現地レポート
鹿児島県北部のイチゴ農家とトマト農家の現状を鑑みた、みどりの食料システム戦略の捉え方
公開日2024.03.19
更新日2024.03.21

鹿児島県北部のイチゴ農家とトマト農家の現状を鑑みた、みどりの食料システム戦略の捉え方

2024年2月26日、着陸する飛行機の右窓から霧島連山が見渡せた。
薩摩川内市でイチゴ栽培をする永野農園の永野光輝さんとは、弊社が取り扱うLED商品の購入をきっかけに親しくお付き合いをさせて頂いている。筆者は鹿児島県の往訪数えること20回近くに及ぶが、行先の大半が大隅半島で、薩摩半島や北部地域はそれほど詳しくない。今回永野さんのもとに訪問したのは、鹿児島県北部地域の農業をより良く知ることと、最近少しずつ聞こえ始めた「みどりの食料システム戦略」について地域の農家がどのように捉えているのかをヒアリングするため。永野さんの農家仲間でトマト農家の山田悠太さんと、JA北さつまの福田匡晃さんも同席していただき貴重なお話しを伺った。

鹿児島県北部地域のイチゴ栽培における病気と害虫の発生状況

セイコーエコロジア 小島
永野農園のイチゴ栽培について教えてください。

永野さん
父からの引継ぎで10年前から農業を始めました。現在は「さがほのか16a」と「さつまおとめ4a」を高設で慣行栽培しています。それに加えて水稲を6町歩作付けしています。

セイコーエコロジア 小島
イチゴにおける病気と害虫の発生状況について教えてください。

永野さん
私が農業を始めた頃は炭疽病を発生させてしまって苦労をした覚えがあります。灰色かび病に関しては現在になっても出してしまうので予防を怠るわけにはいかない病気です。
害虫は主にハダニとスリップスが発生するので厄介です。ただハダニに関しては天敵ダニを放飼していて最近は随分と慣れてきたので何とかなっている状況です。スリップス対策は土着天敵のタバコカスミカメを利用しています。去年はタバコカスミカメで何とかなっていましたが今年は暖冬で2月なのにもうスリップスが発生しています。今後対策が必要です。

福田さん
近年はチバクロバネキノコバエが発生しています。5~6年前に初確認された害虫で、鹿児島県だと定植前~定植後の時期に幼虫がイチゴのクラウンを食害します。その影響は萎黄病や炭疽病の発生にも関係しているようで、管内だとイチゴばかりやられています。

鹿児島県北部地域におけるイチゴとトマトの作付状況

セイコーエコロジア 小島
以前宮崎県によく行っていましたが、「さがほのか」の生産者が多い印象でした。鹿児島県はどうでしょうか。

福田さん
「さがほのか」がかなり多いです。いちご狩りのような観光農園ではなく、出荷する農家に限ると90%位は「さがほのか」だと思います。最近は「ぴかいちご」という新品種ができましたが、果皮が柔らかくて出荷に向いていないため主な消費地は鹿児島県内になります。

セイコーエコロジア 小島
鹿児島県のイチゴ作付面積はどの位でしょうか。またJA北さつま管内の状況はどうでしょうか。

福田さん
鹿児島県全体のイチゴの作付面積は50ha位だと思います。九州の他県と比較しても少し小さい産地です。JA北さつま管内については現在24人の栽培者が合計で3.5haを作付けしていて、平均年齢は65才を超えていますね。

セイコーエコロジア 小島
JA北さつま管内のトマトの状況は如何でしょうか。

山田さん
トマトは2反ほど管理されている方が多いです。部会には20人位がいて、平均年齢は50才位、若い方と高齢の方がそれぞれ多くて中年の方が少ない構成です。部会の殆どの生産者が大玉トマトを作っていて、私のハウスでは「りんか」を作っています。

化学農薬削減の現実性と有機肥料使用の考え方

セイコーエコロジア 小島
みどりの食料システム戦略において、2050年までに有機栽培の作付面積を100haにする、化学農薬の使用量を50%削減させる、化学肥料の使用量を30%低減させる目標が農林水産省によって掲げられていますが、現場はどのような状況でどのような考えをもっていますか。

山田さん
私のトマト栽培は慣行栽培に従っていますが2週間に1回のペースで農薬散布して、シーズンで15回の散布機会があります。どれくらい化学農薬を減らせるかという問いがあれば頑張って1~2回の散布機会を減らせるかもしれないといったところです。先程タバコカスミカメの話題になりましたが、現状でも天敵を利用して化学農薬を削減する努力をしています。私のハウスでは、トマトの指導員が準備したクリオメの苗を使って、製剤化されたタバコカスミカメを増殖させてコナジラミ対策をしています。

