現地レポート
ミシマサイコ栽培に対するアーバスキュラー菌根菌資材の使い方の検討|まつよし農園
公開日2025.11.11
更新日2025.11.11

ミシマサイコ栽培に対するアーバスキュラー菌根菌資材の使い方の検討|まつよし農園

2025年9月23日、昼下がりでも30℃を越える人吉・球磨。
東京はちょうど季節の境目で、半袖では少し肌寒く感じる気候になってきたが九州はまだ少し蒸し暑い。当日は鹿児島県薩摩川内市を出発し、伊佐市で水稲農家を視察してから多良木町に向かった。国道267号線を北上すると熊本県人吉市に抜ける。道の駅人吉で車を降りると真夏の暑さだ。売店のおばちゃんに「今日は暑いですね」と言うと、「今日も、だよ」と返ってきた。盆地だからと言っていたから多良木町も暑いだろうな。まつよし農園に到着して収穫間近の“くまさんの輝き”を見ていると、軽トラの吉村さんが冷たい缶コーヒーを持って現れた。

人吉・球磨地域のミシマサイコ

世界でも有数のミシマサイコ産地である人吉・球磨地域。15年程前に栽培が始まったとのことだが現在は法人を含む約130戸の農家で産地形成されている。吉村さんの話を聴く限りでは生産者間の交流や勉強会がしばしば行われているようだが、肥料の振り方、雑草対策、暑さ対策など課題はまだまだ沢山あるようだ。
株式会社まつよし農園は、2024年から種子収量を確保する目的でキンコンバッキーを利用している。キンコンバッキーはアーバスキュラー菌根菌(以下、AM菌)という土壌微生物を含んだ資材だ。AM菌が植物の根に共生するとリン酸や水分を宿主植物に供給するため、その能力に期待して結実率を高め猛暑に起因する乾燥から脱粒を防ぐことが吉村さんの狙いである。
当地域のミシマサイコ栽培では1月下旬~2月にかけて播種をして11~12月に1回目の種子収穫を行う。収穫はビーンハーベスターで行うので株元はそのまま残る。これを1年かけて再生し翌年に2回目の種子収穫を行う。2回目の収穫が終わると株を掘り上げて根部を採集。この根が漢方薬の原料になる。
ミシマサイコ栽培における最も大きな課題は2回目の種子収量で、吉村さん曰く「1回目と2回目で比較すると半減してしまう」とのこと。更には近年の猛暑で脱粒が発生しやすくなっているため1回目も2回目も収量が減少している。これらの課題を解決するためにまつよし農園では様々な取り組みを講じているがその一環にキンコンバッキーを取り入れている。

キンコンバッキーを使ったミシマサイコ栽培(発芽後の動噴処理)

吉村さんは2024年度播種のミシマサイコに対して発芽後にマルチングをした後キンコンバッキー1000倍希釈水(60L/10a)を背負い式自動噴霧器で散布した。この施用方法はミシマサイコ栽培に知見が無い筆者が現地視察をする以前に提案した方法である。しかし、その後の筆者の現地訪問やヒアリングによってミシマサイコの場合は種子粉衣が最良ではないかと吉村さんとの話し合いに達している(種子粉衣については後述します)。
弊社としてはしっかりAM菌の共生確認をすべきと判断をしたため吉村さんに協力をいただいて2024年2月にキンコンバッキー無処理区と処理区の根を提供してもらった。今回の共生確認ではまつよし農園の実際の生産圃場で栽培されたミシマサイコを供試したが、弊社ではトリパンブルー染色法によるAM菌観察方法しか技術が無いため、キンコンバッキーに含まれるGlomus intraradicesの共生判断はGlomus intraradices類似菌として取り扱い、菌根の内生状態や菌糸の太さなどで分別した。計測の結果、格子交点法において無処理区の平均共生率は7.3%、処理区の平均共生率は19.1%だった。なおGlomus intraradicesではないと思われるAM菌を計測に含めると無処理区、処理区とも90%程度の共生が観察された。
この結果はキンコンバッキーの接種効果は少なからずあったと考えられる一方、期待ほど共生率が高まらなかったとも考えられた。これは筆者が提案した発芽後の希釈水散布方法が適切ではなかったからと思われる。AM菌が植物の根に共生する条件は様々な学術論文で論じられおり土壌pH、土壌水分や土壌リン酸量などが影響するとされているが、その中でも土着菌根菌の影響は少なくないようだ。多くの土着菌根菌がミシマサイコの根に共生しているところを見るとAM菌はミシマサイコに共生しやすいと考えられる。ミシマサイコの場合は発芽後なるべく早くキンコンバッキーのAM菌胞子に接触させないと先に土着菌根菌が共生してしまう確率が高くなると今回の観察で推察できた。
なお今回試験対象とした処理区の収量(2024年11-12月の収穫)は期待ほど上がらなかったと吉村さんから報告を受けている。しかしキンコンバッキーの共生は確認できたので、共生率を上げて接種効果を見出すべく、2025年播種については種子粉衣を試みることにした。

