反応を示す光受容体が備わっています。植物が光合成や光反応に利用する波長は、おおむね400nm~700nmの光で、主に400nm~500nmの青色の波長や600nm~700nmの赤色の波長が利用されやすいとされています。光受容体には青色光に反応するクリプトクロムやフォトトロピン、赤色光や遠赤色に反応するフィトクロムなどがあります。長日植物は、日が長くなる(暗期が短くなる)とフィトクロムを通した生理応答により、それまで展開していた新葉を発現させる体制から、開花や結実に備えて花芽を発現させる体制に移行すると考えられています。長日植物の花芽の形成には、光の波長の中でも赤色光や遠赤光が関与している可能性が高いとされています。
短日植物の花芽形成を抑制するのは赤色光、長日植物の花芽形成を促進するのは赤色光や遠赤色光とされていますが、青色光についても関与している可能性もあり、まだ解明されてない点も多く残っています。
パッションフルーツにおける花芽分化と光の関係
パッションフルーツは新梢の伸長に伴い、茎頂付近から花芽分化します。長日植物のため、日照時間が長いほど新梢の伸長が抑制されて、花芽の発達や開花が促進されます。冬場の短日条件では花芽分化は行われません。冬期の施設栽培では11時間の日長で花芽を形成するため、自然の日長では不足する日照時間を電照で補う必要があります。従来、パッションフルーツの補光には白熱電球が使用されてきましたが、メーカーが製造を終了しはじめていることに加えて、LEDの価格も下がってきていることから、LEDへの切替えが行われ始めています。またパッションフルーツが花芽を形成する際に関係するとされる赤色や遠赤色の波長の光は、LEDであれば任意にコントロールして設計することができるため、白熱電球に比べて効率的に花芽形成の効果が期待できると考えられています。
養液・電照栽培によるパッションフルーツの省力・周年・多収技術(鹿児島県果樹試験場)によれば、「パッションフルーツの花芽形成には、波長が660nmの発光ダイオード赤色光が有効である」とされています。パッションフルーツと同じ長日植物であるトルコギキョウやストックなどでは700nm以上の遠赤色光が開花促進に有効との知見もあります。
自然環境では短日時は温度が低くなり、長日時は温度が高くなる傾向があり、この温度環境も花芽分化を促す条件となります。日が長くなった条件で花芽を形成し発達する温度は15~30℃です。花芽分化は20~25℃で最も良く、25~30℃は落下が多くなり、20℃以下では花芽が付きにくくなります。施設栽培においては、寒い時期には加温、暑い時期にはハウスの開閉による温度抑制を実施する必要があります。
光を調節してパッションフルーツの花芽分化を促進する方法
電照する(補光する)
白熱電球やLEDを用いて、パッションフルーツに長日処理を行う方法です。電照方法は統一的な指針がなく、産地や生産者さんによって異なるようです。パッションフルーツの限界日長時間は10.5~11時間とされていますので、自然環境で日長時間が不足した場合に電球を用いて補光します。赤色高輝度発光ダイオードを用いた電照栽培によるパッションフルーツの開花促進(鹿児島果樹試・栽培研究室)によれば、2月13日~5月10日にかけて23時~4時に電照したパッションフルーツ(奄美のジャンボウ)は、赤色光の電照では開花が無処理区よりも8日、白熱電球区よりも5日早まり、開花開始節位は低く(徒長しにくいということでしょうか)総開花数も多いことが報告されています。LEDは青色・黄色・赤色・赤色+青色・無処理で実験していますが、赤色や赤色+青色が樹体あたりの開花数が多い傾向があるようです。光源が異なると照度が同じでも花芽分化の促進に差が生じる可能性があります。均一な品質を求めるには、同じメーカーのものを使用したほうが良いと考えます。
遮光する
高温期には、ビニールハウス内の温度があがりすぎて、花芽の形成が抑制されたり落果が発生したりする原因となりますので、適当な遮光率の遮光ネットを被覆して温度を抑制する方法です。遮光率が高くなるほどビニールハウス内の温度は抑えられますが、光が減少すると開花数の減少や果実の発育が抑制されることがあります。パッションフルーツにおける高品質果実安定生産のための環境条件の解明に関する研究(島田 温史)によれば、「約30%の遮光処理は樹体生育および開花への影響はほとんどなく、光合成速度が高く、同化産物が多くなったことで、高糖酸比の果実が多く生産されることが明らかになった」と報告されています。環境によって遮光率を十分に検討する必要がありそうです。遮光ネットは、ミスト(細霧冷房)を組み合わせるとより高い温度抑制効果が期待できるようですが、一般的な細霧冷房装置は導入コストが10aあたり150万円程度と高額であるというデメリットがあります。
パッションフルーツの花芽分化の促進におすすめの資材
アグリランプFR|花き向けの遠赤LED
パッションフルーツの花芽分化を促進させるためにおすすめしたいのがアグリランプFRです。花芽分化の促進に適当だとされている赤色や遠赤のLEDチップが組み込まれており、長日処理におすすめです。日長延長の役割だけでなく、効率的に光合成をサポートし品質の良い果実を生長させる効果も期待できます。IP67準拠の完全防水設計で動作環境は-20~50℃と壊れにくいうえに3年間の保証付きです。すでに白熱電球を使用されている場合は、ソケットはそのままで電球を付け替えるだけで手軽に導入することが可能です。白熱電球に比べて消費電力が低いため、運転費用が抑えられるという特長があります。圃場に導入した際のイニシャルコストとランニングコストを試算してみましたので、ご参考になさってみてください。
イニシャルコストの比較
ランプの種類 | 単価 | 設置数 (20㎡あたり1個) |
イニシャルコスト |
---|---|---|---|
白熱電球 | 150円 | 50個 | 7,500円 |
アグリランプ(赤) | 2,620円 | 50個 | 131,000円 |
※10a(1,000㎡)の圃場に導入した場合
3ヵ月のランニングコストの比較
ランプの種類 | 消費電力 (kWh/個) |
3か月の消費電力 (1日3時間電照) |
ランニングコスト |
---|---|---|---|
白熱電球 | 0.060kWh | 810.0kWh | 24,300円 |
アグリランプ(赤) | 0.009kWh | 121.5kWh | 3,645円 |
※30円/kWhで試算した場合
光を活用してパッションフルーツの花芽分化を促進させましょう
果実を増やすためには、花芽を増やさなければなりません。光だけでなく温度や湿度も重要ですが、花芽形成には光が深くかかわりを持っているため、これらを上手にコントロールすることができれば、品質の良いパッションフルーツの生産へ繋がってくるのではないでしょうか。今回のコラムをパッションフルーツの長日処理の参考にしていただけましたら幸いです。
参考資料:
・養液・電照栽培によるパッションフルーツの省力・周年・多収技術(農林水産技術会議事務局)
・赤色LED電球を用いたパッションフルーツの電照栽培(東京都島しょ農林水産総合センター)
・発光ダイオードと細霧冷房を利用したパッションフルーツの春実および秋実の生産(鹿児島県農業開発総合センター)
・パッションフルーツにおける高品質果実安定生産のための環境条件の解明に関する研究(島田 温史)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。