現地レポート
神奈川県のキュウリ栽培におけるモスバリアジュニアⅡレッド設置時期の検討
公開日2021.12.10
更新日2021.12.10

神奈川県のキュウリ栽培におけるモスバリアジュニアⅡレッド設置時期の検討

今回の現地レポートでは、キュウリ栽培におけるモスバリアジュニアⅡレッドの最適な設置タイミングを調査すべく神奈川県平塚市のキュウリ農家様の圃場においてモニター調査を行わせていただきました。
 キュウリ栽培における発生害虫はコナジラミ類、ハダニ類など重要害虫が多数存在しますが、なかでもミナミキイロアザミウマによる被害が最も懸念されています。ミナミキイロアザミウマによって媒介される「キュウリ黄化えそ病」は、ミナミキイロアザミウマの吸汁行動によって被害が拡大していきます。キュウリ黄化えそ病はいわゆるウイルス病であるため一度キュウリ株に感染してしまうと化学合成農薬を使用しても治療することができません。キュウリ黄化えそ病に感染した株は草勢が悪くなるため果実品質が劣化し、着果数も減少してしまうため収量低下も懸念されます。これらを踏まえたうえで、ご協力いただいたキュウリ農家様から、定植~摘心までの約一か月間、ミナミキイロアザミウマの発生を抑えることがその作の良し悪しを決める重要な時期とアドバイスをいただきました。
今回の現地レポートでは、定植~摘心までの約一か月間にモスバリアジュニアⅡレッドの赤色LED光をキュウリ株に照射するとミナミキイロアザミウマの発生を抑制できるか調査を行いましたので、ここにご報告させていただきます。

調査方法

まずは今回の調査の基本情報を下表に纏めます。また、ハウス内のモスバリアジュニアⅡレッドの設置場所について簡略図を示します。

  調査の基本情報
調査品目 キュウリ
調査場所 神奈川県平塚市
定植日 2021年9月4日
調査期間 2021年9月4日 ~ 10月4日
調査日 2021年9月14日、24日、10月4日(計3回)
ハウス面積

1,000m2(20m×50m、3連棟)

モスバリアジュニアⅡレッドの設置場所

・下図参照

・生長点から上50cm程度

設置台数 1台
圃場の全株数 840株
赤色LED照射想定範囲の株数 200株程度
点灯時間 日の出1時間前~日の入り1時間後

調査は定植日である9月4日から10日後の9月14日から10月4日まで、10日毎に合計3回行いました。調査項目は5つ設定し、「調査時のアザミウマ発生程度」「モスバリアジュニアⅡレッドの影響による徒長の有無」「点灯時間」「設置場所の変更」「調査日間における殺虫剤散布の回数」としました。今回の調査は農家様のご協力のもと、予め設定した調査項目について電話およびLINEアプリを使用して観察結果を通達する方法を採用しました。また設定した調査項目以外について、モスバリアジュニアⅡレッドと関連があると思われる事項もご報告をいただいたため今回の調査に反映させていただきました。

調査にはモスバリアジュニアⅡレッドを1台使用しました。設置場所は、ミカンキイロアザミウマの侵入経路として最も懸念される出入口付近とし、尚且つなるべく多くのキュウリ株に赤色LED光が照射できる場所としました。モスバリアジュニアⅡレッドの設置高さは生長点から上50cm程度としました。またキュウリ株の成長に伴って、生長点から上50cm程度となるよう設置高さを定期的に調整しました。この上で、ご協力いただいたキュウリ農家様の3連棟ハウス(1,000m2)に定植された840株に対して、モスバリアジュニアⅡレッド1台で照射できる推定範囲のキュウリ株数は200株程度と試算しました。この株数について、定植時のキュウリ株は草高が低く十分に赤色LED光が届くと考えられるものの、成長するにつれてキュウリ株を垂直方向に誘引することおよび葉が大きく展開することで赤色LED光が遮られ十分な照射ができないことを想定しています。

モスバリアジュニアⅡレッドの点灯時間は日の出1時間前~日の入り1時間後としました。アザミウマ類は背光反応によって太陽光を認知し姿勢を保っています。このことから、赤色LED光の夜間照射に対する有効性は大きくないと考え、日中の明るい時間のみ点灯することとしました。

圃場の様子(2021年10月中旬)

調査結果

調査時のアザミウマ発生程度

9月14日、24日および10月4日の調査においてアザミウマ個体は確認できませんでした。調査日以外においてもアザミウマ個体を確認することはなかったとのことです。しかしながら、キュウリ黄化えそ病の疑いがある株がいくつか発見されたため念のために10株程度を抜根したとのご報告をいただきました。

モスバリアジュニアⅡレッドの影響による徒長の有無

モスバリアジュニアⅡレッドの影響と考えられるキュウリ株の徒長は確認できませんでした。

点灯時間

日の出1時間前から日の入り1時間後に設定し、調査期間中は変更しませんでした。

設置場所の変更

モスバリアジュニアⅡレッドは9月4日に設置し、調査終了まで移動しませんでした。ただし、キュウリ株の成長に伴い、生長点から上50cm程度の位置になるように定期的に高さを調整しました。

調査日間における殺虫剤散布の回数

9月4日から9月24日までにアザミウマ類の殺虫効果のある殺虫剤は散布しませんでした。9月24日から10月4日までにスピノエース顆粒水和剤とカスケード乳剤をそれぞれ散布しました。

 

  2021.9/14 2021.9/24 2021.10/4
調査時のアザミウマ発生程度 なし なし なし
モスバリアジュニアⅡレッドの影響による徒長の有無 なし なし なし
点灯時間