キンコンバッキーを使ったミシマサイコ栽培(種子粉衣)

キンコンバッキーを使ったミシマサイコ栽培のチャレンジ2回目として、まつよし農園では2025年2月20日頃にキンコンバッキーを種子粉衣したミシマサイコの播種を行った。播種は手押し式播種期で行った。種子1kg/10aに対してキンコンバッキー15gを添加する。容器でしっかり混ぜ合わせてから播種期に充填した。キンコンバッキーを粉衣処理したミシマサイコの栽培面積は1.6haで畑3枚分である。畑の一角に3m×3列の無処理区を設置した。畑は3枚あるので無処理区は3m×3列×3か所となる。
2025年は全国的に猛暑で渇水地域も非常に多い年だったが多良木町では幸いにも比較的降水量が確保できたそうで今年は渇水に悩まされず9月末時点で見通しは良いとのこと。9/23の現地訪問では、筆者の素人目にも元気なミシマサイコが満開の花を咲かせている。実付きも良さそうだ。
根の状態を観察すべく処理区と無処理区のミシマサイコをランダムに抜き取った。無処理区より処理区の方が細根が多い。主根も太く、3つに分かれた株もあった。地上部が同程度の株を比較しても処理区の方が根がしっかりしているように見える。
種子粉衣の中間結果としては良い観察ができたので今後11-12月の収穫に向けて順調な生育をして、1年目の収穫量が増えることを期待したい。

おわりに

粉衣処理したミシマサイコについて吉村さんには「途中経過としては良さそう」と評価をしていただいた。筆者も、AM菌処理した色々な植物の根を見てきたが、根量が多いと地上部の生育も良好になるという相関傾向は多いと感じている。種子粉衣したミシマサイコがこのまま順調に生育することを願いたい。
まつよし農園ではミシマサイコ以外にも “くまさんの輝き” (熊本県が開発した水稲品種)にキンコンバッキーを使ってもらっている。例年より茎が太くなり伸びも良好とのことだからこちらの収量も期待したい(高温悪条件にも関わらず例年の5%増で粒も良好と、後日報告をいただきました)。
ちょうど彼岸花がきれいな季節に訪問できた。白、青、緑、黄、赤と都会では見られない田園風景に満たされて、宿までの道中に吉村さん推奨の居酒屋を物色するも入りづらさにビビり、人吉市の有名店“上村うなぎ屋”を覗くも休み。この日は秋分の日だった。開店時間を過ぎているのに定食屋の電気はついていない。たまにはいいかとスーパーで惣菜を買ってから再び車を走らせると、明るくなった定食屋にお客さんが入っているのが見えた。

ミシマサイコ栽培に対するアーバスキュラー菌根菌資材の使い方の検討|まつよし農園

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了。その後2年間農家でイチゴ栽培を経験する。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌とバイオ炭を利用した野菜栽培の研究に着手。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

×
Tweets by SEIKO_ECOLOGIA
youtube
ご注文
見積依頼
お問合せ