永野さん
殺虫剤に関しては天敵をもっと上手く活用することで少し減らせるかもしれないですが中々難しいと思います。殺菌剤に関しては灰色かび病の発生などを考えると減らすことは絶対にできないです。ただ、減らせるものなら減らしたい気持ちは大きいです。
肥料については私のハウスでは例えば米糠を入れています。イチゴの味を良くしたい目的から投入していますが、有機栽培を目指したいから投入しているわけではありません。他の有機肥料についても同じことが言えます。

赤色LEDを利用した害虫防除技術への考え方

セイコーエコロジア 小島
みどりの食料システム戦略において、化学農薬の削減を目指すマイルストーンとして2030年までに「光を利用した害虫防除技術」の運用を目指しています。弊社では虫ブロッカーという赤色LEDを搭載した防虫灯を取り扱っていますが、この様な新しい技術の導入には積極的になれますか。

永野さん
とても良いと思います。新しい技術が開発されたならば積極的に試していきたいと考えています。

山田さん
私も赤色LEDは良いと思います。ただ実際問題としてコストが気になります。虫ブロッカーにしてもそれなりに費用が発生しますし、新しい技術なので効果が上がらないリスク回避をするためにエビデンスと実績の蓄積を待ってからチャレンジしたいですね。

有用土壌微生物と籾殻に対する考え方と実情

セイコーエコロジア 小島
みどりの食料システム戦略では、土壌微生物の活用や地域資源とされる籾殻の利用を目標達成の重要ポイントにおいていると読み取れます。弊社では、有用土壌微生物のアーバスキュラー菌根菌を含んだ資材のキンコンバッキーや、籾殻炭化装置スミちゃんの取り扱いがありますが、土壌微生物や籾殻の利用についてどのように考えていますか。

永野さん
土壌微生物の有効活用については大きな抵抗なく導入できます。現状も既に某メーカーの土壌微生物資材や乳酸菌を使ってイチゴ栽培をしています。装置や機械の製品と比較してもキンコンバッキーのような土壌微生物資材は低価格でチャレンジできるので良いですね。

山田さん
籾殻については、敷き藁のように通路に撒いて利用しているトマト農家を何人か知っていますよ。一方で、堆肥として利用している方は聞いたことがないです。

永野さん
籾殻も使えるなら使いたいですよ。しかし使うためには堆肥化するなど手間をかけなければならず現状はそれをやる時間が確保できません。籾殻は分解が遅いので、高設栽培のイチゴベンチのことを考えると利用するには工夫も必要です。

福田さん
少なくともJA北さつまでは現在は籾殻を利用する考えはないです。籾殻を利用するにしても管理するにしても人手が必要です。やはり人員を確保する余裕はなく、ライスセンターで発生した籾殻は処分しているのが現状です。

おわりに

今回は、大変忙しい時期にイチゴ農家の永野さん、トマト農家の山田さん、JA北さつまの福田さんにお話を伺うことができた。筆者は今回の九州出張で北は佐賀県まで車を走らせたが九州ではスリップス対策にタバコカスミカメを利用している農家が少なくないことを知った。筆者の出張エリアに偏りがあるものの、たとえば東北や関東ではタバコカスミカメを殆ど聞かない。また、赤色LEDやアーバスキュラー菌根菌は個々の農家が地域や栽培品目に偏りなく関心を持っている様子が弊社への問い合わせ状況から窺えるが、籾殻は行政やJAの単位で関心を持ったり持たなかったりということが散見される。先日訪問した北海道の滝川市地域のJAたきかわでは籾殻燻炭の利用を推進していた。北関東の行政からスミちゃんの問い合わせをいただいた経緯も実際にある。また、有機農業の維持についても鹿児島県の元有機農業者の方(今回のレポートでは登場していない農家さん)から色々なお話しを伺っているが最もネックな事情は毎年の更新料のようだ。中小規模の農家に対する高額な更新料の改善を実施しなければ有機農業の拡大は夢に終わるかもしれない。
みどりの食料システム戦略には端から見ても本当に達成できるのかという目標が多く盛り込まれている。気候や地理的条件など地域性が高い農業に対してこの戦略はどこまで農家をケアできるのか。行政、研究者、技術開発者、JA、農家が密に連携を取って進めなければならないと筆者は感じている。

北海道に導入した籾殻連続炭化装置に関する現地レポートはこちら
>>>スミちゃんの籾殻燻炭と、みどりの食料システム戦略

【参考資料】
みどりの食料システム戦略、~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~(本体)、令和3年5月、農林水産省

鹿児島県北部のイチゴ農家とトマト農家の現状を鑑みた、みどりの食料システム戦略の捉え方

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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