日の出1時間前~

日の入り1時間後

日の出1時間前~

日の入り1時間後

日の出1時間前~

日の入り1時間後

設置場所の変更* なし なし なし

調査日間における

殺虫剤散布の回数**

0回 0回 2回

*但し、キュウリ株の成長にあわせて生長点から上50cm程度に高さを調整しました。

**定植日の9月4日から9月14日までの散布回数を示しました。

 

2021年9月14日の圃場状況

 

2021年9月24日の圃場状況

 

2021年10月4日の圃場状況

 

考察

キュウリは比較的生育の早い果菜類で、尚且つ葉が大きく展開する植物のためモスバリアジュニアⅡレッドの赤色LED光が十分に照射されない懸念がありました。しかしながら、今回は定植直後から摘心までのキュウリ株を調査対象としており草高が低い時期に照射を開始し、摘心までの約一か月間の繁茂の程度が低い時期に対して調査を行いました。この上で、キュウリ農家様よりアドバイスを頂いていた「定植~摘心までの約一か月間、ミナミキイロアザミウマの発生を抑えること」ができたことから、定植から摘心までのモスバリアジュニアⅡレッドの赤色LED光照射によってミナミキイロアザミウマに対する一定の抑制効果が得られると判断できました。前述したように、キュウリ黄化えそ病の疑いがあった株を10株程度抜根したものの、「例年と比較して少ない抜根数だった」とのキュウリ農家様自身のお声も結果を支持しています。

調査ではモスバリアジュニアⅡレッド1台での赤色LED光照射推定範囲の株数を200株程度と試算しました。これにも関わらず、ミナミキイロアザミウマの抑制効果はハウス全体に及んだと示唆できる結果となり、定植から摘心までのキュウリ株の草高が低い時期は1,000m2に1台の設置でも十分な抑制効果が得られると考えられました。この結果を得られた要因として、本キュウリ農家様では、3列先までが見通せるように葉と脇芽を整理しておりモスバリアジュニアⅡレッドの赤色LED光が照射されやすい環境であったことが挙げられます。さらに本圃場では白色マルチを採用しており、モスバリアジュニアⅡレッドの照射効果をより高めたことが予測できました。これらの好条件が揃っていたことが1,000m2に対してモスバリアジュニアⅡレッド1台でミナミキイロアザミウマの抑制効果を高めた要因と推察できました。

キュウリ農家様のご報告から、今回調査したタイミングの平塚市地域では例年と比較してアザミウマの発生が少ないことがわかっています。しかし、「平塚地域の何件かのキュウリ栽培農家の圃場では多少のアザミウマ発生を確認していること」、ご協力いただいたキュウリ農家様圃場において「アザミウマが多い年は9月24日頃までに2回の殺虫剤を散布しているが、本年の殺虫剤散布回数は0回であること」もご報告いただいており、この事実はアザミウマの発生が少なかった2021年度においてもミナミキイロアザミウマに対するモスバリアジュニアⅡレッドの抑制効果があったことを支持しています。

まとめ

今回の約一か月間のモニター調査において、キュウリ農家様より「モスバリアジュニアⅡレッドによる一定の効果を感じることができた」と所感をいただきました。その上で、「定植~摘心までの約一か月間の農薬散布回数を減らすことは可能か?」と言及したところ「減らせても1回。もしものことがあるためアザミウマ対策はこれまで通り行わなければならない。モスバリアジュニアⅡレッドの設置が農薬散布を行わない目的にならない」とのご助言をいただきました。また「今回の調査期間中にアザミウマを見つけることができなかったが、全くいないことは考えにくく、どこかに潜んでいることは間違いないだろう」ということも仰っておりました。

今回の現地レポートはキュウリ農家様の観察を頼りにした調査方法を採用して、キュウリ栽培におけるモスバリアジュニアⅡレッドの最適な設置タイミングと、ミナミキイロアザミウマの抑制効果の検討を行ったモニター調査としてご報告させていただきました。この調査結果はモスバリアジュニアⅡレッドの有効性有無に対するキュウリ農家様の感じた率直な結果と捉えることができると思います。

このご報告が皆様のお役に立ったならば幸いです。

現地レポート終了・・・その後のアザミウマの状況・・・

今回の現地レポートでモニター調査にご協力いただいたキュウリ農家様の“調査後のアザミウマの状況”についてご連絡をいただいたので、ここに報告をさせていただきます。

(今回の作は2021年12月14日を収穫終了予定です)

キュウリ農家様のお声

調査終了後すぐにキュウリ黄化えそ病の疑いがある5-6株を抜根しました。この抜根した5-6株は、「株と株が隣り合わない、離れた場所」でした。例年の抜根の状況といえば、「抜根した株の周囲の株も抜根しています。あるいは、抜根した株と隣り合う株も2-3本連続して抜根している」という傾向がみられます。2021年度の抜根の傾向がモスバリアジュニアⅡレッドを導入した影響なのかは判らないが、作を通して抜根が少なかった結果と感じています。

気温が下がりキュウリ株の体力が弱くなってくるとキュウリ黄化えそ病の発現が増えてきました。この傾向は例年と比較して差がなかったです。そもそも、作の後半になってくるとアザミウマ防除の優先順位が下がってきます。防除への注力が下がるので作の終盤になるにつれてアザミウマの個体数も徐々に増えてきます。そのため、終盤のアザミウマの個体数は例年と比較して大きな差はなかったです。しかし、今回の作はキュウリ黄化えそ病の発現が少なく無事な株が多く残ったので、例年との違いを感じることができました。

神奈川県のキュウリ栽培におけるモスバリアジュニアⅡレッド設置時期の検討

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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